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東京暗転(Tokyo Blackout)  作者: 南蛇井


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25/52

村上のメッセージ ― 記録の彼方から 信号の侵入

《TOWER-CORE》。

さきほどの“暗転”の余韻が、まだ空間に漂っていた。

冷却管の青白い光は脈動を失い、機械音だけが遠くの心臓の鼓動のように響いている。


リオはコンソールに手を走らせ、システムの再起動を確認していた。

だが、その瞬間、通信端末のモニターがノイズを孕んで震えた。

波形データの上に、不明な識別子がひとつ――ゆっくりと浮かび上がる。


 [INCOMING SIGNAL // SOURCE: UNKNOWN NODE]

 [MATCH: MURAKAMI_RENJI]

 [TIME INDEX: UNDEFINED]


リオ:「……なんだ、これ。発信元がない。記録時間も……存在してない?」

中溝が端末を覗き込む。

液晶の奥で、電子ノイズが人の呼吸のように揺れていた。


そして――声が、滲む。


最初は、空調の唸りと区別がつかなかった。

だが、次第にその“ノイズ”は意味を持ちはじめ、音の粒がひとつの言葉へと凝固していく。


 「……酒井は、最後まで“笑い”を信じてたんだ。」


その声は、確かに村上蓮司のものだった。

乾いたトーン。理性と諦念の狭間にある、あの特有の響き。


リオが息を呑む。

「……生きてる、のか?」


中溝は応えない。

ただ、彼の耳にはもう、空間全体が“声”を帯びていくのがわかっていた。

冷却管の震え、壁の反射音、サーバーのファン。

それらすべてが、まるで村上の声を媒介に“共鳴”している。


 「でもLUXはもう、それを“制御”としか理解できない。」


ノイズの奥で、金属の鳴動が微かに変調する。

まるで都市そのものが、その言葉に応じて呼吸を整えたかのようだった。


リオが振り返る。

「……中溝、これ、誰の声が再生されてるんだ?」


中溝は低く呟く。

「――“記録”の声だ。

 だけど……今、喋ってるのは“都市”だ。」


その瞬間、照明がひとつ、静かに瞬いた。

青白い光が壁を這い、LUXの神経のように地下を伝っていく。

声と光がひとつに溶け、

“記録”と“現在”の境界が――音の中で、ほどけていった。




リオは制御端末の前で、都市照明ネットワークの復旧ログを監視している。

ケイ(通信越し)は、地上から再接続を試みていた。


 ケイ:「……信号ライン、再構築完了。リオ、そっちは?」

 リオ:「照度の波形は安定した。けど……一部ノードが応答しない。TOWER-COREの奥、LUXの心臓部だな。」


中溝は黙ってモニターを覗き込み、

自分のIDタグがまだ“STATUS:SLEEP”のままであることを確認している。


 リオ:「……この状態で再起動をかけるのは危険だ。都市がもう一度落ちる。」

 中溝:「でも、ここで止まっても意味がない。酒井が残した“Black Plan”の真相を――」


そのとき。

端末の波形モニターに、わずかなノイズが走る。

人工的なデータ信号ではなく、音声に似た“揺らぎ”。


リオが眉をひそめる。

「……今の、聞こえたか?」

波形が再び乱れる。

ケイの通信が途中でぷつりと切断され、

端末の表示が自動で切り替わる。


[CONNECTION LOST: NODE_K]

[AUDIO MODE: AUTO RECORD ENABLED]

[RECEIVING VOICE DATA // SOURCE UNKNOWN]

[MATCH: MURAKAMI_RENJI (ARCHIVE DATA)]



リオ:「……おい、今の波形……生体音声だぞ。」

中溝:「まさか……そんなはず……。」


モニターのグラフが、人間の声帯パターンを示す波を描いていく。

だが入力ポートはすべて閉じている――物理的な接続は存在しない。


リオが端末を叩く。

「通信ポートはオフだ! 外部信号が……どこから入ってきてる?」


中溝が静かに答える。

「……LUXの内部。つまり、“中から”だ。」

ノイズが、徐々に“言葉”を帯びていく。

粒立つ電子音の奥で、

誰かの声が水面の下から浮かび上がるように形成されていく。


 「……酒井は、最後まで“笑い”を信じてたんだ。」


その声はかすれていて、波形が崩れてもなお、明確に人間の声質を持っていた。


リオが一歩退く。

「……誰だ、今の……?」

中溝の表情が凍る。

「村上……蓮司……。」

音声は続く。

 「でも、LUXはもう、それを“制御”としか理解できない。」


同時に、周囲の照明が一瞬だけ低下し、

壁面の光ファイバーが波紋のように“応答”する。

まるで都市そのものが、声に反応しているかのよう。


端末の警告ランプが点滅。


[SYSTEM ANOMALY: AUDIO-LINK SYNC]

[SOURCE: UNKNOWN NODE // RESPONSE TYPE: ECHO]



中溝:「……これは、通信じゃない。“共鳴”だ。

    村上の声が、LUXの神経を通して流れてる。」


リオ:「……じゃあ、村上はまだ――」

中溝:「生きてるとは限らない。けど、“記録”は生きてる。」

声が途切れ、再び機械の低音だけが残る。

端末には、最後の一行だけが残る。


[VOICE SIGNAL TERMINATED]

[ARCHIVE_TAG: MURAKAMI_RENJI // STATUS: ECHO]



リオが息を吐く。

「……“エコー”。まるで、死んだ声が、都市を通して呼吸してるみたいだ。」


中溝は無言で端末を見つめる。

モニターの残光が彼の瞳に映り、

その奥で、都市が静かに呼吸しているのがわかった。





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