【二年の情景】第23話:『写真と恋』
『写真と恋』
https://youtu.be/HbS4qxMK0NU
※こちらで視聴可能です
日常の風景、そしてファインダー越しの恋
ある日の放課後、練習スタジオでの一コマ。メンバーたちがそれぞれの楽器のメンテナンスをしたり、談笑したりしている中、ミオはそわそわと落ち着かない様子で、ルナの周りをうろついていた。
「ねぇ、ルナ…」
「ん?なに?」
「あのさ、ちょっと…頼みがあるんだけど…」
ミオが珍しく歯切れの悪い言い方をすると、ルナはスティックを回す手を止め、ニヤリと笑った。
「はいはい、どうせまた変なことでしょ?で、今度は何よ」
「ち、違うわよ!今回はマジで真剣なやつ!」
ミオは深呼吸を一つすると、声を潜めてルナの耳元でささやいた。
「…ちょっと、気になる子がいてさ。その子の写真、撮りたいんだよね。だから、一緒につきあってほしいの」
その言葉に、ルナは目を丸くした。
「はぁ!?ミオが?ストレートに告白するタイプだと思ってたあんたが、隠し撮り!?」
「か、隠し撮りじゃないわよ!芸術的な記録!思い出のアーカイブ!」
「はいはい、どーでもいいけど。で、どんな子なわけ?」
ルナが面白そうに問い詰めると、ミオは少し頬を赤らめながら話し始めた。
「部活帰りの横顔とか…何気ない仕草が、なんか、すっごくキラキラして見えて…どうしてこんなにまぶしいの?って感じ…」
「えー!ミオちゃん、恋してるのー!?応援するー!」
会話を聞きつけて、ユメカが目を輝かせながら駆け寄ってきた。
「それで、どうやって撮るの?」
ミオは、カバンから小さなデジカメを取り出した。
「これ、この前おこづかいで買ったんだ。スマホだとシャッター音とか気になるし、なんか本気っぽくてさ…。放課後の駅前とかで、気づかれないように一枚撮りたいんだけど、一人だと怪しいじゃん?だからルナが隣で普通に話しててくれたら、自然かなって…」
「……ストーカーみたい」
今まで黙ってギターを弾いていた葵が、ボソリとつぶやいた。
「だーかーらー!違うってば!」
ミオがムキになって反論する。
「でも、好きな人の写真、撮りたくなる気持ち、わかります」
凛が、優しく微笑みながら言った。
「アルバムには並ばない、だけど宝物みたいなフレーム…ですね」
「そう!それ!凛、わかってるー!」
ミオは凛の言葉に激しく同意した。
「体育祭の時もさ、友だちのふりしてズームインしたんだけど、ちょっと罪悪感あったなー」
「やってんじゃん、がっつり」
ルナが呆れたように言う。
「フォルダにそっと名前つけて保存してんだろ、どうせ」
「…うっ…」
図星を突かれたミオは言葉に詰まる。
「“好き”って言葉よりずっと、リアルに感じるんだよ、この瞬間は…」
ミオはデジカメを愛おしそうに撫でながら、切なそうに言った。
「写真と恋は似てるね」
ミオはふと、遠くを見つめてつぶやいた。
「え?」
「目に見えないけど、たしかにある感じとか、すれ違う距離のままでも、心は何度もピント合わせてる感じとかさ」
その詩的な表現に、メンバーは静かに耳を傾ける。
「本当はもっと近づきたい。でもね、怖いんだよ。バレたら終わっちゃうような気がして…。保存したままのフォルダに、気持ちまで閉じ込めてるみたいでさ」
ミオの、普段の熱血な姿からは想像もつかない、繊細で臆病な一面。そのギャップに、メンバーはそれぞれ思うところがあった。
「見てるだけじゃ足りなくならないわけ?」
ルナの核心を突く質問に、ミオは力なく頷いた。
「なるよ…なるけど、あと少し、今のままで、この距離を大事にしたいんだ」
そして、ミオは顔を上げた。その瞳には、いつもの情熱の光が戻っていた。
「…この気持ち、曲にするわ!」
「出た、ミオの十八番」
ルナが笑う。
「タイトルは『写真と恋』!この、ファインダー越しにしか伝えられない想いを、最高のラブソングにしてやる!」
ミオは力強く拳を握りしめた。
「いいね!削除できないこの想い、いつか渡せるといいね、ミオちゃん!」
ユメカが純粋な瞳で応援する。
ミオは、そんなメンバーの顔を見渡し、少し照れくさそうに、でもはっきりと頷いた。
「うん…!いつか、ちゃんと伝える。このカメラ越しじゃなくて、自分の目で、自分の言葉で」
こうして、また一つ、「東京たんこぶ」に新しいナンバーが追加されることになった。
ミオの切なくて、でも確かな恋心が写ったこの曲は、きっと多くの人の共感を呼ぶ、等身大のラブソングになるだろう。
『写真と恋』
https://youtu.be/HbS4qxMK0NU
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