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クライアイ  作者: 九囮銘迷
第一章「毒牙」
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001「邂逅―」

 高校入学から三日目。

 話しかけてこないし、話したくなさそうにしている人という刷り込みは順調に進んでいた。

 本を読んだり、突っ伏したりしているだけで人はこうも簡単に話しかけてこなくなるのか。歩み寄る努力をしないのか。

 冷え切っている。

 まあ、そう思われているのはこっちもか。

 と、思っていたのは今日の昼までだった。

 いつも通り屋上に座って、弁当を食べていると隣に女子生徒が座ってきた。

 正直言って驚愕だった。

 なぜこいつはわざわざ僕のとなりに座るんだ?なにか用があるのか?

 口に出す前にそいつは

「あの〜。隣よかったでしょうか」

 違う。普通順序が逆だ。通常ならば、マナーを少しでも知っているのなら普通は先に聞いてから座れ!

 心のなかでいくら言ったところで結果は変わらないのだが。

 このままでもしょうがない話しかけてやろう。と思ったところで

「今朝はありがとうございました」

 と急に言われて余計に混乱した。

 少しばかり考えた。(というか一生懸命思い出そうとした)

 ああこいつか。朝、電車内で船漕いだ挙げ句、爆睡してた奴だ。

「いいよ。そんなこと気にしなくても」

 適当に流したところでふと疑問が浮かんだ。

 ん?

 じゃあなぜこいつは僕のとなりに座ったんだ。今ではもうすでに売店で買ったらしき、パンを幸せそうに頬張っているが。

 僕に礼を言いに来ただけなのであれば言うことだけ言ってすぐに帰ればいいものをこいつはなぜここで昼食を取り始めたんだ?

 一緒に食べる相手がいないから自然な流れで(いや、十分に不自然なのだが)誰かと一緒に食べようとした?

 いや流石にないだろう。朝、電車を寝過ごしそうになったのを起こしてもらったのにうっかりその場で礼を言い忘れたことにあとになって気づきわざわざ昼休みにその相手のところまで礼を言いに来たってことだろう。

 こんなに細かいことでわざわざ礼言ってくるやつに人望がないわけないからな。

 では尚更何故?

巧切(こぎり)さんはなんでこの高校に入ろうと思ったんですか?」

 唐突だな。

いやいや。というか、なんでこいつ僕の名前を把握してんだ?いや、隣の席のやつがこんな顔だったような気がする。

 確か名前は(つくも)愛巴(いとは)だったはずだ。印象的だったから覚えている。

「俺はこの学校の校風がいいと思ったからだ」

 この学校の校風は『青徒(せいと)輝かん』だ青徒の青は青春の青らしい。全体的に読み取って生徒の輝かしい青春第一ということだろう。まあそんなものどうでもいいが。

「白さんは?」

 もう浮かんだ疑問は捨てて適当に会話を続けよう。

「私も校則が堅苦しくなくて自由な感じが良いのと、あとは普通に頭が良くなかったからですね」

「そういえばもうちょうど1ヶ月後くらいに中学の内容復習テスト的なのがあった気がするが、それについて自身はあるのか?」

「いいえ。勉強はニガテで特に得意なこともありません。巧切さんは?」

「俺はそんなに気にしてないな」

「勉強ができる人はいいですね〜」

 皮肉られた気がする。

「あっ、その巧切さんのことを言ったわけではありません。不快にさせてしまったらごめんなさい」

 そんな急に謝られてもこっちとしては別に引きずってる訳でもなかったし、そんなに気にしていないんだが。

「気にしてないし、俺は頭良くないからいいよ。 それじゃ、俺はこれで」

 と言いながら食べ終わった弁当箱の蓋を閉じ、図書室へと向かおうとすると

「あ、あの、巧切さん!よろしければ放課後一緒に帰りませんか。電車一緒ですし―」

「すまん。今日は少し学校でやらなければいけないことがあってな。遅くなるから多分一緒には帰れないと思う」

 嘘を言ったわけではない。本当にちゃんとした用事があるんだ。

「そう…ですか‥」

 嘘を言ったわけではないんだが。なんだか罪悪感を感じた。

「ま、まあ、なるべく早く済ませるから待っていてくれても構わない」

「わかりました。まだ話したいお話の続きがあるので絶対に待っています。それと、私のことは白でいいですよ」

「わかった。じゃあまた五限目に」

 明るく、嬉しそうに手を振っていた。

 犬か?犬なのか?表情だけでその一喜一憂が容易く読み取れてしまうぞ。家にも一人いるがこういうやつは大抵疑う必要はなくとも秘密をばらさないという約束が守れないタイプのやつだ。

 屋上を後にし、真っ直ぐに図書室へと向かう。

 図書室は入学初日はもちろん開いてなどおらず。二日目はまだ案内をされただけだった。

 そんな図書室だがそれはもう大図書館とでも言ってよいのではないかと思えてくるぐらいの超々巨大なものだった。

 三年間の在籍中ではとても読み切れないほどの量だ。と思う。

 早速本を借りる。一度に借りれる最大冊数は三冊までなので早速三冊借りた。

 本のバーコードと個人のバーコードを読み取るだけなのでスムーズに本を借りることができた。案外ここの校風も本当なのだろうと思った。



 放課後。

 帰りの挨拶の後に白と少し話してから僕はとある部の部室へと向かった。

 何でも、その部は去年の三年生が卒業してから部員が一人もおらず、部室が放置されているとのことだった。

 もちろん、ただそれが気になって見に行くわけではない。

 それは、僕がこの部に入ろうと思っているからだ。

 なので、部室の様子見と少しでいいので片付けや掃除をしたいと思ってここへ来たのだった。担任には許可を取っているし、思う存分綺麗にできる。

 のだが。

 一緒に掃除をする予定だったやつらがなかなか来ない。

 そんなことに不満を募らせていると、殆ど同時のタイミングで三件の通知が来た。

 三通ともメールだった。送り主は違うが内容は要約してしまえば同じようなものだった。要は、「友達と一緒に帰る約束をしてしまったので掃除よろしくね♪」というような内容だった。

 帰ってから文句を言ってやろう。

 大体、僕みたいに少し相手を待たせてでも予定していた掃除を優先して済ませるべきだと判断すべきなのではないだろうか。それでもある程度は許容してくれるのが友達なんじゃないだろうか。そんなことも許容できないのであればそれは友達と呼べるほどの大層なものなんかではないのではないのだろうか。

 まあ、いい。冷静になれ。

 別にどうって事ない話だ。掃除する量が一人分から四人分へと変わっただけだ何も取り乱すことではないのだ。

 とりあえず、白に事情の説明だけでもしておくか。

 既に少しだけ手をつけた部室から生徒昇降口へ向かう。

 途中、図書室に人影があった。

 どうやら、放課後に本を読みにくる熱心なやつがいるらしい。関心関心。

 読んでいた本はそれなりに分厚いものだった。辞書か図鑑かな?

 そんな事を考えながら歩いていると図書室に白が入っていった。こっちに気づいていない様子だったが、それにしても、あいつ図書室利用するんだな。珍しいというか何と言うか。あまり想像できない感じの印象だったからだ。

 ちょうどいいや。生徒昇降口まで行く手間が省けた。僕は白の後を追って図書室に入った。

 しかし、白の姿は見当たらなかった。

 あれ?確かに入っていくところを見たはずなのになぜだろう?

 もしかすると、見間違いだったのかもしれない。疲れているのだろうか。それとも…。

 とりあえず、僕は再び生徒昇降口まで向かうことにした。

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