【三年の眺望】第39話:『卒業』
『卒業』
https://youtu.be/k1tDSZCpAT0
※こちらで視聴可能です
春の柔らかな光が差し込む、卒業式を終えたばかりの教室。
ガランとした空間には、もう誰もいないはずだった。
しかし、黒板にはチョークで描かれた下手くそなバンドのロゴと、「祝☆卒業! 東京たんこぶ」という文字が残されている。その前に、見慣れた五人の姿があった。
「はぁ〜…終わっちゃったな、本当に」
卒業証書の筒を手に、ミオが大きなため息をついた。その声には、達成感と、どうしようもない寂しさが混じっている。
「実感わかないけどね。明日も普通に、この教室でみんなに会えそうな気がする」
ルナが、自分の使っていた机を指でなぞりながらつぶやく。
「わかるー!教科書の隅っこにした落書きとか、まだ昨日のことみたいだよー!」
ユメカが、空っぽになったロッカーを覗き込みながら、いつもの太陽みたいな笑顔で言った。
「そういえば、凛が貸してくれた古典のノート、結局返してないや。私の落書きだらけだけど」
ミオが言うと、凛は「ふふ、記念にどうぞ。私の練習記録のデータも、皆さんにお送りしますね。3年間の全部、きっちり残してありますから」と優しく微笑んだ。
その言葉に、葵が静かに口を開いた。
「……心の記録の方が、ずっと正確に刻まれてる」
その葵らしい言葉に、メンバーは顔を見合わせ、ふっと笑った。
「確かにな。音ズレも、コードミスも、今となっては全部、思い出の一部だもんな」
ミオが言う。
「文化祭の打ち上げで、私が張り切りすぎてこけて泣いたのも、いい思い出だよね!」
ユメカが胸を張ると、ルナが呆れたようにツッコんだ。
「あんた、泣いてたけど、誰よりも笑ってたじゃん」
「そうだよ!だって、みんなと過ごした時間が、ずーっとキラキラしてたから!」
ユメカの言葉に、誰も反論できなかった。
「それにしても、うちらって強がりばっかだったよな。私も含めて」
ルナが、少しだけ真剣な表情で言った。
「別に泣いてないし、とか言って、卒業式で一番最初に泣きそうになってたの、誰だっけなー?」
ミオがニヤニヤしながらルナを見ると、ルナは「うるせー!」と顔を赤らめた。
「でも、本当にそうかも。一人じゃ、絶対ここまで来れなかった」
ミオが、素直な気持ちを口にする。
「……ほんとだよ。ありがとう」
葵が、窓の外を見ながら、消え入りそうな、でも確かな声でつぶやいた。その一言に、3年間の全てが詰まっているようだった。
教室に、心地よい沈黙が流れる。
「卒業ってさ、さよならじゃないよね」
ミオが、その沈黙を破るように言った。
「これから、みんな別々の道に進むけどさ。大学行く子も、専門行く子も、まだ迷ってる子もいるけど」
「うん!でも、心のノートには、ちゃーんと書いてあるもん!『また会おう』って、強い文字で!」
ユメカが、力強く頷く。
「ええ。それに、この歌があれば、いつでも戻ってこられる場所になりますから」
凛が、バンドの存在を確かめるように言った。
その言葉に、メンバー全員の心が一つになる。
すると、今まで黙って聞いていた葵が、まるで当たり前のことのように、ミオに問いかけた。
「……で、次の練習、いつにする?」
その一言に、ミオの顔がパッと輝いた。
「だよな!うちらは終わんねーよ!卒業なんて、ただの通過点だ!」
ミオは窓を開け放ち、まだ少し冷たい春の風を胸いっぱいに吸い込んだ。
「これから先は、本気で行くぞ!『進級できなかった』は嘘だけど、ここからはマジだからな!」
その宣言に、メンバーは笑いながら頷いた。
「はいはい、わかったから。じゃ、最後にいつもの、やるか」
ルナが、少し照れくさそうに、でも誇らしげに言った。
ミオが、メンバーを見渡す。ユメカが、ルナが、凛が、そして葵が、最高の笑顔で頷き返す。
いつつの春が重なって、今、一つの光になる。
「せーのっ!」
ミオの掛け声と共に、五人の声が重なった。
その言葉が何だったのかは、彼女たちだけの秘密。
ただ、その明るくて、少しだけ泣きそうな、最高の声は、誰もいない教室に響き渡り、開け放たれた窓から、旅立ちの春の空へと溶けていった。
彼女たちの物語は、まだ始まったばかりだ。
『卒業』
https://youtu.be/k1tDSZCpAT0
※こちらで視聴可能です
こちらで一旦「東京たんこぶ - by Tokyo Bump -」の物語はお終いです。
お読みいただいて、ありがとうございました!
YouTubeで曲の方は引き続き追加していきますので、良かったら聴いてください。
https://www.youtube.com/@Kuma-Records




