第十四話:いつかの温もり
朝日が差し込むリビングで、シンは朝食の準備をしていた。
温泉宿での一泊を終え、本部に戻ることになったシンたちだが、今後の任務に備え、一旦シンの家に戻ることになった。
しかし、シンは、目の前の光景に、どこか違和感を覚えていた。
「シンくん〜卵焼き、美味しく焼けた〜」
鈴が、満面の笑みで卵焼きを皿に盛り付ける。
その横でトワは、タブレットで卵焼きの栄養素を解析している。
サキは、無言で、味噌汁をよそっていた。
シンは、目の前の三人の姿を見つめながら、心の中で、ある疑問を抱いていた。
(どうして、皆は、僕の家にいるんだろう……?)
嵐の夜からというもの、ずっとトワ達はシンの家に居座っているのだ。
そんな中シンは、自分の考えが変わってきている事に気づいた。
親が死んでからというもの人生に絶望しかなかった。
親を奪った羅睺との戦いが、孤独で恐怖しかな戦いだと思っていた。
だから、羅禍との戦いに関わらなかったし、羅禍が見える事をバレないようにしていた。
しかし、今、目の前には、鈴、トワ、サキという、大切な仲間がいる。
羅睺に対して恐怖して動けなかった自分でなく、誰かを守ることが出来る自分。
そして、誰かと共に、温かい時間を過ごせること。それが、シンの考え方を変えたきっかけだとシン自身が考えていた。
「シン、お前は何を突っ立っているんだ。さっさと飯を食え。」
サキが、シンを睨みつけながら、そう呟く。
シンは、サキの言葉に、何も反論できなかった。
しかし、その瞳には、シンへの信頼が宿っていた。
シンは、目の前の三人の姿を見つめながら、羅睺との戦い、虚淵の力、そして孤独。それらが全て、この温かい日常の中で、癒されていくようだった。
四人は、朝食を囲みながら、他愛もない会話を楽しんでいた。
朝食を終えたシンたちは、本部からの任務連絡がしばらくないことを確認し、久しぶりに学校へと向かうことになった。
羅睺との戦いとは違う、平凡な日常が、シンたちを待っていた。
学校の門をくぐると、鈴は、久しぶりの学校に、任務が無い平和な日常に、まるで木の上でゆっくりしているコアラのようにリラックスしていた。
「わあ、久しぶりの学校だね〜シンくん、見て見て〜」
両手を広げ、太陽の光を全身に浴びながら喜ぶ姿は、羅禍との激闘を乗り越えてきたとは思えないほど無邪気だ。
トワも、久しぶりの学校に、どこか新鮮な表情で、タブレットを操作し始める。
「学校……以前のデータと照合します。施設構造に変化はありませんが、生徒の活動パターンに若干の変動が見られます。興味深いですね。」
トワは、淡々と学校のデータをシンたちに伝える。サキは、無言で学校を見つめていたが、その瞳の奥には、羅睺との戦いから解放された、微かな安堵の色が浮かんでいた。
四人は、学校の教室へと向かう。
教室では、クラスメイトたちが、楽しそうに、他愛もない会話を楽しんでいた。
シンは、羅睺との戦いとは違う、平凡な日常に、心が温かくなるのを感じていた。
昼休み、シンたちは、屋上で弁当を広げていた。
鈴は、シンに自分が作った卵焼きを箸で挟んで食べさせる。
「シンくん、こっち見て〜はい、あーん〜」
鈴がそう言うと、シンは、顔が真っ赤になるのを感じていた。
「鈴、僕は、自分で食べられるよ。」
シンがそう言うと、鈴は、シンをまっすぐに見つめ、優しく微笑んだ。
「いいんだよ〜シンくんは、羅禍と戦って疲れているんだからね〜私が、シンくんをいっぱい甘やかしてあげるよ〜」
鈴の言葉に、シンは非常に驚いた。
(鈴は自分の言っていることが恥ずかしいことだと理解しているのかな?)
午後の授業を終え、シンたちは、下校する事にした。
学校の門を出ると、夕日が、シンたちを照らしていた。
「シン、今日は楽しかったぞ。」
サキが、シンをまっすぐに見つめ、そう呟く。
その言葉に、シンは驚きを隠せない。
いつも冷静沈着で、感情を表に出さないサキが、楽しかったと言う。それが任務からというもの日常的に楽しいと感じている事に。
それは、シンにとって、衝撃的なことだった。
シンは、サキの言葉に自分の行動で人を楽しくさせたり、優しくできると知って、心が温かくなるのを感じていた。