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【初めてのライブ】第8話:『また春が来たから』

『また春が来たから』

https://youtu.be/-JO1zSOJY5M

※こちらで視聴可能です

『転んだら…笑え!!』の明るく力強いメッセージがライブハウスに響き渡り、観客の心に温かい笑顔が広がった。拍手と歓声が鳴りやまない中、ステージの照明が再び優しく絞られる。


ミオがマイクを握り、少し穏やかな表情で語り始めた。

「ありがとうございます! 『転んだら…笑え!!』でした! ユメカの歌詞、みんなにも届いたかな?」

客席から「届いたー!」と声が上がる。


「さて、次で早くも今日のライブも終盤に差し掛かります。この曲は、私たちのバンドのキーボード、凛が作詞作曲しました!」

ミオの言葉に、演奏中は落ち着いた表情でサポートに徹している凛が、作詞作曲を手掛けたという事実に、観客は興味津々だ。

「みんなも、きっと共感できる、切なくも温かい、そんな曲です。聞いてください、『また春が来たから』」


凛が深呼吸をして、キーボードの前に座り直す。指が鍵盤に触れると、透明感のあるピアノの音色が、静かに、そしてゆっくりとライブハウスに広がっていった。続いて、葵の抑制されたギター、ユメカの繊細なベース、ルナの優しく刻むドラムが重なり、曲の奥行きを深めていく。ミオの歌声が、静かに、しかし感情を込めて歌い始めた。


『また春が来たから』

https://youtu.be/-JO1zSOJY5M

※こちらで視聴可能です


(ライブの演奏中、凛の脳裏には、この曲が生まれた日の温かい記憶が蘇っていた――)


『転んだら…笑え!!』が完成し、メンバーが次の練習曲について話し合っていた頃。

「ユメカの歌詞、本当に最高だったね! 『たんこぶついても、君にぶつかりたい!』といい、『転んだら…笑え!!』といい、みんなで歌っててすごく元気もらえるよ!」

ミオが興奮気味にユメカを褒めちぎる。

「えへへ、そう言ってもらえると嬉しいな!」

ユメカはピンク髪を揺らして喜んでいた。


葵は静かに二人のやり取りを見守り、ルナはスティックをクルクル回しながら「ま、ミオが歌えばなんでも良く聞こえるけどね」と茶化す。


そんな賑やかなスタジオの隅で、凛は静かに、けれど熱い眼差しでメンバーを見つめていた。

ミオが作詞作曲した『東京たんこぶ (Tokyo Bump)』。ルナが歌詞を書いた『1から10まで、君に恋して。』。そして葵が作詞作曲した『透明じゃいられない』。みんなが自分の感情を、言葉や音にして表現している。自分も、何か作りたい。

普段は控えめな凛だが、心の中では、そんな思いが募っていた。


「あのね…私も、曲、作ってみたくなっちゃった…」

凛が、ぽつりと言葉を漏らした。

その言葉に、ミオがパッと顔を上げた。

「え!? 凛が!? ホントに!?」

ユメカも目を丸くして、「わー! 凛ちゃんも!?」と驚きを隠せない。

ルナが目を細め、「ふーん、やるじゃん」とニヤリと笑った。


「そうだよ、凛! 凛は小学生の頃から私と一緒にピアノ教室に通ってたんだもんね! ピアノめちゃくちゃ上手いし!」

ミオが凛の背中をポンと叩いた。

「葵も作曲できるし、私も作曲できる。そして凛も!」

ミオは改めてメンバーを見渡し、興奮気味に言った。

「やばい! すごくない!? 私たちのバンド、作曲できるの、三人だよ!? こんなに才能豊かなメンバーが揃ってるなんて、最強じゃん!」

ミオの言葉に、葵も小さく頷いた。確かに、全員が曲作りに携われることは、バンドにとって大きな強みだ。


凛は、少し照れながらも、自分の書いた歌詞をメンバーに差し出した。

「…これ、読んでみてくれる?」

ミオが受け取ると、その歌詞を読み始めた。


「桜の下 初めて見た横顔 バイトの制服 少し大きくて

 話すたびに 笑うたびに “センパイ”って言うのが 好きになった」


ミオの読み上げる声が、スタジオに切なく響く。ユメカは、すぐにその歌詞が恋の歌であることに気づき、胸をときめかせた。ルナも、真剣な表情で歌詞を追っている。


「知らなければよかった あの人の横にいた人

 手をつないでた 夢なんかじゃない 秋風が 全部さらっていった」


「……あ」

ミオが思わず声を出した。その歌詞が語る切ない恋の結末に、ミオは、自分の失恋経験を重ねていた。凛の普段の穏やかな姿からは想像できない、深く、そして諦めを伴った感情が、言葉一つ一つに込められている。

「凛…これ…」

ミオは、凛の繊細な心に触れた気がして、思わず言葉を詰まらせた。


「でも 春が来たなら ちゃんと前を向いて歩こう

 もう一度 春が来たから 君のこと もうやめよう

 制服も バイトも 桜も ぜんぶ思い出に変えるから」


歌詞の最後は、前向きな気持ちで締めくくられていた。


「さよならじゃなくて『ありがとう』 新しい風に 手をふるよ

 また誰かに 恋をするために もう、君じゃなくて。」


読み終えたミオは、そっと紙を閉じた。

「凛…すごい。すごく、凛らしい曲だよ。優しくて、切なくて、でも最後はちゃんと前を向いてる」

ミオは、凛の隣に座り、そっと手を握った。

ユメカも、「凛ちゃん…辛かったのに、頑張ったんだね…」と、瞳を潤ませている。

ルナは、珍しく真剣な表情で、凛の顔を見つめていた。ドラムを叩く「ドラム魔神」の時とは違う、仲間としての優しい眼差しだ。

葵は、言葉なく、静かに凛に頷いた。その表情には、凛の表現力への尊敬と、仲間への深い信頼が表れていた。


「この歌詞に、凛がメロディつけてくれるんでしょ? 最高の曲にしようね」

ミオが凛の手を握りしめ、力強く言った。

凛は、そんなメンバーの温かさに包まれながら、少しだけ、涙をこぼした。そして、静かに頷いた。


そこから、凛が中心となって、この曲のメロディとアレンジが練られていった。ピアノの音色を中心に、切なさと希望が共存するアレンジ。ミオの歌声が凛の繊細な感情を表現し、葵のギターは時に優しく、時に力強く心を揺さぶる。ユメカのベースは、凛のメロディに寄り添い、ルナのドラムは、感情の起伏に合わせて静かに、そして力強くビートを刻む。凛自身は、キーボードで、楽曲の全ての感情を包み込むような音色を奏でた。


(回想終わり。ライブのステージへと戻る――)


ミオの歌声が、凛の紡ぎ出したメロディに乗って、ライブハウスに響き渡る。


『もう一度 春が来たから 君のこと もうやめよう』


その歌声は、凛自身の過去の恋の終わりと、新しい未来への一歩を歌い上げている。

観客たちは、その繊細な歌詞とメロディに、静かに聴き入っていた。中には、共感からか、そっと涙を拭う人もいる。

凛は、キーボードを弾きながら、目を閉じた。過去の切ない思い出が、音となって昇華されていく。そして、その表情には、過去を乗り越え、確かに前を向いている、清々しい笑顔が浮かんでいた。


『さよならじゃなくて「ありがとう」 新しい風に 手をふるよ』


最後のフレーズが歌い上げられると、ライブハウスは温かい拍手に包まれた。

凛は、立ち上がって深々と頭を下げた。葵やユメカ、ルナ、ミオも、温かい眼差しで凛を見つめ、笑顔を交わす。

「東京たんこぶ」の音楽は、強さや情熱だけでなく、切なさや、前向きな心の切り替え、そして新たな希望までをも表現できることを、この曲は証明していた。


ライブは続く。次は6曲目、最期の曲。

『また春が来たから』

https://youtu.be/-JO1zSOJY5M

※こちらで視聴可能です

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