004「理解不能な状況」
白が蛇になっている。
どういう事だ?
いや、原因はどちらかと言えばはっきりしている。こういう事象も起こり得ることは白よりも知っている筈だ。
落ち着こう。今この状況に白自身が一番ついていけていない。
僕はこいつを落ち着かせることが先決だ。
「白、待て。落ち着け。俺はこういうときの対処法を、こういうことの原因を知っている。とりあえず落ち着いて話をしよう」
すると、白は
「本当ですか?巧切さん」
と訴えかけるような眼差しで僕を見つめてきた。
「ああ、俺一人じゃ無理だが、それを解決できる人を知っている」
そうだ。僕はこういう現象を引き起こす原因を知っている。経験している。
よかった。たまたま、第一発見者が僕でよかった。
だがどうする。白は今、蛇だ。いや、今最も重要なことは、僕の前にいる白は一糸纏わぬ姿だということだ。
これを大勢の人間の目に晒すわけには行かないし、そもそも、蛇を連れている学生なんて普通、いるわけがない。どうしてそんな事をするのか誰もが疑問に思うはずだ。
問題に戻ろう。いや、学生が蛇を連れることも十分に問題なのだがまず、──────
僕はこのまま白のことを見続けていいのだろうか。
いい筈がない。
僕は白から目を逸らした。
「巧切さん、どうかしたんですか」
「そうだな…。お前に一つ伝えなければいけない事があるんだが」
「はい。何でしょうか」
「お前は今、そのだな………服を着ていないんだ」
言い切るまでにかなりの間が空いてしまった。
「そんなこと気にしてないですよ。いいので早く私を戻してください。門限に遅れてしまいます」
白は気にしていない様子だった。意外と、強いやつだな。
よかった。これで僕も気にしないで済む…といいんだが。
「ああ、そうだな。じゃあ、早く向かおう。門限に間に合わせたいならなるべく急いでだな。了解した。少し、この中に入っていてくれないか」
そして僕は、蛇になった白と白の制服…などを丁寧に自分のカバンに入れた。
この部分だけを切り取ればクラスメイトの衣服(おそらくつい先ほどまで着用していた)をカバンに詰めている怪しいやつになってしまうな。
犯罪臭しかしないな。
白含め、全部入れ終わるとカバンを背負いなおし、すぐに立ち上がった。
「少し揺れるぞ」
「はい。問題ありません」
白は急いでるみたいだし、学校のやつに見つかりでもしたら色々おしまいだ。
人目につかないところを通るか。まあ、いつもそうなんだが。
僕は南にある校門ではなく、駅のある東へと走った。
そのまま学校の塀を飛び越える。
人がいないことを確認して、目の前にあるビルの外付けの非常階段を上がるのではなく登り、六階建のビルの屋上に着くと、駅まで真っ直ぐに家や店、建物から建物へと飛び移った。
白が悲鳴を上げているような気がしたが、急いでいるという本人の希望に応えて速度を上げる。
駅に着き、ギリギリで電車に乗り込む。
駆け込み乗車は危険だと習ったがこの際関係ない。良い子のみんなは真似しないように。
かなり、全速力で来たので呼吸が荒くなっていた。
白は大丈夫だろうか?ふと、心配に思った。
しんとしているが、人目につくところで話すとまずいと考えてのことだと思い至ると別に心配でもなくなった。
*
目的地のすぐ近くまでついたところで白が急に話しかけてきた。
「巧切さん、ものすごく揺れて、ついさっきまで気絶していたのですが私は何かのアトラクションにでも乗っていたのでしょうか」
「いや、俺が駅まで真っ直ぐ全力で急いでただけだぞ」
どうやら、白は気絶していたらしい。