【三年の眺望】第32話:『The Moon and the Sun』
『The Moon and the Sun』
https://youtu.be/sT7RVwbD8F8
※こちらで視聴可能です
前回の喧嘩が嘘のように、その日の練習スタジオは和やかな空気に満ちていた。ミオとルナは、まだ少しだけお互いに探るような素振りを見せつつも、くだらないことで笑い合える、いつもの関係に戻っていた。
「いやー、この前はマジで悪かったな。私もちょっと熱くなりすぎたわ」
休憩中、ミオが照れくさそうに頭をかいた。
「こっちこそ。言いすぎたってのはわかってたんだけどね。ま、雨降って地固まるってことで」
ルナもスティックを回しながら、素直に返す。
「よかったー!二人が仲直りしてくれて、私すっごく嬉しいよー!」
ユメカが満面の笑みで二人に抱きついた。
そんな様子を静かに見ていた葵が、おもむろに立ち上がり、スタジオの隅に立てかけてあったアコースティックギターを手に取った。
「え、葵?それ、どうしたの?」
ミオが尋ねると、葵はメンバーの前に座り直し、静かに言った。
「……ちょっと、聴いてほしい曲がある」
その言葉に、スタジオの全員が息をのんだ。葵が新曲を持ってくることはあっても、アコギで、しかも「聴いてほしい」と自ら切り出すのは初めてのことだった。
「え、葵が歌うの!?」
「しかもアコギ…?」
ミオとルナが驚きの声を上げる。
葵は何も答えず、ポロロン…と、どこか物悲しくも美しい、情熱的なメロディを奏で始めた。それは、いつも彼女たちが演奏するロックとは全く違う、アルゼンチンフォークを思わせるしっとりとした調べだった。
そして、いつもはミオに託されるボーカルを、葵自身のか細く、しかし芯のある澄んだ声で、歌い始めた。
「月が泣いている夜の空
ひとりぼっちで夢を見てた…」
メンバーは、ただただその光景に圧倒されていた。葵の弾き語りという、あまりにもレアな光景。そして、その胸を締め付けるような美しいメロディと歌声。誰もが、言葉を発することも忘れ、その音の世界に引き込まれていく。
「…月と太陽が踊る空
出会えぬけれど感じる絆…」
歌い終わった後、スタジオは感動的な静寂に包まれた。最初に沈黙を破ったのは、ユメカだった。
「あ、葵ちゃーん…!すっごく、すっごく素敵だったー!」
目に涙を浮かべながら、ユメカは葵に駆け寄った。
「すごい…アルゼンチンフォークのような、情熱的で哀愁のあるメロディ…。葵さん、こんな曲も作れたんですね」
凛も、心から感心した様子でため息をついた。
その時、ルナがふと何かに気づいたように、ニヤリと口の端を上げた。
「…ん?月…?」
そして、隣にいるミオの顔をちらりと見る。
ミオもハッとした表情で、自分の胸を指さした。
「太陽…?」
ルナは、面白そうに葵を見つめた。
「へー、やるじゃん葵。月と太陽に、もっと仲良くしろよってか?遠回しな説教?」
「うわー!マジか!葵、お前ってやつはー!」
ミオもその意図を察し、感動のあまり葵に抱きつこうとする。
葵は、そのミオの腕をひらりとかわし、顔を赤らめながら、そっぽを向いて言った。
「……別に。ただ、そういう曲ができただけ」
「出たー!葵ちゃんのツンデレだー!」
ユメカが嬉しそうにはしゃぐ。
「でも、本当にいい曲だね。『出会えぬけれど感じる絆』か…。うちらのことみたいじゃん」
ルナが、少し照れくさそうに言う。
「うん。葵がくれた、私たちへのプレゼントだね。ありがとう、葵」
ミオが、今度は真剣な眼差しで、まっすぐに礼を言った。
葵は、そんなメンバーの視線から逃れるように、再びアコギをケースにしまいながら言った。
「…練習、再開する」
その照れ隠しが、彼女なりの最大の優しさだと、もうみんなわかっていた。
言葉足らずなギタリストが、たった一つの曲に込めた、不器用で、温かいメッセージ。それは、喧嘩を乗り越えた二人の心と、バンド全体の絆を、さらに強く結びつけてくれた。
「よし!この曲、うちらで最高のバンドアレンジにしてやろうぜ!」
ミオの掛け声に、メンバーは力強く頷いた。
皆の心に、確実に届き響いた歌詞とメロディであった。
【歌詞】
月が泣いている夜の空
ひとりぼっちで夢を見てた
静けさの中で息をして
光が届かない場所で
太陽は笑う朝の光
あたたかさで世界を包む
遠く離れたその距離でも
想いはいつか重なるかな
月と太陽が踊る空
出会えぬけれど感じる絆
夜と朝の境目で
永遠に響く愛の歌
月が見上げる広い宇宙
太陽の声が風に揺れる
二つの心が交わる時
奇跡が生まれるこの世界で
光と影が奏でる調べ
見えないけど確かな証
闇の中でも手を伸ばして
その温もりに触れたいだけ
月と太陽が踊る空
出会えぬけれど感じる絆
夜と朝の境目で
永遠に響く愛の歌
『The Moon and the Sun』
https://youtu.be/sT7RVwbD8F8
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