【日常の風景】第13話:『誰のルール?』
『誰のルール?』
https://youtu.be/UbOkcqC3RUw
※こちらで視聴可能です
「東京たんこぶ」のメンバーたちは、初のライブを成功させた達成感を胸に、日常のスタジオ練習に打ち込んでいた。次のライブに向けて、新しい曲作りのアイデアを出し合ったり、完成した曲を練り直したりと、彼女たちの音楽活動は活気に満ちていた。
その日の午後、スタジオのドアを開けて中に入った葵は、予想外の光景を目にした。ルナが一人、ドラムセットに座り、まるで感情をぶちまけるかのように、激しくスティックを叩きつけていた。それは、いつものグルーヴ感溢れる「ドラム魔神」の演奏とは少し違っていた。正確でありながら、どこか荒々しく、苛立ちが音になって弾けているかのようだ。金髪ツインテールが乱れ、表情には珍しく焦燥が滲んでいる。
葵が声をかけようか迷っていると、その時、ミオがスタジオに入ってきた。
「ルナ! 何やってんの、こんなに派手に…」
ミオはルナのただならぬ様子に気づき、すぐにドラムのそばに駆け寄った。
「あー! むしゃくしゃする!」
ルナは、スティックを放り投げるようにして叫んだ。その口調は、ドラムを叩くときの「ドラム魔神」ではなく、普段の少しやんちゃで素直なルナのものだった。
「どうしたの? こんなにむしゃくしゃしてるなんて、珍しいじゃん」
ミオはルナの隣に座り、優しい声で尋ねた。
ルナは、はぁ、と大きくため息をつきながら、ミオに愚痴をこぼし始めた。
「なんかさ、最近、学校のルールとか、大人の言うこととか、全部納得いかないことばっかりでさ。なんでスカートはこれ以上短くしちゃダメとか、メイクはダメとか、うるさいんだよ! こっちの人生でしょって感じだし、『女の子なんだからちゃんとしなきゃ』とか、誰が決めたんだよそんなの!」
ルナの言葉は、普段の明るさとは裏腹に、強い怒りと不満に満ちていた。
ミオは、じっとルナの話を聞いた。情熱型のミオ自身も、社会や大人への疑問や、自分らしくありたいという強い衝動を抱えている。ルナの言葉は、ミオの心にも深く響いた。
「わかるよ、その気持ち。私も、そういうの、ずっと感じてた。強くなりすぎたフィルターとか、息苦しいよね」
ミオはルナの肩をポンと叩いた。
「ねぇ、ルナ。それ、歌にしちゃいなよ! ストレートでいいと思う。ルナのドラムみたいに、ぶっ飛ばすような、ルールなんて蹴散らすような曲にしよう!」
ミオの提案に、ルナは驚いたように顔を上げた。
「え、歌? 私が?」
まさか自分のむしゃくしゃした気持ちを、バンドの曲にするなんて。しかし、ミオの熱意と、自分の感情を音にできるというアイデアに、ルナの心は強く惹かれた。
そこに、ユメカと凛もスタジオに入ってきた。
「ルナちゃん、どうしたの? すごい音がしてたよ!」
ユメカが心配そうに尋ねる。
「ルナがね、普段感じてるモヤモヤとか、怒りとかを歌詞にするんだって!」
ミオが興奮気味に説明すると、ユメカと凛は目を丸くした。
ルナは、少し照れながらも、自分の抱えていた感情を、言葉として紙に書き出し始めた。ミオも、その場でルナの言葉に合わせたメロディを口ずさみ始める。ルナは、書き上げた歌詞を、少し照れながらも、どこか誇らしげにメンバーに読み上げた。
「『スカート短いよ』
『メイクはダメだよ』
——うるさいな、こっちの人生でしょ?」
ユメカは「わかるー!」と共感し、凛は静かに頷いている。
「ルールって誰の?
押しつけるだけの“常識ごっこ”
わたしはわたし
黙らない、曲げない、逃げない」
ルナの言葉は、普段の彼女からは想像できないほど、ストレートで力強かった。
「間違ってるのは私じゃない
転んだっていい、笑われてもいい
たんこぶつけて、進むから」
ミオは「そうだよ、ルナ! 『たんこぶつけて、進むから』って最高じゃん! まさに私たちだよ!」と興奮気味に言った。葵は、静かに歌詞を聞きながら、ルナの秘めた情熱に深く頷いていた。
「怒鳴るだけの授業
聞いてない大人
“正解”しか認めないって変じゃない?」
「わたしの鼓動は
誰にもジャッジさせない」
読み終えたルナは、少し顔を伏せたが、その表情はスッキリとしたものだった。
「どう…かな…」
「ルナ! これ、めっちゃいいじゃん! ルナの全部が詰まってる!」
ミオが興奮してルナの肩を揺らす。
「最高! ルナちゃん、こんなこと思ってたんだね! 私、この歌詞、すごく好き!」
ユメカも目を輝かせた。
「ルナさんの真っ直ぐな想いが伝わってきます。とても力強い曲になりそうです」
凛も、優しい笑顔でルナを見つめた。
葵は言葉少なだが、その瞳には、ルナの新たな一面と、その歌詞が持つ力への深い共感が宿っていた。
こうして、ルナが作詞し、ミオが作曲を主導しながら、メンバー全員でアレンジを練り上げた新曲が生まれた。ルナのパワフルなドラムが歌詞のメッセージを乗せて力強いビートを刻み、葵のギターが鋭い音で反骨精神を表現する。ユメカのベースは、ルナの感情のうねりに寄り添い、凛のキーボードは、楽曲に深みと疾走感を与える。ミオの歌声は、ルナの叫びを代弁するかのように、力強く、そして魂を込めて響き渡るだろう。
また一つ、「東京たんこぶ」に新しいナンバーが追加されたのであった。この、ルナの内に秘められた反骨精神と、自分らしさを貫く決意を歌った曲は、きっと多くの人の共感を呼び、彼女たちのライブに新たな熱狂を生み出すだろう。
『誰のルール?』
https://youtu.be/UbOkcqC3RUw
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