【三年の眺望】第37話:『修学旅行に心染めて』
『修学旅行に心染めて』
https://youtu.be/QvSyrrNS0SM
※こちらで視聴可能です
高校三年生の、卒業式まであと数ヶ月となった冬の日。いつもの練習スタジオは、窓の外の寒さとは裏腹に、メンバーたちの熱気と笑い声で温まっていた。
「はぁ〜…もう少しで卒業かぁ。高校生活、ほんとあっという間だったな」
練習の合間、床に座り込んだミオが、しみじみと天井を仰いだ。
「ねー!三年間の思い出、ありすぎて何から話せばいいかわかんないよー!」
ユメカも、うんうんと大きく頷いている。
「色々あったけどさ、やっぱ私は修学旅行が一番楽しかったなー。あのバカ騒ぎ、最高だった!」
ルナがスティックを軽快に回しながら言うと、その一言をきっかけに、スタジオは一気に思い出話に花が咲いた。
「わかる!バスの中、マジでうるさかったよね!」
ミオが思い出し笑いをする。
「うちらの席だけ、ずーっとガールズトーク止まらなかったもん!運転手さん、絶対迷惑だったって!」
「おそろいのキーホルダーとか買っちゃったりしてね!今でもカバンにつけてるよ!」
ユメカが嬉しそうに自分のスクールバッグを指さす。
「……私はもう外した」
葵がボソリと言うと、「えー!薄情者ー!」とミオとユメカからブーイングが飛んだ。
「でも、一番ヤバかったのは奈良の鹿でしょ!」
ルナが腹を抱えて笑い出した。
「ユメカが鹿せんべいあげたら、鹿に囲まれて服のすそまで食べられそうになって、全力疾走で逃げてたじゃん!」
「もー!あの時の鹿さん、すごい勢いだったんだからー!スニーカーどろどろになっちゃったんだよ!」
ユメカがぷくっと頬を膨らませる。
「……見てて、面白かった」
葵の珍しくストレートな感想に、ルナはさらに爆笑し、ユメカは「葵ちゃんまでー!」と嘆いた。
「清水の舞台からの景色も、きれいでしたね」
凛が、うっとりした表情で思い返す。
「みんなで未来のこととか、ちょっと真面目に話しちゃったりして」
「あったあった!『受験終わったら絶対フェス行くぞ!』とか、『10年後もこうしてバンドやってるかな?』とかさ!」
ミオの言葉に、全員が少しだけ、未来に想いを馳せて遠い目になった。
「旅館の夜も楽しかったよねー!浴衣着て、みんなで髪とか結び合ったりして!」
ユメカが楽しそうに言うと、ルナがニヤリと笑った。
「その後の枕投げで、ミオが本気出しすぎて先生に怒られたやつな」
「あれは事故だって!凛の顔面に飛んでったのは、あれは、枕が勝手に!」
ミオが必死に弁明するが、誰も信じていない。
「結局、みんなで朝まで話し込んじゃって、次の日寝不足でフラフラでしたよね」
凛がくすくすと笑う。
「そういえば、葵は修学旅行、どうだった?あんま楽しそうじゃなかったけど、ちゃんと班行動してた?」
ミオが尋ねると、葵は少しだけ考えるそぶりを見せた後、静かに言った。
「……別に。でも…京都の路地裏で見つけたお守り、まだ持ってる」
その意外な言葉に、メンバーは「えー!」と一斉に食いついた。
「マジで!?どんな願いごとしたのー?」
ユメカがキラキラした目で詰め寄る。
葵は、ふいっと顔をそむけ、短く答えた。
「……ひみつ」
その葵らしい返しに、みんなは「またそれかー!」と笑った。
「あーあ、ほんと、帰りたくないねって、みんなで言ってたよな。バスの窓から夕焼け見て、なんか泣きそうになったの覚えてる」
ミオが、少しだけ寂しそうに言った。
「わかる。写真フォルダ見返すだけで、今でもちょっとキュンとする」
ルナも、珍しくしんみりとした表情だ。
「うん!あのキラキラした一秒一秒が、ぎゅって心に染み込んでる感じがする!」
ユメカが、胸に手を当てて言う。
その言葉に、ミオはハッと顔を上げた。
「…おい、今のユメカの言葉、めっちゃ良くないか?『思い出が心に染みる』って。なんか、曲になりそうじゃん」
「え?」
「『修学旅行に心染めて』…みたいな」
凛が、ポツリとつぶやいた。
その瞬間、スタジオの全員の目が輝いた。
「「「「それだーーーっ!!」」」」
ミオが叫ぶ。
「よーし!うちらの最高の思い出、最高の曲にして残そうぜ!」
こうして、また一つ、「東京たんこぶ」に新しいナンバーが追加されることになった。
卒業を前にした彼女たちの、キラキラした思い出と、少しの切なさが詰まったこの曲は、きっと聴く人の心にも温かく染み渡る、最高の青春ソングになるだろう。
【歌詞】
ねえ見て!空が広いよ いつもよりも
バスの窓 笑い声 走ってく
おそろいのリュックに詰めた
秘密のガールズトーク、スタート!
奈良の鹿にせんべいあげたら
予想外すぎてスニーカー全力疾走
そう制服のまま駆け抜ける
この感じ、映画より好きかも!
修学旅行、夢みたいで
「何か所回れるんだろう?」なんてね
清水の舞台から見下ろした
未来のことも話しちゃったりして
キラキラする一秒ずつ
君と笑えたら、それで満点!
旅館でユカタふわり 髪まとめたら
いつもより大人って 言ってほしいな…なんて
枕投げで笑いすぎた夜
「眠れないね」って、朝が来た
京都の街で見つけたお守り
願いごとは、ひみつのハート
ずっと友達 たぶんそれ以上
そんな気持ちが こぼれそう
修学旅行、終わっちゃうね
「帰りたくないね」って誰かが言った
写真フォルダ、指でなぞったら
いつまでもここにいたくなった
ねえ、この日々を
ぎゅって胸にスケッチするよ
バスの窓に 映る夕焼け
泣きそうな顔 隠して笑った
バイバイなんて まだ言わないで
ずっとこの時が続けばいいのに
ほら、思い出は
ぎゅって心 染めてゆくよ
『修学旅行に心染めて』
https://youtu.be/QvSyrrNS0SM
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