【二年の情景】第22話:『きんぎょ、ひらり。』
『きんぎょ、ひらり。』
https://youtu.be/QVYrzQ7G8wU
※こちらで視聴可能です
日常の風景、そして夏祭りの恋予感
夏休みも終盤に差し掛かったある日。「東京たんこぶ」のメンバーたちは、久しぶりに全員でスタジオに集まっていた。練習を終え、床に座り込んで近況報告に花を咲かせている。
「あー、夏休みももうすぐ終わりかー。宿題ぜんぜん終わってないんだけど!」
ミオが頭を抱えて叫ぶ。
「私は終わらせたよ。ミオ、最終日に泣きついてきても知らないからね」
ルナが涼しい顔で言うと、ミオは「うぐっ」と呻いた。
「そういえば、この前の週末、近所の神社でお祭りやってたけど、みんな行った?」
凛がにこやかに尋ねると、ミオとルナは「行った行った!」と声を揃えた。
「私はミオと行ったけど、ユメカは誰と行ったの?なんか、さっきからソワソワしてない?」
ルナが鋭い視線をユメカに向ける。
言われたユメカは「えっ!?」と肩を揺らし、頬を赤らめた。
「えへへ、実はね、私も行ったんだよ!」
「誰と?もしかして…彼氏!?」
ミオが目を輝かせて詰め寄ると、ユメカはぶんぶんと首を横に振った。
「ち、違うよー!友だちだよ、友だち!中学の時の!」
その慌てぶりに、メンバーたちはニヤニヤと顔を見合わせる。
「へー、その『友だち』と、どんな感じだったわけ?」
ルナが面白そうに聞くと、ユメカは少し恥ずかしそうに、でも嬉しそうにその日のことを話し始めた。
「浴衣着て下駄履いて神社で待ち合わせしたの!もう向かってる時にはテンション100%だったよ!」
ユメカは楽しそうに身振り手振りを交える。
「ヨーヨーすくいして、かき氷食べて、チョコバナナ片手に境内を走ったりして、すっごく楽しくて!」
「うんうん、それで?」
ミオが先を促す。
「それでね、射的があったんだけど、私が頑張ったらぬいぐるみが当たって!すっごく嬉しかったんだけど、なんか…気づいたら、その子に『あげる!』って渡しちゃってて…」
「おっとー?」
ルナがニヤリとする。
「なんで渡しちゃったんだろうって、後で思ったんだけどね!えへへ」
照れ笑いを浮かべるユメカに、ミオは「それもう、好きってことじゃん!」と大声でツッコんだ。
「あとね、金魚すくいもしたんだ!きんぎょがひらりって泳ぐの見てたら、なんか、私の心もふわりって軽くなるみたいで…。ちょっとだけ、特別な夜だなって思ったんだ」
ユメカはうっとりした表情で続ける。
「その子がこっち向くたびにドキドキしちゃって、うちわで顔隠してごまかしたんだけど…うまくごまかせてたかなぁ?」
「絶対バレてるでしょ、それ」
今まで黙っていた葵が、冷静に、しかし的確な一言を放った。
「ええー!?」
ユメカが本気でショックを受けている。
「神楽囃子が遠くで聞こえてきて、最後に線香花火をやったの。一つだけ残ってたのを、その子が『ほら』ってくれて…。ちいさな光が、なんか胸の中で灯るみたいで、すごく綺麗だったんだ」
ユメカの言葉に、スタジオは甘酸っぱい空気に包まれた。
「友だち以上、恋未満って感じかなぁ。気づいてるけど言えないままなんだけど…。でもね、あの夏の夜なら、ほんの少しだけ、素直になれそうだなって思ったんだ」
ユメカの話を聞き終えたミオは、目をキラキラさせながら叫んだ。
「ユメカ!その甘酸っぱい気持ち、曲にするしかないっしょ!」
「えー!でも、まだ恋って決まったわけじゃ…」
「いいのいいの!『恋の予感』が大事なんだって!ほら、『きんぎょ、ひらり』ってフレーズ、最高にエモいじゃん!」
ミオはすでに頭の中でメロディを組み立て始めているようだった。
「いいね、きんぎょ、ひらり。なんか、ユメカっぽい」
ルナが頷く。
「浴衣の袖が揺れるたび、恋の予感が聞こえる…素敵ですね」
凛も優しく微笑んだ。
「よし!タイトルは『きんぎょ、ひらり。』で決まりだな!」
ミオが力強く宣言する。
「花火に照らされた笑顔、ずっと忘れたくないよね。夏が終わるその前に、この気持ち、ちゃんと形にしとかないと!」
「うん!」
ユメカは、自分の淡い恋の予感が、バンドの新しい曲になっていくことに、胸をときめかせながら力強く頷いた。
こうして、また一つ、「東京たんこぶ」に新しいナンバーが追加されることになった。
ユメカの、ひと夏の甘酸っぱい思い出が詰まったこの曲は、きっと聴く人の心をキュンとさせる、最高のラブソングになるだろう。
『きんぎょ、ひらり。』
https://youtu.be/QVYrzQ7G8wU
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