001「黒い目」
ときに人は頭の中で「こう」ということはつまり「こういうこと」だと勝手に思い込んでしまうものですね。
春の穏やかな陽気に包まれながら電車の中で眠るのはなんて至福なのでしょう。なんて、くだらないことを考えながらの通学。
私、朝にはめっぽう弱い方なので電車の日が差す側の席に座るとどうしても太陽の心地よい温もりと電車の丁度良い揺れ加減によって、まるでお母さんのお腹の中にでもいるような感覚に陥り、寝てしまうのです。
始業式の日にそれで一度失敗したのでそのような席には座らないようにしていました。
なのに、今朝はあろうことか座ってしまいました!
うっかりなどではもちろんないのですが(私は自分でも自覚できてしまうほどほどのおっちょこちょいです)私、どうも電車の中で立つことが苦手で、というかバランス間隔を取るのが下手です。
それで電車に乗るたびに座れる席を探すのですが、今日はなぜかいつもよりも人がたくさんいて空いている座席が一箇所しかなかったのです。それもなんと隣の席には同じ高校の制服を着た男子がいたのです。
男子のそれも同じ高校の人の隣に座るのはなんだかまだ高校に通い始めて一週間と経っていないのでそのせいもあってか緊張しました。
ですが背に腹は代えられない。いつもよりも多くの人々がいる中、同じ高校の人が見てる中、盛大にずっこけるよりかは幾分かマシなはずです。
そーっと空いている席に座っても隣に座っていた男子生徒はこちらを見向きもしませんでした。
よかったです。男子生徒はジロリとでも見られればすぐにドキッとなってしまいそうなそんな感じの目つきの悪さをしていました。おっとこれはまだ礼も言っていない恩人に対しては失礼でしたね。
そうです。私は今朝、寝ないようにと頑張ってみはしたものの結果としてはしっかりと爆睡してしまったのです。私、大ピンチこれでは高校生活初めてのあだ名が変なものになってしまいます。
そこで、私をゆすり起こしてくれたのがその隣に座っていた男子生徒だったわけです。
私はその時、彼が起こしてくれたとは知らず、急いで電車を降りそのまま礼も言わず改札口を通ってしまったのです。
私は通学途中に色々と考え事をしている中で気づき、ハッとしました。
私は急いで下駄箱のところまで行き、靴を履き替えた後に彼が来るのを待っていました。
あの特徴的な目つきです。きっと分かるでしょう。と思ったのですが、不思議なことに彼は下駄箱には現れませんでした。
何故。前髪がかかっていて目が見えないというわけではなかったので別に覗き込まなくとも見えるはずです。
それなのに彼らしき人物は現れませんでした。諦めて三階に上がり自分の教室に足を踏み入れたとき私は驚きのあまり「えっ」と僅かに声が出てしまいました。理由は二つ。
一つは彼が自分の隣の席の人物、巧切ヒビキさんだったこと。
二つ目はもうその巧切さんは私の隣の席、つまりは自分の席にフードを被った状態で突っ伏していたことでした。
何故?私の頭の中は疑問符でいっぱいになりました。
だって私、巧切さんより先に電車を降りてそこそこ長い通学路を息切れしながらも走ってきたというのに、その間に私のことを追い抜いた人なんかいなかったというのになんで巧切さんは私よりも早く着いていてもうすでに机に突っ伏している状態なのでしょうか。
早すぎて全く見えなかったとか。
まあそんなわけ無いですよね。本当になぜなのでしょうか。
といろいろ考えている内にチャイムが鳴ってしまいました。急いで席につかなければいけません。
巧切さんは机から顔を全くあげません死んでしまっているのでしょうか。先程のこともあってなんだか怖いです。
「…たま…」
寝言でしょうかもう朝礼が始まってしまいますが起こしたほうがいい気がします。
そっと手を伸ばし肩を叩こうとしたところで
「起立っ」
とハリのある声で学級委員長が号令をかけると、巧切さんは何もなかったかのように急に立ち上がり、私の方がビクッとなってしまいました。
巧切さん生きてたの!?
じゃないじゃない。
巧切さん起きてたの!?
その後は巧切さんに手を伸ばした状態のままで礼までしてしまい、傍から見れば変人にしか見えなかったでしょう。
なんとも恥ずかしい。
その後席につき、ふと横を向くと巧切さんと目が合いました。
沈みきったような。死に損なったような。暗い
…クライ
───瞳でした。
今回の作品は初めて書かせていただきました。