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絶禊ノ剣  作者: ハム大福
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第八話:嵐の夜の珍事と、それぞれの居場所


ショッピングモールでの束の間の平和な時間、シン、鈴、トワ、そして天衝サキの四人は、ごく普通の高校生に戻っていた。


トワはファッション誌のデータに基づき、シンの服をコーディネートし、鈴は甘いクレープを笑顔で頬張り、サキは周囲の喧騒を警戒しながらも、どこか穏やかな表情を浮かべていた。


羅睺の瘴気から解放された空間で、彼らは心から安堵していた。

四人は、甘い香りが漂うクレープ店で、思い思いのクレープを注文した。

鈴はストロベリーとホイップクリーム、トワはフルーツミックス、シンはチョコバナナ、そしてサキは、意外にもシンプルなシュガーバターを注文した。


「天衝さん、甘いものが好きなんだね〜」


鈴が、サキに話しかける。

サキは、クレープを一口食べると、鈴をまっすぐに見つめた。


「別に、好きじゃない。ただ、霊力を安定させるには、糖分が必要なだけだ。羅睺との戦いで、霊核が疲弊しているからな。」


サキの言葉に、鈴は少し寂しそうな表情を浮かべる。

サキは、羅睺との戦いを、ただの任務として捉えている。

その言葉からは、羅禍を滅ぼすという使命感しか感じられなかった。


「天衝さん、羅睺との戦いは、楽しいことだけじゃないけど、僕は……皆と一緒にいると、楽しい、って思うんです。」


シンが、勇気を出してサキに話しかける。

サキは、シンを冷たい瞳で見つめた。


「楽しいだと?お前は羅睺との戦いに、楽しさを求めていたのか、楽しいことなんてあるわけない。羅睺は、人間から全てを奪う悪魔だ。私の存在理由は、羅睺を滅ぼすこと。ただ、それだけだ。」


サキの言葉に、シンの心に、重いものがのしかかる。

彼女の言葉からは、羅睺への憎悪と、羅睺を滅ぼすという、狂気にも似た執念しか感じられなかった。


「……そう、ですね。羅睺との戦いは、危険で死ぬこともあるかもしれない。でも、僕は……羅睺を滅ぼしたいだけじゃない。いつか羅睺との戦いで死んだとしても今、皆と一緒に、笑いたいんです。そんなサキさんにとって良い事じゃなくても、俺は平和な日常を、守りたいんです。」


シンが、サキをまっすぐに見つめる。

彼の瞳には、羅睺への恐怖ではなく、仲間を守りたいという、強い決意が宿っていた。

サキは、シンの言葉に、何も反論できなかった。彼女の瞳には、羅睺への憎悪と、シンへの困惑が混じっていた。


その日の帰り道、シンは、トワと鈴、そしてサキの三人を見て、心が温かくなるのを感じていた。

羅睺との戦い、虚淵の力、そして孤独。それらが全て、この温かい日常の中で、癒されていくようだった。

羅睺を滅ぼすだけでなく、誰かを守ること。


そして、誰かと共に、温かい時間を過ごすこと。それが、シンが戦う理由だった。

四人は、シンたちの家へと向かった。

「今日は、俺がご飯を作るね。」

シンは、料理をしようとした。

「ちょっと待ってね?シンくんは、いつも料理してるんだよね〜だったら、今日ぐらいは私たちがいるのだから任せてよ〜」

「いや、でも、うーん、じゃあお願いします」


シンはまだ内気だった。

鈴が料理をすると押し切ったことでシンは少しの時間暇になった。

トワは、鈴の料理の手伝いをし、サキは、リビングのソファで、無表情にスマホをいじっていた。


「天衝さん、手伝わなくていいんですか?」


シンは、サキに話しかける。

サキは、スマホから顔を上げ、シンをまっすぐに見つめた。


「別に、手伝う必要はない。羅禍との戦いには、霊力を温存する必要があるからな。」


サキの言葉に、シンは少し寂しそうな表情を浮かべる。

サキは、羅睺との戦いを、ただの任務として捉えている。

その言葉からは、羅禍を滅ぼすという使命感しか感じられず自分の意思というものを感じなかった。


「でも、皆で料理を作ると、楽しいですよ。羅睺との戦いのこと、少しだけ忘れられます。」


シンが、サキに話しかける。

サキは、シンを冷たい瞳で見つめた。


「そんな"飯を作るだけの時間に。そして、何故無駄な時間を消費して作る?別に食べれればそれで良いだろう。だから、料理に何の意味がある?そんなもの従者にでも作らせれば良いだろう"」


サキは自分が思っていることを言っただけだ。

だが、この世には料理したくても出来なかったり、満足に食事を取れる人だけでは無いことを気にしていなかった。

そして、シンも親が死んでしまったことで食事が喉を通らなかった日々もある人間だということを知らなかった。


「...あ?時間の無駄だと?流石に発言を訂正しろ。お前は料理を作ってくれる人がいて有り難さを知っているかもしれないが、俺は親が早く死んでるんだよ。だからな、温かい母の料理も有り難さを分かる前に今後一生食べれなくなった。それの俺が望んでも叶わない夢をお前は時間の無駄だと言ったな謝れよ。今、俺たちのために料理を作ってくれてる皆んなにも。」


シンはサキの発言に珍しく感情がでてしまった。

周りにいた3人は、急にシンが感情を出した事に驚く。


「っ...クソッ...時間の無駄といった事は反省する。だが、何故手伝う必要がある?」

またここでもサキはシンに聞いてしまった。

「...うるさい!とにかく鈴達を手伝え!」

シンは手伝う理由までは考えていなかった。だから、サキの手を持ってキッチンに押し込んだ。


「シンは貴方が手伝うまで頑固だから待つと思うからやった方がいいよ〜?」

「そうね、彼は頑固ですね...だから面白いですけど」


鈴とトワはサキに手伝うように説得する。


「何故、私がこんなことしなければいけないんだ。」


シンが睨むなか、サキには手伝う選択肢しかなかったのだ。



シンの家で、四人の夕食会は和やかに進んでいた。

食卓に並んだのは、鈴が手際よく作った、家庭料理の数々。

温かい肉じゃが、ふっくらと焼きあがった鮭、そして色とりどりの野菜サラダ。

サキは最初は遠慮していたものの、鈴に勧められると、静かに箸を進めていた。


「すごいな、鈴。こんなに美味しい料理、初めて食べたよ。」


シンが素直に感想を口にすると、鈴は顔を赤らめて照れくさそうに笑った。


「そ、そんなことないよ〜でも、みんなが美味しいって言ってくれると、嬉しいねぇ〜」


トワは、料理の栄養素を解析しながら、満足そうに頷いた。


「栄養バランス、完璧です。鈴さんの料理の腕は、私の予想を上回るものですね。」


サキは、黙々と肉じゃがを食べていたが、一口食べると、ふと手が止まった。

彼女の表情は、どこか懐かしむような、切ないものに変わっていた。


「……美味しい。」


小さな、しかし心のこもったその一言に、シンたちは驚き、そして安堵した。

羅禍を滅ぼすことだけを考えていたサキが、この温かい食卓で、ほんの一瞬だけ、普通の少女に戻ったように感じられたからだ。


食事が終わり、片付けを終えた後、突然、窓の外で激しい雨音が響き始めた。

外を見ると、先ほどまでの穏やかな天気は嘘のように、土砂降りの雨と激しい雷に変わっていた。


「うわぁ、すごい雨だ……。これじゃ、帰れないな。」


シンが窓の外を見て呟くと、3人も不安そうな表情で頷いた。


「トワさん、天衝さんも、今日はうちに泊まっていって。こんな雨の中、帰るのは危ないから。」


シンの言葉に、サキは少し戸惑っているようだった。

しかし、トワはすぐに状況を分析し、最適な結論を導き出した。


「ありがとうございます。現在の気象データによると、この雨は数時間、止まない可能性が高いかと、なのでお言葉に甘えさせていただきます。」


トワの返答に、サキは何も言わなかったが、その表情には、ほんの少しの安堵が浮かんでいた。


四人は、リビングで過ごすことになった。

トワは、持参したタブレットで、羅睺の瘴気の変動データを解析し、サキは、窓の外の雷の光をじっと見つめている。

シンと鈴は、テレビでバラエティ番組を見て、他愛もない会話を楽しんでいた。

しばらくして、トワが立ち上がった。


「皆さん、私は先にお風呂に入らせていただきます。羅禍の瘴気に晒された霊核を浄化するには、温かいお湯に浸かることが有効かと。」


トワは、そう言って洗面所へと向かう。

シンたちは、トワがいつもと変わらない様子で、風呂へと向かうのを見ていた。

しかし、シンがトイレに行こうと立ち上がった時、彼はうっかりとトワが風呂に入っていることを忘れていたのだ。


当然彼は、洗面所の扉を開けてしまい、そこには、湯気の中に佇むトワの姿があった。


「うわぁっ!?」


シンは、驚きのあまり、思わず声を上げてしまう。そして、その声に反応し、トワが振り返った。


「ひっ!?きゃあっ!!」


普段は冷静沈着で、感情を表に出すことがないトワが、珍しく悲鳴を上げた。

その声は、リビングに響き渡り、シンと鈴、そしてサキの耳に届いた。


「どうしたの〜?」


鈴が、何があったと困惑しながら洗面所へと駆けつける。続いて、サキも鋭い表情で洗面所へと向かった。


洗面所の扉の前には、顔を真っ赤にして固まっているシンと、湯気に隠れて顔を赤くしているトワの姿があった。


「...シンくん〜?何してるのかなぁ〜?」


鈴が、優しくシンを問い詰める。

サキは、無言でシンを睨みつけていた。その瞳には、怒りの炎が燃え上がっている。


「ご、ごめん!トワがお風呂に入っているなんて、知らなくて……!」


シンは、顔を真っ赤にして謝る。

トワは、湯気に隠れながらも、怒りの表情を浮かべていた。


「……憑陰シンくん。この状況の、一体どの部分が『知らなかった』と言えるのですか?私の入浴を予測できなかったというのですか?」


トワの冷静だが、怒りがにじむ声に、シンは何も反論できなかった。


「シンくんは、もう今日は寝ててね〜私たちでお風呂の順番決めるから。」


鈴が、シンを寝室へと追いやり、シンは、しょんぼりとした表情で、寝室へと向かった。

その後、鈴とサキが、トワをなだめ、お風呂の順番を決める様子が、シンには聞こえてきた。


シンは、自分の番を待つ間、今日の出来事を振り返っていた。

トワの珍しい悲鳴、鈴の怒った顔、そしてサキの無言の怒り。羅睺との戦いとは違う、平和な日常の中での、ハプニング。

それは、シンにとって、経験した事がない、とても温かくて、大切な時間だった。

外の雨音はまだ続いていたが、仲間がいる大切さを胸に誓った瞬間だった。


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