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推しと異世界で、帰還のために武装開始。

「今日は色々あったし、ひとまず休もう。明日また話そうか」


そう言って、マヒャトさんは馬車を呼んでくれていた。

異世界っぽい木造の車体に、馬が二頭。ファンタジー感MAXだったけど、

僕の頭の中はそれどころじゃなかった。


ふと、横を見る。

まゆにゃんが、静かに、誰にも気づかれないように泣いていた。


……気づかないわけがなかった。


(そりゃそうだよな。突然、知らない世界に飛ばされて……。不安でいっぱいに決まってる)


彼女は24歳。芸能界という修羅の世界を戦ってきたアイドル。

でも、こんな時くらいは俺がしっかりしないと。



連れてこられた家は、なんてことない一軒家だった。

でも、どこか温かみがあった。木の香りと、小さな明かりと、静けさ。


リビングにはテーブルとソファ。

右と左に一部屋ずつ。奥には風呂と洗面、トイレ。


「今日は……もう寝ようか」


まゆにゃんの声は少し震えていたけど、どこか気丈だった。


「うん、俺も……もう限界かも」


布団の柔らかさが、身体だけじゃなく心まで包んでくれた。

気づいたら、意識は深い闇に沈んでいた。



翌朝、僕とまゆにゃんは再び商会へ。

マヒャトさんが、少しだけ真剣な表情で聞いてきた。


「まゆさん。元の世界では、どんな仕事をしていたんだい?」


「……アイドルでした。ステージで歌って踊って、お客さんに元気を届ける仕事です」


その瞬間、マヒャトさんの表情が和らぐ。


「なるほど……なら、君にピッタリの役目がある」


「はい?」


「商会の受付だ。実は先日までいた子が出産で辞めてしまってな。新しく人を探していたところだ」


「えっ、でも……私なんかで、大丈夫でしょうか」


「正直、簡単な仕事じゃない。貴族や、時には王族だって訪れる。けど君ならできる。

人前に立って、笑顔で心を届けてきたアイドルなら、きっと」


「……ありがとうございます。私、この状況でお仕事いただけるだけでも、本当に感謝です。やらせてください!」


まゆにゃんの言葉には、迷いがなかった。強かった。

彼女の芯の強さを、俺は改めて感じていた。


「エリザー、ちょっと来てくれ」


奥から現れたのは、金髪ロングでスタイル抜群、

一言でいうと“できる女感”全開のお姉さんだった。


「社長、呼びました?」


「この子が新しい受付だ。色々教えてあげてくれ」


「任せてください! まゆさん、よろしくお願いしますね。一緒に頑張りましょう!」


「はい!よろしくお願いします!」


そう言って、二人は奥へと消えていった。



そして、僕はマヒャトさんとふたりきりになった。


「彼女、強いね。笑顔の裏に、覚悟がある」


「はい。だからこそ、絶対に……元の世界に戻してあげたいんです。

もう一度、あのステージで輝く彼女を見たい。……それが今の僕の願いです」


「……ふっ、いい顔をするようになったな。じゃあ提案だ」


「はい?」


「定期的に“異世界っぽいアイデア”を出してくれ。娯楽でも料理でも何でもいい。

私が行き詰まった時の、アドバイザーになって欲しい」


「そんなことでいいんですか?」


「もちろん。それに――帰る方法も、探さないとな?」


心臓がドクンと跳ねた。


「……知ってるんですか?」


「いや、分からない。だが“可能性のあるルート”はある」


マヒャトさんは椅子から立ち上がると、窓の外を見つめた。


「“探検家”って知ってるかい? この世界の大陸は広く、大きいが、50%はまだ未開の地。

そこには未確認の遺跡、未知のモンスター、そして……この世界のものじゃない物質がある」


「……まさか!」


「20年前、ある探検家が未知の物質を持ち帰ってきた。明らかにこの世界の物じゃなかった。

元の世界の“何か”かもしれないと思わないか?」


「思います!やらせてください、俺、探検家になります!」


マヒャトさんはニッと笑った。


「よし、ではまず装備だな。――武器は?」


「触ったこともありません……」


「……それはまずいな。よし、武器屋に行こう」



武器屋ガイルズ。無骨な看板、油と鉄の匂い。

出てきたのは、筋肉ゴリゴリのオッサンだった。


「おう、マヒャトの旦那!今日はどうした!」


「彼に、武器と防具を見繕ってほしくてな」


「ほー、兄ちゃん……細っ!ちゃんと飯食ってんのか?」


「……すみません」


「バカやろう!敬語なんか使うな!なめられるぞ?」


……ガイルさん、強キャラ感すごい。


「動きやすい皮の防具を選んでやる。で、武器は……お前が好きなの選べ。直感でいい」


そう言われ、壁一面の武器たちを眺める。

剣、槍、斧、メイス、クロスボウ、魔法の杖……どれもファンタジーそのもの。


――でも、その中で。ひときわ目を引いた一本があった。


「これ……!」


日本刀。明らかに異質。まるで時代劇から飛び出してきたような、あの形。


「おっ、それか。……扱いにくいぞ?」


「でも……俺の故郷の物にそっくりなんです。これ、使えます!」


ガイルが目を細める。


「それ実はな…昔ある男から譲られたんだ。ジャングルで倒れてた変な髪型の男――」


「(それ、ちょんまげじゃない!?)」


「その男が、“これを次の使い手に”って言って息絶えてな。これも一緒に渡されたんだ」


そう言って見せてきたのは、ボロボロの古文書。

表紙には――『示現流』。まさかの日本語!


「これ、俺、読めます!」


「なっ……!?」


マヒャトもガイルも、完全に驚愕の表情だった。


「この刀も、本も……俺の“故郷の人”のものです」


「……運命ってのは面白いもんだな。持ってけ」


「ありがとうございます!」


刀を手にした時、心の中に火が灯った。

この刀は、きっと“道を切り開く力”になる。



でもちょっと待てよ…僕たちは令和から来たはず。でも、この刀の持ち主はきっと江戸の人間だ。

20年前に彼がいたって……じゃあ、時空が……どうなってるんだ?


謎は深まるばかりだ。でも僕は決めた。

この刀を手に、必ず“帰還”の道を切り開く。そしてまゆにゃんを、あのステージへ――もう一度!

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