表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/39

【三年の眺望】第29話:『一等星ランナーズ』

『一等星ランナーズ』 

https://youtu.be/zuJdHz-hHHc

※こちらで視聴可能です


体育祭の熱狂がまだ肌に残る、数日後の放課後。いつもの練習スタジオは、心地よい筋肉痛と高揚感の名残で満ちていた。メンバーたちは床に座り込み、ペットボトルを片手に今日の練習を振り返っていた。


「いやー、体育祭、マジで燃えたね~!もう一回やりたいくらいだわ!」

ミオが、思い出したように大きな声で叫んだ。その顔は、まだ興奮で少し赤い。

「ミオは特に張り切ってたもんな。リレーの最後の追い上げ、すごかったじゃん。毎朝の遅刻寸前の猛ダッシュが活きたな(笑)」

ルナがニヤニヤしながらミオをからかう。


「うっさいわね!あれは日頃の鍛錬の賜物なの!」

「でもミオちゃん、顔がすごかったよ!鬼みたいだった!」

ユメカが純粋な瞳で追い打ちをかけると、ミオは「ぐぬぬ…」と唸った。


「それより、葵ちゃん!リレーで盛大にずっこけてたけど、本当に大丈夫だった?たんこぶできてない?」

ユメカが心配そうに葵の足元を覗き込む。体育祭のクラス対抗リレーで、葵はアンカーとして走っている最中に派手に転倒してしまったのだ。


葵は、チューニングしていたギターから顔を上げず、静かに、しかしきっぱりと言った。

「……へっちゃら」

その短い一言に、葵らしい強さを感じて、メンバーはほっと胸をなでおろした。


「だよな!転んでもすぐ立ち上がって、また走り出す葵、めちゃくちゃカッコよかったぜ!」

ミオは自分のことのように興奮し、パン!と手を叩いた。

「そうだ!この熱い気持ちが冷めないうちに、曲にしよう!体育祭のアンセム作るぞ!」

「出た、ミオのすぐ曲にしたがるやつ」

ルナが呆れたように言うが、その口元は楽しそうだ。


「タイトルは…『一等星ランナーズ』!どうよ!うちら一人一人が主役で、一番星みたいに輝いてたって意味!」

「おー!なんか壮大で良いじゃん!」

ユメカが目を輝かせる。

「『よーい、ドン!』で世界が動き出す感じとか、風を切って走る感じ、絶対カッコいい曲になる!」

ミオの頭の中では、もうイントロが鳴り響いている。


「でもさ、やっぱ一番グッときたのは、葵が転んだ時だよな。『ドンマイ!』ってクラスのみんなが叫んでさ…」

ミオは感動を思い返しながら、とんでもないことを言い出した。

「そうだ!葵が盛大にずっこけた話、歌詞に入れようぜ!『ヘタクソでもいいんだよ、転んだ数だけ速くなる』とか、『転んだ跡も宝物さ』って感じでさ!」

ミオが名案だとばかりに葵を見ると、葵はゆっくりと顔を上げ、氷のように冷たい視線をミオに向けた。


「………」

何も言わない。だが、その目は全く笑っていなかった。背筋が凍るような無言の圧力に、ミオはゴクリと喉を鳴らした。

「じょ、冗談だって、アオイさん…!アハハ…」

ミオが冷や汗をかきながら後ずさると、葵はふいっと顔をそむけ、再びチューニングに戻った。その場の全員が、葵を怒らせてはいけない、と心に誓った瞬間だった。


「で、でも、勝ち負けだけじゃないドラマが、確かにありましたよね」

場の空気を和ませるように、りんが優しく微笑んだ。

「みんなで一つのバトンを繋いで、声を合わせて応援して…。『ねぇ、今だけは、あたしら主役ってことでしょ?』って、みんなが思ってた気がします」

「そうそう!それ!凛、わかってるー!」

ミオが凛の言葉に救われたように飛びついた。


「葵もさ、なんか一言!あの時の気持ち、どんな感じだった?」

ミオに話を振られ、葵は少しだけ考えるそぶりを見せた後、静かに、しかし力強く言った。

「……無言のエール、音に込めて。今日も弾く、それがすべて」

自分の決めゼリフを、体育祭の感動に重ねてみせた。


その言葉に、スタジオの空気が再び熱を帯びる。

「それだーーーっ!!」

ミオが叫ぶ。

「最後のサビの前に、葵のそのセリフ入れよう!絶対カッコいい!」

「いいね!『駆け抜けろ、一等星ランナーズ!』って感じ、してきた!」

ユメカもすっかり乗り気だ。


こうして、また一つ、「東京たんこぶ」に新しいナンバーが追加されることになった。

体育祭の汗と涙、そしてちょっとしたハプニングが詰まったこの曲は、きっと彼女たちの青春そのものを体現する、最高に熱いアンセムになるだろう。

『一等星ランナーズ』 

https://youtu.be/zuJdHz-hHHc

※こちらで視聴可能です


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ