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絶禊ノ剣  作者: ハム大福
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第三話:交錯する運命


羅睺との戦いも、束の間の小康状態。

とはいえ、憑陰シン、神楽鈴、真理トワの三人は、相変わらず封禍衆の監視下にあった。


放課後

トワが

「憑陰くんの霊核データに変化が見られないか、日常的な環境下での観察も必要」

と、もっともらしい理由をつけて、三人で近くのショッピングセンターに行くことになった。


シンは慣れない状況に戸惑いを隠せない。

溟禍が脳内で呆れたように囁く。


『はぁ……キミってホント、敏感なやつだね。こんな場所でまでそんなに緊張してちゃ、ボクの輝きが鈍るじゃないか。』


広々としたショッピングセンターは、シンにとって非日常そのものだった。

多くの人々が行き交う賑やかな空間は、羅睺の気配も多く、彼をひどく落ち着かなくさせる。

鈴は淡々と周囲の警戒を怠らず、トワは興味深そうに店内の構造や人の流れを観察していた。


「ねぇ、あそこ、見てください。」


トワが指差したのは、ゲームセンターの入り口にずらりと並んだクレーンゲームだ。

色とりどりの景品が並び、子供たちの歓声が聞こえる。


『ボクは運任せのものは好きじゃないね。確定でお客さんから笑顔が取れるか、分からないからな。」


溟禍が鼻を鳴らす。そんなシンにしか聞こえない会話は知らないままトワは


「憑陰くん、コレは暇つぶしにはなるんじゃないでしょうか、ついでなので勝負しないですか。」


トワの提案に、鈴が少しだけ目を見開いた。


「勝負か〜……私は、あまり得意では無いし、護神家として、不器用な姿を見せるわけにはいけ無いけど楽しそうだね〜」


その言葉には、普段の明るさとは裏腹に、どこか負けず嫌いな一面が垣間見える。

そして、三人のクレーンゲーム対決が始まった。

最初に挑戦したのはトワだ。

彼女は景品の重心やアームの動きを冷静に分析し、数回の試行錯誤の末、見事に人気のキャラクターぬいぐるみを手に入れた。


「ふむ。確率と物理法則を組み合わせれば、この程度は容易ですね。」


トワは淡々と告げ、どこか満足げな表情を浮かべる。

次に鈴の番だ。

彼女は慎重にアームを動かし、無駄のない動きで景品を狙う。

一度、アームが景品を掴み損ね、悔しそうに唇を噛んだ。

しかし、二度目の挑戦では、先ほどの失敗を即座に修正し、正確な操作で狙った景品を完璧にゲットした。


「……護神家としてね〜あまり、何回も失敗することは許容範囲内では無いけど、案外すぐに挽回できて何よりだよ〜」


彼女の言葉には、重圧と、それを乗り越えた安堵が混じっていた。


そして、シンだ。

彼はアームを動かすたびに景品をかすめたり、あらぬ方向に飛ばしてしまったりと、散々な結果に終わる。

何度挑戦しても全く取れず、最後は諦めたように肩を落とした。


『はぁ……キミってホント、何をやらせても不器用なんだから!ボクの器がこんなにヘタクソだなんて、恥ずかしい限りだよ!』


溟禍の呆れた声が、シンの頭に響く。

トワは淡々とシンのスコアを記録し、

「データとしては、予測通りですね」と結論付けた。

鈴も特に何も言わず、ただ静かにシンを見つめている。

二人は先に別の店に行こうと歩き出した。

シンは俯きながら、二人の背中を追おうとした。


その時、彼の耳に、すぐ隣のクレーンゲームから小さな女の子の声が聞こえた。


「うう……全然取れないよぉ……」


幼稚園児くらいの女の子が、小さな手で何度もボタンを叩いているが、クレーンは予想と違うところに行ってしまい景品はびくともしない。

その様子は、まるで先ほどの自分を見ているかのようだった。


シンは足を止めた。

彼の羅睺が見える目は、その女の子の心から漏れ出る、小さな「諦め」と「悲しみ」の気配を捉えていた。


シンは、ふと、両親を失った時の自分を重ね合わせた。あの時、誰も助けてくれなかった。

そして自分も、何もできなかった。


「……あの、大丈夫?」


シンは、つい声をかけてしまった。

女の子は驚いてシンを見上げる。

自分の不器用さは、痛いほど分かっている。

それでも、この子を、目の前の小さな「悲しみ」を、放っておけなかった。


「もうちょっと、こう……アームをここに持ってきて、それで……」


シンは下手なりに、女の子にアドバイスを始めた。

アームの動きを見ても、どうすれば景品が取れるか全く分からない。


それでも、彼は必死に、女の子の笑顔を取り戻そうと、ぎこちない手つきでボタンを教えていた。

その光景を見ていた鈴とトワは、歩みを止めていた。


「……彼の行動、合理性に欠けますね。羅睺の瘴気反応もありませんし、彼にメリットは一切ない。」


トワが冷静に分析する。


「うん……そうだよね〜……。」


鈴は、言葉を詰まらせた。

彼女の瞳は、シンに向けられていた。

これまで監視対象として、危険な虚淵の器として見てきたシンが、今、無防備な優しさで子供に接している。

それは、名家の使命と重圧の中で、感情を捨て去ってきたはずの鈴の心を、微かに揺さぶった。


「……彼は、危険な存在かもしれないけど〜同時に……とても、優しい人なのかもね〜」


鈴の口から出た言葉は、彼女自身も驚くほど、柔らかい響きを帯びていた。

その横で、トワも静かに頷いた。

彼女の表情も、いつもの知的な冷徹さの中に、わずかながら温かみが混じっている。


シンの中にいる虚淵の存在は変わらない。

だが、彼らがシンを「ただの器」ではなく、「優しい人間」として認識し始めた瞬間だった。


シンは、自分のお金が無くなりそうでも続け、ようやく3000円使ったあたりの頃景品を取る事ができた。

学生にとっては痛い出費だが

女の子が笑って「ありがとう!」と言うのを聞いて、頑張って良かったとシンも笑顔を浮かべた。

その表情は、羅睺の影に怯え、心を閉ざしてきた彼が、少しだけ前を向いた瞬間を捉えていた。



ショッピングセンターでの一件以来、シンの日常はわずかに、しかし確実に変化していた。

鈴とトワが、以前のように彼を「監視対象」としてのみ見ることはなくなったのだ。


相変わらず羅睺の気配には敏感で、人との距離を置こうとするシンだが、二人の視線には以前にはなかった、複雑な感情が混じり合うようになっていた。




昼休み

シンが屋上でいつものように一人でパンを食べていると、鈴が静かに隣に座った。


「シンくん〜」


鈴の声は、以前よりも少しだけ、硬さが取れたようにシンには聞こえた。


「昨日のクレーンゲームの件だけど……その、私でも、ああいう状況ではどうすべきか迷うかもしれないね〜だけどシンは行動した、凄い事だよ〜」


鈴は普段の明るさからは想像できない、どこか、私もこうなりたいというというような羨望の表情を浮かべていた。

彼女は常に護神家としての使命を最優先し、意見を排除してきた。そして、疲れを見せないように明るく振る舞って来た。


しかし、昨日のシンの行動は、彼女の凝り固まった心に、小さな波紋を立てたのだ。


「羅睺の出現は、人の負の感情に引き寄せられることが多い。ですが、憑陰くんのあの行動は、負の感情とは逆の、純粋な優しさから来ていました。……データとしては、非常に興味深い。」


トワもまた、いつの間にか隣に座り、真理鏡を弄りながら静かに口を開いた。

彼女の言葉は相変わらず分析的だが、その視線はシンを興味深く見つめていた。


シンは戸惑った。

彼らは、羅睺が見える自分を恐れず、むしろ彼自身を見ようとしている。

それは、孤独な世界で生きてきた彼にとって、慣れない、しかし温かい感覚だった。


『キミたち、ボクの舞台を邪魔するなよ。』


シンの脳内で、溟禍が不満そうに呟く。


『キミのあの不器用な優しさが、ボクの邪魔しているじゃないか。……ま、それも悪くないけどな。』


最後の言葉は、シンにしか聞こえないほどの囁きだった。


放課後

シンが下駄箱で靴を履き替えていると、校庭の隅から、普段よりも濃い瘴気が立ち上っているのを感じた。

羅睺だ。しかも、複数。


「これは……影羅睺と憑羅睺の混合型だね〜コレは、通常の憑羅睺よりもより悪質だよね〜」


鈴がすぐに駆けつけ、冷静に状況を分析した。

トワも真理鏡を構え、羅睺の数を瞬時に把握する。


「羅睺の群れが、急速に活性化しています。この学校に、何か強い負の感情が渦巻いている……?」


シンの脳裏に、昼間の不良グループのいじめの光景がよぎる。ケンジたちが、また誰かを……?


「それでは行ってくるね〜シンくんは、私とトワの指示に従ってね。くれぐれも、虚淵の力を暴走させないように。対処面倒くさいから〜」


鈴が明るい気だるげとした声で告げる。

トワも真理鏡を構え、羅睺の解析を開始した。

シンは、震える手で『月影ノ太刀・虚空』を握りしめた。

一人ではない。自分には、羅睺と戦う仲間がいる。


『ボクの華麗なアシストを、心ゆくまで堪能するがいい。……キミも、ボクの足を引っ張らないようにシン。』


溟禍の傲慢な声が、シンを鼓舞する。

それはまるで、彼を舞台へと誘う、悪魔の囁きのようでもあり、最高の相棒からのエールであるようにも聞こえた。


羅睺が群がる校舎の裏手へと向かう三人の背中には、それぞれ異なる宿命と覚悟が交錯していた。彼らの運命の歯車は、今、加速を始める。


シンが女の子を助ける描写を入れた理由は、

作者がシンと似たような状況になったのですが。


作者がクレーンゲームが下手すぎて助けられずに恥ずかしい思いをした事があって。

猛練習した過去があるからです。

今では、知り合いと良くクレーンゲームしようぜと誘えるぐらい上手くなったっていう裏話があります。

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