【三年の眺望】第28話:『私の気持ちが揺れるモノ』
『私の気持ちが揺れるモノ』
https://youtu.be/GQ-tIJn_vSk
※こちらで視聴可能です
皆、無事に三年生になり、練習を終えたメンバーたちは、床に座り込んでお茶を飲みながら、リラックスした時間を過ごしていた。
「あー、練習後のお茶、最高…」
ミオが満足げに息をつくと、他のメンバーも同意するように頷く。そんな和やかな空気の中、キーボードの凛が、少し照れたように、でも嬉しそうに口を開いた。
「あの…実は、また歌詞を書いてきちゃったんです」
凛がはにかみながらノートを取り出すと、メンバーの視線が一斉に集まった。
「お、凛!新作!?」
「今回はどんな感じ?また応援歌?」
ミオとルナが興味津々で尋ねる。
「ううん、今回はね…私の好きな物を、ぎゅっと詰め込んでみたんだ~♪」
凛は、本当に楽しそうに、そして少し誇らしげに言った。
「なになにー!凛ちゃんの好きな物、知りたい!」
ユメカがキラキラした目でノートを覗き込む。凛は、そのノートのページをミオに渡した。ミオは代表して、その歌詞を朗読し始めた。
「レトロな喫茶店のプリン。うるっと光るカラメルがツボ」
最初のフレーズを読んだ瞬間、ユメカが「わかるー!固いやつだよね!チェリーが乗ってるやつ!」と興奮気味に声を上げた。
「うんうん、プリンは正義!てか、『うるっと光る』って表現がもうエモい!」
ミオも頷く。
「新品のノートの表紙。ちょっと大人っぽいの選んだ」
「あ…」
今まで黙っていた葵が、小さく、しかし確かな共感の声を漏らした。その反応に、ミオとルナはニヤリとする。
「へー、葵はそっち派なんだ。私は新しいスティック買った時の木の匂いとかかな」
ルナが言うと、それぞれの「好きな物」の話で盛り上がり始めた。
「私の気持ちが揺れるモノ。フルーツサンド、レースの靴下」
ミオが続きを読むと、ユメカが「かわいいー!」と歓声を上げる。
「女子力たけーな、凛は」
ルナが茶化すように言う。
「好きな人の名前が出た途端、ドキっとして、また黙るの」
ミオがそこを読み上げた瞬間、スタジオの空気が変わった。
「おっとー?」
ルナがニヤニヤしながら凛を指さす。
「ほぅ?凛さん、これは誰のことですかー?」
ミオも楽しそうに問い詰める。
「え、えっと、これはその…一般的な恋愛における一例というか…」
凛は顔を真っ赤にして、しどろもどろになっている。
「凛ちゃん、恋してるのー?」
ユメカが純粋な瞳で尋ねると、凛は「違いますってばー!」と、さらに慌てた。
「……わかりやすい」
葵が静かに、しかし決定的な一言を放ち、凛はとうとう顔を両手で覆ってしまった。
「でも、『急にほめられ照れた午後』とか、めちゃくちゃわかるー!」
ミオがからかうのをやめ、再び歌詞の世界に浸る。
「わかる!不意打ちの『今日の髪型いいね』とか、心臓に悪い!」
「あと、『夜のコンビニ』の独特の雰囲気もなんかいいよね!」
ユメカとルナも共感の声を上げた。
「好きって気持ちは、カワイイだけじゃない。ちょっと寂しさとか、意地っ張りも入ってる」
そのフレーズに、メンバーは少しだけ真剣な表情になった。それぞれの胸の中にある、甘いだけじゃない恋の記憶が、そっと顔を出す。
そして、ミオは最後のフレーズを読み上げた。
「私の気持ちが揺れるモノ。チョコレート、図書室の匂い、君とすれ違ったときの呼吸。全部がね、恋に近づく。そんな季節が、今なんだ」
読み終えたスタジオは、温かくて、少しだけ切ない、優しい空気に包まれていた。
「凛…これ、すっごくいいじゃん。なんか、キラキラしてて、キュンとする。凛の『好き』が全部詰まってる感じ」
ミオが、心から感心したように言った。
「はい。ありがとうございます。自分の気持ちが揺れる、ささやかな瞬間を集めてみたんです」
凛は、はにかみながら答えた。
「……優しい曲になりそう」
葵がポツリとつぶやく。
その言葉に、凛は待ってましたとばかりに顔を輝かせた。
「そうなんです!実は、メロディも少し考えてて…」
凛はそう言うと、キーボードの前に座り、指を鍵盤に滑らせた。
スタジオに、キラキラとした、それでいて少し切ない、優しいメロディが流れ始める。それは、凛の「好き」な気持ちがそのまま音になったような、心地よい調べだった。
メンバー全員が、その音色に静かに聴き入る。
こうして、また一つ、「東京たんこぶ」に新しいナンバーが追加されることになった。
凛の「好き」がぎゅっと詰まったこの曲は、きっと聴く人の日常にある小さな幸せを思い出させてくれる、最高のポップソングになるだろう。
『私の気持ちが揺れるモノ』
https://youtu.be/GQ-tIJn_vSk
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