探検者試験・第一関門
コメントお待ちしております!
次の日、僕は“探検者の資格”を取るため、試験会場へと向かっていた。
この資格、なんと千人に一人しか合格できないと言われている過酷な試験らしい。ただ、探検者の試験に合格した者は孫の代どころか、孫の孫の代まで栄誉を受け継がれるというのだから、どれほどの価値があるかは想像に難くない。
試験は各地で開催されているが、今回は運よく隣町が会場になっていた。これはラッキーとしか言いようがない。
しかも、会場までは送迎の馬車が用意されていたので、苦労することもなく、すんなりとたどり着けた。
「……ここ、でいいんだよな?」
到着したのは、町の中心にある大きな噴水広場。どう見ても試験会場らしからぬ雰囲気だが、周囲にはすでに300人ほどの受験者が集まっていた。
と、思ったその瞬間――
ゴウン!
突如、噴水の中心が爆発するように水柱を吹き上げ、そこからシルクハットに燕尾服を纏った男が勢いよく飛び出してきた。年の頃は四十代、品のある立ち振る舞いのジェントルマンだ。
「皆様、本日は探検者試験にご参加いただき、誠にありがとうございます」
男の声は、魔法か何かで拡声されているのか、会場中に響き渡った。
「これより一次試験を開催します。内容は――こちら」
そう言って、男が懐から取り出したのは……一本のロウソクだった。そして係員たちによって、同じものが受験者全員に一本ずつ配られていく。
「今からこのロウソクに一斉に火を灯します。一時間の間、火を消さずに持ち続けてください」
えっ、ただそれだけ? と思ったのも束の間、男が指を鳴らすと――
パチン。
全員のロウソクに一斉に火が灯った。
「では、試験開始です」
男は再び噴水の中心へと沈んでいき、水の中に消えていった。
「…………」
なんだこれ、意味がわからない。火をつけたまま一時間持つ? でも、このロウソクの長さ、どう見ても十五分程度で燃え尽きそうなんだけど。
案の定、数分後には、僕のロウソクはすでに半分ほど燃え進んでいた。
――これは、普通にやってたら絶対に無理だ。
周囲の受験者たちも、皆慌てた様子でロウソクを持ち直したり、風を避けたり、何かしらの工夫をしている。でも……なぜか、ロウソクの減り方が人によって違うように見えた。
「あれ……?」
僕の隣の女性は、同じタイミングで火をつけたはずなのに、ほとんど減っていない。それどころか、向かい側にいる男のロウソクは、火自体がかなり小さい。
これはただの物理現象じゃない。
そう思って集中してみると、さっきの男――ロウソクが減っていない男からは、何の気配も感じない。人の気配、闘気、生命エネルギー、そういうものが一切ない。
もしかして……これって……
僕はひとつの仮説を試してみることにした。
――示現流。敵を斬る、その瞬間の殺気を思い浮かべる。
ボッ!
炎が一気に大きくなった。やはり……!
「このロウソク、感情や気配に反応して燃えるんだ……!」
なるほど、だからさっきの男は気配を完全に消していたのか。僕もすぐに呼吸を整え、心を沈めていく。
――水の中。静寂。無。
ロウソクの炎が、穏やかに、ゆらゆらと揺れるだけになった。
だが油断した瞬間――
ボッ!
「うわっ、また燃えた!」
少しでも気を緩めると、心が波立つとすぐに炎が激しくなる。これ、めちゃくちゃ集中力いるぞ……!
そして、ようやく試験官が再び現れた。
「そこまで! 一時間が経過しました。火がまだ灯っている方、合格です!」
……ギリギリだった。僕のロウソクは、かろうじて細く、頼りなく、しかし確かに火を灯していた。
もしあと一分長かったら、間違いなくアウトだった。
見渡すと、最初にいた三百人のうち、残ったのは百人程度。三分の二が脱落したことになる。
「おめでとうございます。心を制すること、すなわち探検者への第一歩。第一関門、通過です!」
試験官の声に、僕はようやく一息をついた。
(……てっきりこれで合格かと思ったよ)
思わず、足元がふらつくほどの疲労感が押し寄せてきた。