大事にした結果
「婚約破棄だ!」
その声に私は思わず振り返った。
ここは貴族学院の食堂、その真ん中ぐらいの席で複数の令息と1人の令嬢が1人の令嬢を囲んで一方的に責め立てている。
聞き耳を立てれば責められているのはエレシア・レナール公爵令嬢で、責めている集団のリーダーは彼女の婚約者でハラウン王国の王太子、集団はその側近で王太子の隣にいるのは男爵令嬢。
(なるほど、真実の愛て奴ね)
自分の中でそう結論つけて納得した。
(でも、こんな大衆のいる場でやる事ではないでしょう、見ているこちらがどんな気分なのかわからないのかしら)
人が一方的に責められているのは気分が悪い、少なくとも私は思っている。
エレシア様はボソボソと反論しているけど王太子達は自分達が正しい、と言わんばかり、要は聞く耳持たずの状態。
(こんなんで国を背負っていけるのかしら?)
うん、不安しか無い。
だって一方の意見だけ信じて他の意見を受け付けない、なんて典型的な独裁者だ。
私はこんな人物が王だったら付き合いなんてしない。
王太子達は一方的に責めた後、食堂を去っていった。
残ったエレシア様は俯いたままだった。
周囲の生徒達はどう扱って良いかわからないみたい、中にはクスクスと笑っている者もいる。
私は思わずエレシア様に声をかけた。
「あの、大丈夫ですか?」
エレシア様は顔をあげて私を見た。
「貴女は……」
「私、コラン王国の留学生のエリアン・ハイラデルと申します。 コラン王国では公爵の身分でございます」
そう、私は訳あってこの国に留学しに来ている。
「そうでしたか……、申し訳ありません。 無様な姿を見せてしまい……」
「いえいえ、今回の件私も他人事とは思えませんので」
「と言いますと?」
「私も婚約破棄された身なのです、ちょっと違いはありますが」
私の場合はお互い話し合いの場を設けて納得して破棄となった。
普通は解消とか白紙にするべきなんだけど責任の所在を明確化するべき、と言う事で相手側の有責という事で破棄となった。
理由? 相手の浮気、しかも子供が出来てしまった。
お互い納得したけど醜聞には変わりないのでほとぼりが冷めるまでこちらの国に留学にやって来たのだ。
その事をエレシア様にお話しした。
「エリアン様も苦労されたんですね」
「私の場合は相手が誠意を持っていたから良かったんですが、どうやらこの国の王太子様は違うみたいですね」
「昔からなんです、私が何か意見を言おうとすると『女のくせに出しゃばるな』『何がわかる』とか言ってきて……、私両親にも相談したんですが『我慢しろ』の一点張りで……、婚約破棄された事が知らされれば『私が悪い』と言われるのは見えていますし……」
エレシア様の周囲は敵ばかり、と見ました。
エレシア様も受け入れちゃっているみたいですし……。
「エレシア様は悔しくはないのですか?」
「え?」
「一方的に悪役にされて、ずっと否定されて……、このままではこれからもエレシア様は誰にも肯定されない人生を歩む事になりますよ、それでも良いのですか?」
「それは……」
エレシア様は頭を横に振った。
「私は認めてもらいたい……、誰かに頼られたいし否定されたくない……」
「それでしたら私が協力しましょう」
「エリアン様が? 関係ないのにですか?」
「関係無いから出来る事がありますので」
私はニッコリと笑った。
それから1週間後、学院に衝撃が起きた。
王太子様とその側近、そして男爵令嬢が揃って強制退学させられたのだ。
しかも王太子様は廃太子、側近達は各家から勘当、男爵令嬢の家はお取り潰しとなった。
更に各貴族の家にも王家からお叱りがあり生徒達はエレシア様に揃って謝罪をした。
「両親にも謝られて……、この1週間で何があったのか……」
余りにも環境の変化にエレシア様は戸惑っていた。
「簡単な話です、私がお父様に今回の件を報告したんです」
私のお父様は外交大臣であり国外の動向に目をやっている。
そんなお父様にエレシア様の件を手紙に書いたらどうなるか。
「お父様から我が国の王の耳に入りますよね、外交というのは武器を持たない戦争みたいなもので足の引っ張り合いなんですよ」
「つまりコラン王国の国王が我が国の王に何か言った、と」
「多分『おたくの王太子は問題があるみたいだが我が国との関係は大丈夫かな?』とかチクリチクリ言ったんじゃないでしょうか? それで急遽対応されたんだと思いますよ」
「それで学院内にも調査が入ったんですね、おかげで私と王太子様の婚約も解消して多額の慰謝料もいただきました、これで私も新しい人生を歩めそうです」
「力になれて何よりです」
まぁこの国の国王が厳しい判断をしたのは多分我が国の王が取引とか関係を考える、と言ったのも大きいかもしれない。
だって、ハラウン王国の主な取引先はコラン王国なのだから。
取引を考える、なんて言われたら国の危機になるし自分達の首を絞めかねない。
上には上をぶつけるしか無いよね?