表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/39

【バンド結成秘話】第3話:絆と「東京たんこぶ」の誕生

四人のメンバーが揃い、初めてのスタジオ練習の日を迎えた。


ミオが予約したスタジオは、壁一面に吸音材が貼られ、いかにもプロが使うような雰囲気だ。

ギターのあおいはアンプの調整に余念がなく、ベースのユメカは新品の機材に目を輝かせている。ドラムのルナは、普段のおっとりとした表情とは裏腹に、ドラムセットを前にすると途端に「ドラム魔神」の顔つきになり、スティックを握りしめた。ボーカルのミオは、早くもスタジオの空気に興奮を隠せない様子だ。

最初は、お互いを探り探りの状態だった。


「じゃ、まずは簡単なコードで合わせてみる?」

ミオがリードする。

葵の正確で研ぎ澄まされたギターの音色が、スタジオに響き渡る。それに、少し頼りないが、不思議な温かさを持つユメカのベースが続く。ルナがスティックを振り下ろすと、嵐のようなパワフルなドラムが全体を力強く支え、ミオの魂の叫びのような歌声がその上に乗った。


最初はばらばらだった音が、何度も合わせるうちに、少しずつ、まるで魔法にかかったように心地よいグルーヴを生み出していく。ユメカが少しリズムを外しても、ルナのドラムがさりげなく修正し、葵のギターが安定した土台を作る。ミオの情熱が、そのすべてをまとめる。


「すごい!なんか、音が繋がってる!」

ユメカが感動したように目を輝かせた。

「へへ、なかなかやるじゃん、お前ら」

ルナは普段の口調に戻って、少し照れくさそうに笑った。

「私たちの音、なんだかすごいことになる気がする!」

ミオも興奮を隠せない。練習が終わる頃には、初対面のぎこちなさは消え、確かな絆が生まれ始めていた。


練習後、四人は近くのファミレスでバンド名を考える会議を開いた。メニューを広げながら、各自が思いつく限りのバンド名を紙に書き出していく。

「『エターナル・フレイム』とかどうかな?熱い感じで!」

ミオが目を輝かせる。

「うーん、なんか既視感あるかも…」

ルナが頬杖をつきながら言う。

「じゃあ、『サイレント・アロー』とか?葵ちゃんのイメージで!」

ユメカが葵の顔を覗き込むが、葵は「……ちょっと、恥ずかしい」と小さくつぶやいた。

なかなかこれという名前に決まらない。


その時、ユメカがふと思いついたように、口を開いた。

「あのね、私、入学式の次の日に、遅刻しそうになって転んじゃった時、おでこにたんこぶ作ったんだ。その時、葵ちゃんが『大丈夫?』って言ってくれて…」

ユメカは、あの日の朝の出来事を語り始めた。

「たんこぶってさ、転んだ証拠だけど、頑張って立ち上がった証拠でもあるよね?だから、なんか、いいことだと思うんだ。前に進んだ証拠っていうか…」

ユメカの言葉に、ミオがハッと顔を上げた。

「それだ! ユメカ、天才! 転んでも立ち上がる、へこたれない。それって、私たちが歌いたいことそのものじゃん!」


ミオは興奮気味に身を乗り出した。

「私たち、東京の高校生だから、”東京”を付けよう! 『東京たんこぶ』! Tokyo Bump.! ダサいって言われるかもしれないけど、それが逆にイイじゃない? なんか、忘れられない名前になる気がする!」

ミオの提案に、葵は無言で頷いた。ルナも「なんか、すっげー面白そうじゃん! やったるか!」と乗り気だ。こうして、バンド名は「東京たんこぶ (Tokyo Bump.)」に決定した。


「そういえばさ、ミオ。ピアノのうまい幼馴染いるって言ってたじゃん? キーボード、サポートでお願いしてみようかな」

ルナがふと提案した。

「あ、りんのことね! 小学生の頃からずっとピアノ教室一緒だったんだ!」

ミオは翌日、凛に連絡を取り、学校帰りに駅前のカフェで会うことにした。

「凛、今度、私バンド始めたんだ。キーボード、すごく上手いから、もしよかったら、サポートで手伝ってくれないかな? 『今だけでも一緒に本気やってみよう』って思ってるんだ」


ミオの熱い誘いに、凛は少し戸惑いながらも、ミオの真剣な眼差しに心を動かされた。

「ミオがそこまで言うなら、いいよ。本気、乗ってみる」

凛の快諾に、ミオは満面の笑みを浮かべた。


「あのね、私、バンドの自己紹介曲、書きたいな!」

メンバーが揃い、絆が深まった頃、ユメカが突然そう言い出した。

「ユメカ、すごい! 任せた!」

ミオが目を輝かせる。


ユメカは、自分の視点で、転んでも立ち上がる「たんこぶ」の想いを歌詞に込めた。

「転んで泣いた夜に ギターだけが鳴ってた」

「たんこぶ=転んだ証」──彼女らしい、ポジティブで等身大な言葉が並んだ。


ミオはその歌詞を受け取り、魂を込めてメロディをつけた。メンバー全員でアレンジを練り、葵の鋭いギターリフ、ルナの力強いドラム、ユメカの温かいベースライン、そして凛の繊細なキーボードが、ミオの歌声と一体となり、バンドの魂を込めた自己紹介曲「Tokyo Bump!」が完成した。


完成した曲を初めて合わせた日、全員の顔に充実した笑顔が浮かんだ。

「私たち、きっと大丈夫。転んでも、また立ち上がれるから!」

ミオの歌声が響き渡る。

「Tokyo Bump! でっかいたんこぶできるくらい夢にぶつかって!」

その歌詞が、彼女たちの進む道を照らす。

失恋しても、傷ついても、たんこぶができても、きっと大丈夫。

またいつか笑える日が来るから。


そんな彼女たちの、ポジティブで等身大な音楽が、今、始まる。

「東京たんこぶ (Tokyo Bump.)」は、小さなライブハウスのステージから、大きな夢へと向かって走り出したのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ