推しの手を握ったら、異世界に転生してました。
ブラック企業で働く社畜サラリーマン・須藤 元は、
唯一の癒し――推しアイドル「まゆにゃん」に支えられる日々を送っていた。
そして迎えた念願の握手会当日。
ついに「まゆにゃん」と対面したその瞬間――
足元に突如、虹色の魔法陣が出現!?
気がつけば僕と彼女は、見知らぬ草原に転移していた……!
助けてくれたのは、水の都に住む成金風の商人・マヒャト。
元の世界に帰る手がかりを探すため、僕たちは商会で働きつつ、一つ屋根の下で暮らすことに!?
「同居とか……それ、リアルで心臓止まるやつだろ……!」
――憧れの推しと始まる、異世界ほんわか(時々ドキドキ)同棲ライフ、ここに開幕!
10話目以降から加速します。
今日は、待ちに待ったアイドルとの握手会だ。
僕の名前は須藤 元、25歳。
ブラック企業勤めの、ごく普通のサラリーマンである。
でも、そんな僕にも“生きる希望”がある。
それは――**「あかり坂47」**センターのまゆにゃん。
本名は村田まゆ。可愛い。天使。神。
きっかけは、1年前。
たまたま見たテレビの特集で彼女を知り、僕は一瞬で堕ちた。
そして今――奇跡的に当選した握手会チケットを握りしめ、
僕はこの日を迎えている。
⸻
会場は人でごった返していた。
でも、僕のテンションは右肩上がり。
まゆにゃんのレーンは長蛇の列。
でも、どんなに並ぼうが問題ない。
だって、ついに彼女に会えるんだから!
少しずつ、列が進む。
少しずつ、彼女の声が聞こえてくる。
(ああ……この声。ほんとに、ほんとに、まゆにゃんなんだ……!)
そして――僕の番が来た。
心臓がバクバク鳴る。手のひらは汗びっしょり。
顔を上げると、そこには――
長い茶髪、くりっとした瞳、ふわっとした微笑み――“推し”がいた。
「はっ、はじめましてっ!」
声が裏返った。やばい。
だけど、彼女はクスッと笑って言ってくれた。
「緊張してますね? ふふ。でも、今日は来てくれてありがとうございます!」
そして、彼女の手が、僕の手をそっと包む。
あたたかくて、柔らかくて、――生きててよかったと思った。
(この時間が、ずっと続けばいいのに……)
そう願った、ほんの数秒後。
足元に、虹色の魔法陣が浮かび上がった。
「……えっ?」
「な、なんだこれっ!? うわああああああ!!」
目も開けていられないほどの眩い光が僕らを包み込み、
視界がグルンと反転する。
世界が、崩れた。
⸻
虹色の光の中を、僕たちはトンネルのように落ちていく。
まゆにゃんが驚いた顔で僕の手を掴んでくる。
その小さな手が、さっきよりずっと強く僕を握っていた。
(こんなときでも……なんて可愛いんだよ)
どこまで落ちるのか、どこに向かっているのか分からない。
――そして、
「うわっ! ドスンッ!!」
重力が戻り、僕たちは草原の真ん中に投げ出された。
⸻
「まゆにゃん、大丈夫かっ!?」
慌てて起き上がると、
となりに倒れていた彼女がゆっくりと目を開ける。
「う、うん……ここは……どこ?」
アイドル衣装のままの彼女が、きょろきょろと辺りを見回す。
僕もあたりを見た。見渡す限りの緑。見たこともない鳥が空を舞ってる。
「……さっきまで、握手会場だったよな?」
「うん。でも今は……草原?」
そのときだった。遠くから、馬車の車輪の音が聞こえてきた。
金色の装飾が施された、いかにも高そうな馬車が僕らの前で止まり、
そこから――立派なカイゼル髭の男が降りてきた。
「おや? こんなところに人とは珍しい。どうされましたかな?」
「僕たち、さっきまで幕張っていう場所にいたんです。でも突然光に包まれて……気がついたら、ここに」
「幕張? ……聞いたことがない地名だな。ともかく、この辺りは猛獣も出る。馬車に乗りたまえ」
僕とまゆにゃんは顔を見合わせ、うなずいた。
「ありがとうございます……!」
⸻
馬車の中はふかふかのシート。クッションもやばい。
現代日本の僕でも感動するレベルだ。
「私は、アルラという町で商会を営む者、マヒャトという。君たちは?」
「須藤 元です」
「村田まゆ……です」
「なるほど。魔法陣で転移してきた……と。確かにこの世界には魔法があるが、他の世界から人を呼び寄せる魔法なんて、聞いたことがない」
「じゃあ……元の世界には、戻れないんですか……?」
「今のところはどうにもならん。だが、町に着けば服と宿くらいは用意しよう。今の格好では目立つからな」
⸻
馬車に揺られること一時間。
やがて、遠くに水の都のような風景が見えてきた。
「見えてきたな。あれが私の町、アルラだ」
水路にゴンドラが行き交い、町中を泳げる馬が走っている。
まるでヴェネツィアを異世界風にしたような光景だった。
到着したのは、中世ヨーロッパの教会みたいな巨大な商館。
中に入ると、メイドと執事たちが整列して出迎えた。
「社長、お帰りなさいませ」
「彼らに服をプレゼントしてあげてくれ」
⸻
着替えた僕は、長袖シャツに黒いパンツ、革のブーツという冒険者スタイルに。
少し照れながら待っていると――
「お待たせ……」
まゆにゃんが現れた。
白のワンピースに、腰には大きなリボン。
足元は軽やかなミュール。
どこかファンタジーの世界の姫様みたいな出で立ちだった。
「まゆにゃん……すっごく、似合ってる……!」
「え、えへへ……ありがと」
彼女が恥ずかしそうに微笑む。
やばい、心臓もたない。
そのとき、マヒャトさんが咳払いをして言った。
「おほん。熱いところ申し訳ない。実は君たち、住む場所がないだろう? 私の使っていない家を貸そうと思ってね。その代わり、商会の仕事を手伝ってもらえないか」
「仕事、ですか?」
「うむ。商人というのは情報屋でもある。君たちの世界に関する知識があれば、この世界で十分役立つだろう。――そして何より、君たちが元の世界へ帰る手がかりも、そこから見つかるかもしれん」
僕とまゆにゃんは顔を見合わせ、うなずいた。
「……ぜひ、お願いします!」
「よろしい! ――ただ、一つだけ問題がある」
「問題……?」
「家がひとつしかない。だから、君たちには一緒に住んでもらうしかないのだ」
「ええええええええっ!?!?」
――まさか、異世界で。
まさか、推しのアイドルと。
まさかの、同居生活!?
僕の心臓は、もう限界です。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました!
まさかの「握手会 → 異世界召喚」という、
推し活と異世界ファンタジーが融合したスタートを切りましたが、いかがだったでしょうか?
コメントお待ちしております!
主人公の須藤くんは、ごく普通の限界社畜ですが、
これから推しのまゆにゃんと異世界で共同生活&謎の探索生活に突入していきます。
推しと一つ屋根の下?
それだけで満足?
――いやいや、この世界、そんなに甘くない!
今後は:
•異世界の謎の“召喚事件”
•推しのまゆにゃんがまさかの◯◯適性持ち!?
•そして当然、恋のフラグも…!?
などなど、ラブコメと冒険が入り混じる展開を予定しています。
「推しと異世界で暮らすなら、何を一番我慢できないか」
そんな問いに全力で挑んでいく物語を目指しますので、
ぜひ次回もよろしくお願いします!