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007「ICHIGO!!はプロ」

 日をまたいで入学から四日目の朝。

 今朝は(つくも)と一緒に登校することになっていた。

 朝一番に白に何か問題がないかを確認しておく必要があるだろうというカガさんの提案だった。

 ということで、いつもよりも一本だけ早い電車に乗り、白がいつも乗車してくる駅で降りた。

 そのまま、昨日聞いた白の家へと向かおうとしていたところ意外な人物に遭遇した。

 黒く短めのツインテールに薄い桃色(本人曰く薄い苺色)のメッシュが入った髪。そのメッシュと似た色味の瞳。そして、その左目には眼帯をつけた少女。耳無巳(みなみ)(いちご)がそこにはいたのである。

「あれ?匠じゃん。こんなところで何してるの?」

「俺はの名前は巧切(こぎり)だ」

「匠に切るなんでしょ。じゃあ匠だよ」

 こいつ、昨日からずっと僕の名前を間違えているのである。

 とてつもないアホという訳ではなく、わざと間違えているのだ。

「だ・か・ら、お前の想像しているのとは漢字が違う。俺の(たく)みは精巧(せいこう)(こう)だ。……というか、お前こそ何でここにいるんだよ」

「何でって、友達のお家に向かってるんだよ。はいっ、私は言った。次は匠の番〜」

 いちいち言い方がウザい。

「俺もそうだ。というかお前、部室の片付けなんでサボっ───」

「えぇ〜!匠、友達いたの!?いっつも()()()なのに?」

「ああ、友達がいて悪かったな!というか俺の話を遮るな。お前───」

「誰!誰〜!?これは人類史が動きますぞ!」

 こいつ、また僕の話を遮ってきやがった。部室の片付けをサボった容疑者三人の内、まだ説教してないのはこいつだけなのに。

「こんなことじゃ歴史は変わらねえ。というかそもそもお前、今まで俺に友達がいない前提で付き合ってたのかよ」

「そうだよ。かわいそうだな〜って思いながら馬鹿にしてたよ」

「可哀そうだなんて思ってるなら、そいつのことを馬鹿にするはずがねえ!お前の価値観はどうなっていやがる!」

「えぇ〜?かわいそうな人ってかわいいじゃん」

「何なんだ?お前はSの気があるのか?」

 恐ろしいことを言うやつである。

「とりあえず、俺はその…友達の家に向かうからじゃあな」

 そういえば、僕は白のことを友達と呼べるのだろうか?呼んでよいのだろうか?

 どちらかと言えば、僕と白の関係は白が依頼人で僕はそれを聞き入れたということになるのではないだろうか。

 と、考えていると

「ねえねえ、苺もそっちなんだけど〜。勝手においてかないでよ〜」

 と言いながら、耳無巳が追ってきた。

 もちろん、僕は無視を貫き通す。

「ていうかさ〜、そのオトモダチって愛巴(いとは)ちゃんのこと〜?」

 ギクッ!となりかけた。

「今、ギクッてなったでしょ」

 お前はなんでそんなに鋭いんだ。

「苺もそうだよ〜。あれ?てことは三人で登校することになるのかな〜。楽しみだね」

「全く楽しみじゃない!」

 なんて都合が悪いんだ。これじゃあ、白に呪いについての説明ができないじゃないか。

 しかし、もう一分も歩けば白の家には着いてしまう。あいつの家、駅近すぎるだろ。

「そもそも、お前、今までは白と一緒に登校してなかっただろ。なんで今日だけ一緒に登校するんだよ」

「苺は忙しいらね。学校では会えても、こうやって登校を一緒にするのは難しいんだよ〜」

「お前のその気楽な性格じゃあ、とても忙しいだなんて想像できないけどな」

 そうだ、語尾を伸ばすやつの口から忙しいなんて言葉が出ることなどそうないだろ。

「大体、何がそんなに忙しいんだよ」

「お仕事だよ」

「だから、なんの仕事なんだよって聞いて…」

「ほらっ、もう愛巴ちゃんの家につくよ〜」

 そう言って耳無巳は白の家へと走り出した。

 こいつ、僕の言葉を遮るプロなのか?

 渋々、走って追いかける。

「てかお前、意外と体力あるんだな」

「う〜ん、仕事柄ね」

「だからその仕事って何なんだよ」

「ここを右だ〜」

 耳無巳が急カーブした。僕は急に曲がれず大きく弧を描く。

 こいつ意地でも僕にその仕事を教えないつもりだ。

 言葉を遮るだけではなく色々と逃げることのプロなのかもしれない。

「到着っ」

 そうして、耳無巳は白の家の前で止まった。

「朝からチェイスでもした気分だ」

 まあ、僕は耳無巳のことを追いかけたんだが。

 にしても、白の家広すぎだろ。

 いや、家というか庭が広い。

 木造の和風建築だった。

「愛巴ちゃんいますか〜」

 そうこうしているうちに、耳無巳が家のインターホンを押していた。

「お家、デカいですね」

「デカいとか、子どもみたいな表現だな」

 本当にこんな子どもみたいなやつが忙しいとかあるのか?

「お待たせしてすみません。おはようございます」

 と、謝罪から入る形で、白が玄関の引き戸から出てきた。

「おっはよ〜。愛巴ちゃん」

「おはようございます。って、えぇ〜!苺ちゃんもいるの!?」

「白、おはよう」

「あ、ぁ、巧切さんも、おはようございます」

 ものすごい戸惑い様だ。

 というか耳無巳、事前に伝えず、急に来たのか?

「驚かせちゃってごめんね〜。昨日までは仕事がある予定だったけど、なくなったから、一緒に学校行こうと思って。でも、ドッキリみたいでちょっとおもしろかったかも」

「もう〜、びっくりしたじゃないですか」

「えへへ、ドッキリ大成功〜」

 僕は会話に入れてもらえてないが、まあ、白の安全が確認できただけでもいいだろう。

「ところで、白、こいつの仕事って何なんだ?」

 ずっと疑問だったこと唐突にを白に訊いてみた。

「え!巧切さん、知らないんですか!?」

「えぇ〜、匠、知らないの〜?」

 お前が教えてくれなかったんだろうが!

 にしても、すごい反応をされたな。

 なぜだろう。知ってて当然のようなことなのか?

 だが、たかが同級生の職業だろう。

 そんなもの把握していなくたって、世の中生きていける。

「だから、一体、何なんだよ」

「超人気高校生アイドルですよ」

「高校生アイドル?」

 本当にいたのか高校生アイドルって。

 しかも、超人気って付いてるし。

「そう、何を隠そう、この苺こそが超人気高校生アイドル、ICHIGO!!なのだ。まあ、ちょこっと前までは超人気中学生アイドルだったんだけどね」

 自分でも、超人気ってつけるのか。

「ふ〜ん、どのくらい人気があるんだ?」

「ニュース番組では特集が組まれるくらいです」

「すごいな」

「新曲を出すたびに、音楽番組全部に呼ばれるくらいです」

「かなりすごいな」

「春休みの間に海外でツアー公演をしてきたばかりです」

「すごすぎるな!」

 耳無巳の段々規模がデカくなる自慢に僕は愕然とした。

 なぜ僕はこれほどまでにすごいやつが町中を走り回っていて人が寄ってこなかったのか不思議になってきた。

「ホントに知らなかったんですか?」

「ああ、本当に知らなかった。自分でも驚きだよ」

 白も呆れたような口調で僕に尋ねてきた。

 いや、本当になんで僕は今まで耳無巳のことを認知していなかったんだ?

「じゃあ、苺の凄さを学校に行きながら証明してみせよう」

 こいつ、自分のことをアイドルだと明かしてから急に上から目線になったな。

 まあ、何も言えないが。

「そうだな、そろそろ電車も来るし、急ぐか」

「はい、そうしましょう」

 僕らは学校へと向かった。

 その道中、耳無巳の凄さをこれでもかというほど思い知らされたのだが、後に部室の片付けをサボったことをしっかりと責め立てた。

 どれだけ凄い人間であろうとも、必ずどこかしらに穴はあるのであった。

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