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絶禊ノ剣  作者: ハム大福
9/14

第九話:嵐の夜の密やかな鼓動と窮地の姫抱き


夜が深まるにつれて、窓を叩く雨の音はさらに激しさを増していた。


「本当にトワには申し訳ない事をしたな、謝って何とかなる問題じゃないけど」


シンは3人が風呂に入った後、トワに許してもらい風呂に入る事ができた。

『これ、入っても良いのか?』

入る前に3人が入った湯船に浸かっていいのか考えたが風呂の力には勝てなかった。


深夜

鈴とサキの部屋の明かりが消えたことを確認すると、シンはそっと自分の部屋を出た。

この家にはベットがある部屋が2つしかない為。


ベッドがある自分の部屋をトワに譲り、自分はリビングのソファで寝るつもりだった。

それが、この状況における最も妥当な選択だと考えていた。


シンがリビングへと向かうと、そこにはまだ起きているトワがいた。

彼女はソファに座り、持参したタブレットを操作している。

いつもの彼女と同じように、冷静で、知的で、隙のない姿だった。


「トワ、ベットがある部屋があるけど寝ないの?」


シンが声をかけると、トワはタブレットから顔を上げ、シンをまっすぐに見つめた。

その瞳には、タブレットの画面の光が反射して、いつもより少し柔らかく見えた。


「憑陰くん……。あなたこそ、どうしたのですか?」

「えっと……ベットがある部屋がもう俺の部屋しかないから、トワがベットで寝て、俺はソファで寝ようかなって。鈴とサキは、他の部屋で寝るみたいだから。」


シンの言葉に、トワはしばらく考え込むように静かになった。

彼女の思考回路が、この状況における最適な解を導き出そうとしているのがシンには分かった。

そして、彼女は立ち上がり、まっすぐにシンを見据えた。


「……憑陰くん。私と一緒に寝てください。」


トワのその言葉に、シンは驚きと混乱で、頭の中が真っ白になった。

顔に熱が集まり、全身の血が沸騰するような感覚に陥る。


「え、えぇっ!?な、なんで!?」


どもりながら尋ねるシンに、トワは少し照れくさそうに、しかし、いつもの冷静さを保って答えた。


「……あなたと、もっと、羅禍について話したいのです。羅禍のデータ、羅睺の瘴気、そして、あなたの虚淵の力について……。あなたの虚淵の力は、羅禍を滅ぼすための、希望の光です。

でも、その力は、あなた自身を蝕んでしまいます。だから、私はその力を、羅禍を滅ぼすための、本当の力へと導きます。

それが、私のもう一つの任務です。そして……あなたの霊核の安定化を、最も効率的に行うには、あなたと霊的な距離を近づけることが、最善の選択だと判断しました。」


トワの言葉は、完璧な論理で構築されており、シンは反論の余地がなかった。

しかし、彼女の言葉の裏に、別の感情が隠されているような気がして、シンは少しだけ戸惑った。

彼女の冷静な言葉の端々に、わずかに緊張が滲んでいるように感じられたのだ。


「……わかった。じゃあ、一緒に寝ようか。」


シンがそう言うと、トワは、ほんの少しだけ、表情を和らげた。

二人はシンの部屋へと向かう。部屋にはベッドが一つしかない。

二人はベッドに横になり、お互いに背を向けた。

背中越しに、トワの存在を強く感じ、シンの心臓は激しく鼓動を打つ。嵐の夜の喧騒も、今の彼には届かなかった。


シンは、ドキドキして、なかなか寝付くことができなかった。トワの寝息が聞こえてくる。

しかし、その寝息は、どこか緊張しているように聞こえた。


「トワ……。もしかして、起きてる?」


シンが、小さな声でトワに話しかける。

一瞬の沈黙の後、トワの声が、静かに返ってきた。


「……ええ。まだ、眠れません。」


トワは、シンに背を向けたまま、静かに言葉を続けた。


「……憑陰くん。私は、データに基づいて、合理的な判断をすることが得意です。感情という、不確定な要素を排除し、常に最適な解を導き出してきました。でも……あなたの隣にいると、私の思考回路が、少しだけ、乱れるのです。」


トワの言葉に、シンは驚きを隠せない。

いつも冷静沈着な彼女が、自分の感情を口にしている。

それは、シンにとって、衝撃的なことだった。


「……羅睺との戦い、虚淵の力、そして孤独。そんな経験をした貴方を私は、あなたを羅禍を滅ぼすための『特異点』として、冷静に分析してきました。でも、今日の夕食会、そしてこの部屋であなたと二人きりでいると……私の心の中に、これまで存在しなかった、不確定な感情が芽生えているのを感じます。」


トワは、シンに背を向けたまま、言葉を続けた。


「……あなたと一緒にいると、羅睺の瘴気から解放されたような、温かい気持ちになるのです。これは、私のデータにも、過去の経験にもない、未知の感情です。」


トワはシンに対して嫌な気持ちは無いという事を伝えた。

トワの言葉に、シンの心は、温かい光に包まれていた。

羅睺を滅ぼすための『特異点』としてしか見られていないと思っていた自分が、トワにとって、特別な存在になりつつある。

その事実に、シンは、心が震えるような感動を覚えていた。


「……僕もだよ。僕も、トワと一緒にいると、なんだか、温かい気持ちになるんだ。」


トワは自分自身も気づいていないが、世間一般では告白したようなものだった。しかし、このクソボケは、仲間として認めてもらったと解釈した。

シンがそう言うと、トワは、沈黙した。

しかし、その沈黙は、居心地の悪いものではなかった。


『...なんでやっぱりシンさんと関わると心臓がドキドキするのでしょう』


トワは自分の新しい感情に気が付かないまま、その暖かさに身をゆだねた。

嵐の音は、まだ激しく窓を叩きつけている。

しかし、シンとトワの心の中には、嵐とは対照的な、穏やかで温かい感情が満ちていた。


二人は、そのまま、朝まで、何も話さなかった。

しかし、その間に、二人の距離は、少しだけ、近づいたように感じられた。

シンは、トワの隣で、ドキドキしながらも、安らぎを感じていた。


この時溟禍が、


『...なんで好きなのに抱きしめないかなぁ?この器...君の気持ちに気づいてないと思うよ』


とシンにも聞こえない囁き声で言った事は誰も知らない。



夜が明け、嵐が去った後の朝は、清々しいほどに晴れ渡っていた。シンは、心地よい光に目を覚ます。

しかし、体の重みと、背中に感じる温かさに、彼はまだ夢の中かと錯覚した。

ゆっくりと身を起こそうとすると、ぎゅっと抱きしめられていることに気づく。


視線を下ろすと、そこには、安らかな寝息を立てて眠るトワの姿があった。彼女の顔は、いつも身につけている眼鏡がなく、子供のようにあどけない表情をしていた。

普段の冷静で知的な姿からは想像もつかないほど無防備なその姿に、シンの心臓は激しい音を立て始める。


トワは、シンの体を抱き枕のように抱きしめ、頬を彼の背中に擦り付けていた。

その仕草は、まるで甘える子猫のようで、シンは動くこともできずに固まってしまう。


「と、トワ……?」


シンが小さな声で呼びかけると、トワは身じろぎ一つせずに、さらに深くシンの体に顔を埋めた。


「ん……憑陰くん、もう少し……このままで……」


寝言なのか、それとも無意識の言葉なのか。その甘えたような声に、シンは顔が真っ赤になるのを感じた。

この状況でトワを起こすこともできず、シンはただ、彼女の温かさと、柔らかさを感じながら、時間が過ぎるのを待つことしかできなかった。


昨夜、二人の間で芽生えた温かい感情が、確かな形となってそこにあった。羅禍との戦い、虚淵の力、そして孤独今まで経験してきた物、それらが全て、この温かい日常の中で、癒されていくようだった。

羅睺を滅ぼすだけでなく、誰かを守ること。

それは、シンが大切にしていることの一つだ。


しばらくして、トワがゆっくりと目を覚ました。

彼女は、自分がシンのことを抱きしめていることに気づくと、顔を真っ赤にして、慌ててシンから体を離した。


「ひっ!?わ、私としたことが……!し、失礼しました、憑陰くん!」


トワは、自分の失態をデータに照らし合わせるかのように、必死に頭を回転させているのがシンには分かった。

その様子は、昨夜の悲鳴と同じくらい、シンには新鮮な驚きだった。


「だ、大丈夫だよ。トワがぐっすり寝てたみたいで、よかったよ。」


シンは、少し照れくさそうに笑いながら、トワに優しく言葉をかけた。その言葉に、トワはさらに顔を赤らめた。


「……ありがとうございます。ですが、私の計算によれば、これは許容範囲を完全に超えた、最大のミスでした。なので、このミスの原因を、早急に特定する必要があります……!」


トワは、慌ててタブレットを手に取り、自分の心拍数や体温のデータを解析し始める。

その様子に、シンは思わず笑ってしまった。

 

その日の午後、シンと鈴は、二人で羅睺の討伐任務に向かっていた。

サキとトワは、別の任務で、街の反対側へと向かっている。

羅睺の瘴気が最も濃い場所、廃墟となった古い神社。

そこには、一体の羅禍がいた。羅禍は、羅睺の瘴気を吸収し、禍々しい光を放っている。


「羅禍、発見したよ!羅禍の数は、一体!羅睺の数が異常に多い。コレは羅禍が、羅睺を統率してるね」


鈴が、弓を構え、警戒する。無数の羅睺が、シンたちに襲いかかってきた。

鈴は、羅睺の群れを浄化の矢で薙ぎ払い、羅禍へと向かうシンへの道を切り開いていく。


「シンくん!羅禍の霊核を狙って!」


鈴の言葉に、シンは漆黒の刀を構え、羅禍へと向かって夜闇の中を駆け出した。羅睺の群れが、シンに襲いかかってくるが、鈴の弓が、羅睺の群れを薙ぎ払う。

しかし、その時、一体の羅睺が、鈴の死角から、彼女に襲いかかってきた。


「危ないっ!!」


シンが叫び、鈴へと駆け寄るが、間に合わない。羅睺の瘴気が、鈴を包み込もうとする。

その時、シンは、無意識のうちに虚淵の力を発動させた。彼の体が、一瞬にして、鈴の目の前に移動していた。


「え、シンくん!?」


鈴が驚きの声を上げる。

シンは、羅睺の瘴気から、鈴を庇い、彼女を抱きかかえていた。


「大丈夫か、鈴。怪我はない?」


シンが、鈴の体を抱きかかえたまま、心配そうに尋ねる。

鈴は、顔を真っ赤にして、シンをまっすぐに見つめた。


「だ、大丈夫……。ありがとう、シンくん。」


鈴は、シンに抱きかかえられたまま、何も言えなくなってしまった。シンは、鈴を抱きかかえたまま、羅禍へと向かっていく。


「シンくん……」


鈴が、シンを呼ぶ。シンは、鈴を抱きかかえたまま、羅禍へと向かっていく。


「羅禍は、僕がなんとかする。鈴は、僕を信じて。」


シンがそう言うと、鈴は、シンに全てを預けるように、彼に身を任せた。シンは、羅禍へと肉薄し、漆黒の刀を構える。


「『無明一閃・虚空断罪』」


虚淵の力を完全に纏った一閃は、羅禍の霊核のまさに中心を貫いた。

羅禍が完全に消滅し、廃墟の神社には静寂が戻った。

羅禍の瘴気が晴れる中で、シンは、鈴をお姫様抱っこのまま、地面にそっと降ろした。

鈴は、顔を真っ赤にして、シンをまっすぐに見つめていた。


「し、シンくん……流石に私でも怖かったな〜」


鈴が、小さな声でシンを呼ぶ。シンは、鈴の顔をまっすぐに見つめ、優しく微笑んだ。


「ごめん、でも大丈夫だよ。鈴は、僕が守るから。安心して。」


その言葉に、鈴は、心が温かくなるのを感じていた。


羅睺を滅ぼすだけでなく、誰かを守ること。

そして、誰かと共に、温かい時間を過ごすこと。それが、シンが戦う理由だったが、今は仲間のおかげで毎日楽しく生活出来ている。


シンは鈴を許可なくお姫様抱っこしてしまった事に気まずさを感じていたが、鈴は気まずさを感じていなく、逆にシンに抱きしめてられている感覚に驚きながらも幸せを感じていた。


敵を倒した二人の間には、羅睺との戦いとは違う、温かくて、特別な空気が流れていた。


主人公がハーレム作ってる・・・

作者は、こんな甘酸っぱい恋愛をした事がないので分かりませんが主人公には爆発して欲しいです。

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