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ショッピングとパドゥと手つなぎと

次の日、僕とまゆは二人でショッピングに出かけていた。


まゆが「服があんまりないの」と前々から言っていたのもあって、今日は思い切って出かけることにしたのだ。


訪れたのは、マヒャト商会が管理する巨大な複合施設。服屋だけでも二百店舗以上はあると聞く。中央の協会の広場には、露店風のブースが立ち並び、色とりどりの衣装が風にそよいでいた。


「ねえ、これどうかな? あ、こっちもかわいい!」


まゆは目を輝かせながら服を見て回り、僕もそのあとを楽しげについていく。そんな中、ふと目についた一軒の店に、僕はなんとなく引き寄せられた。


「ここは…何の服屋さんですか?」


「こちらはですね、この地域の女性の民族衣装“パドゥ”を専門に扱ってますよ」


「ああ、なるほど…町でよく見かける、あれですね」


パドゥ――それは、上下が女性用の水着のような構成になっており、腰には長めのパレオを巻くスタイルの衣装だ。…正直、目のやり場に困る。


だが、水の都アルラではこのパドゥが非常に人気だ。水陸両用で機能性が高く、しかも「女性らしさの象徴」として重宝されているため、老若問わず多くの女性が着用している。


――まゆにも着てほしいな。そんなことを思っていたそのとき。


「なに見てるの?」


背後から声がして、振り返ると、まゆがこちらを覗き込んでいた。


「わっ!? い、いや、別にやましい意味じゃなくて…」


「この民族衣装、かわいいよね〜」


「う、うん。絶対似合うと思って…」


「最近ダイエットしてないけど、大丈夫かなぁ?」


「ぜったい似合うよ!」


そのとき、店主さんもにっこりと頷いた。


「ああ、お嬢さんなら間違いなく映えると思いますよ」


その後押しにまゆは少し照れながらも、


「じゃあ…着てみようかな?」と、更衣室へ。


「元くん、どの色がいいと思う?」


「うーん、何でも似合うけど…黒と金のこれとか、すごくいいと思う」


「わ、ほんと? じゃあ、それ着てみる!」


まゆは試着室へ入り、僕と店主はドギマギしながら待つこと10分。


「どう…かな?」


まゆが姿を現した瞬間、息を飲んだ。


きゅっと引き締まった腰に、透き通るような白い肌。そして黒地に金の模様が入ったパドゥは、彼女の魅力をこれでもかと引き立てていた。


「変…じゃない?」


「夢みたいだよ…。こんなにかわいい衣装を、まゆが着てくれるなんて…」


「じゃあ、買っちゃおうかな!」


即決するまゆを見て、僕は思わず財布を取り出し、店主に支払いを済ませた。


「ありがとうございます! 本当に素敵な衣装を!」


「いえいえ、こちらこそ。目の保養をありがとう!」


店主と熱い握手を交わした僕は、パドゥ姿のまゆと広場へと戻っていった。


「そういえば元くん、サンダル履かないの?」


「んー、この町って年中暑いし、靴履いてるの探検者か商人くらいだよね。けど僕はブーツじゃないと落ち着かなくてさ。戦闘にも備えてるし…」


「ふーん、じゃあいらないか」


そんな他愛のない会話をしながら、僕たちは広場を歩き回り、やがて人混みが増え始めた。


まゆとはぐれてしまいそうで、僕はそっと手を差し出す。まゆは少し驚いた表情を見せたあと、ふふっと微笑んで僕の手を握った。


…夢みたいだった。


あのアイドルだったまゆと、今こうして手を繋いで歩いている。僕の隣で、彼女が笑ってる。


途中、アイスクリーム屋の屋台を見つけ、ベンチに腰かけて一息つく。


「そういえば昨日、シルヴァ…結局帰ってこなかったね」


ふと思い出してそう呟くと、まゆがぽつりと口を開いた。


「…実は、私知ってたの」


「えっ、なんで!?」


思い返せば昨日、エリザがシルヴァと話してるところを止めようとして、逆にまゆに止められたっけ。


「なにがあったの?」


「昨日ね、エリザとシルヴァくんが話してて。周りの人たちは、エリザと話すときって下心丸出しだったらしいんだけど、シルヴァくんは違ったんだって。純粋に“これからが楽しみ”って、少年みたいな顔で話してて。それがすごく可愛かったみたい」


「しかも“見た目も超タイプ”って言ってたらしいよ?」


「……ってことは、昨日はそういう……?」


「まぁ……そういうことだね」


「でもさ、シルヴァって“受付ってモテる”って言ってたけど、探検者って死亡率高いし人気ないんじゃ?」


「うん、ないよ。正直、受付が結婚するのって、貴族とか商会の上層部、王族とかばっかり。9割そういう相手なんだって」


(……まじか。総合商社の受付とか、そんな感じか。いつの時代もエリートに取られてく…)


――って、待てよ。じゃあ、まゆも口説かれてたりする!?


「まぁ、私はエリザほどじゃないけどね」


…それはそれでなんかショックだった。ちくしょう、エリートめ…。


「でもね。私は“ほっとけない人”がそばにいるから」


「……ほんとに?」


「ほんとほんと」


そう言われた僕は、胸がいっぱいになった。


「今日は遅くなったし、帰ろっか」


席を立とうとすると、まゆがその場に立ったまま動かない。


「どうしたの?」


「……手、繋いでくれなきゃやだ」


照れくさそうに、けれどしっかりと僕を見て言うまゆに、僕は顔を真っ赤にしながらも手を差し出した。


そして、手を繋いで帰る――それだけで、心が熱くなった。


家に着くと、玄関前にシルヴァとエリザさんが立っていた。


エリザさんは、白いパドゥを着ている。


家の中に入って事情を聞くと、エリザさんは一言――


「昨日はごめんね。……シルヴァ君と付き合うことになりました」


「えええーーーー!?」


またもお祝いムードになり、僕たちは酒を飲み始めた。


そしてしばらく経ったころ、シルヴァが僕の肩に腕を回しながら言う。


「すまんな……あの後、つい流れで……」


「お前も頑張れよ!」


――くそぉぉぉ! 俺もいつか…まゆと……


そう心に誓いながら、夜は静かに更けていった。


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