第一話
人生とは何か、と考えることがある。
私の人生はとても穏やかで、ひどく平坦で、一般人の平均からすればつまらないとも捉えられる。
そしてそれを私自身も幸せとは思えずに、何か刺激を探していた。
顔面偏差値が低めで痩せることもできない私。
社交的でもないので友達もいない。
けれど恋愛脳で、誰かを好きになってはひっそり眺めて、一言も話さずひっそりふられていた。
そうして30代半ば、私は死ぬことになる。
息を吸って吐くのを当たり前のことだとして、私は普通に生き、そして乙女ゲームにのめり込んでた。
いつもの通りに朝起きて実家から届いたインスタントの味噌汁にお湯を入れ、着替えなどの準備をし、冷めた頃に飲み干し家を出た。
鍵を閉め忘れてないかな、と気になるも、電車の時間があるので走って向かう。
本来乗るはずの一本前の電車に最近は乗る。
高身長で、手が大きくて、眼鏡の優しそうなイケメンサラリーマンを拝むために。
見てるだけだけどリアル推し活も楽しいものだ。
その前にいつも餌をあげている、ケツ顎の野良猫に挨拶と貢物の時間。
「日差し暑かったかな?おー今日もかわいいね。」
いつものように撫でながら小分けにしてきた餌をあげる。
「今日も餌、あげているんですね。」
話しかけられたことが一瞬わからずに、数秒後相手を見る。
その顔を見て目を見開く。現実?
「僕も猫好きでたまにみかけてて。」
破壊力のあるイケメンに、すぐ返事を出来ずにいる。
そして同時に脳内のオタクな自分が、猫を撫でる彼を見て思う。(猫になりたい!!)
「いつも電車一緒でしたよね?あ、間に合わないです。走りましょう。」
手を差し出されて、数秒戸惑ったけれどそれを繋いだ。私の手、汚くないかな?
ゲームで見ていたシチュだ。そして2人で走り出した。
会社以外の男性と話すのも、父と兄以外と手を繋ぐのも初めてで、心臓が高鳴っている。
「はあ、間に合った。」
「ありがとうございます!」
笑った歯並びが綺麗すぎて、CMか?と思った。
「ううん、こちらこそです。」
滴る汗まで綺麗。横顔を一生見ていたい。
口に出せない考えを早急に隠し、自分の汗をふいた。
いつも毎日遠くから見ているよりも百倍綺麗だな。
はーなんて素敵な日なんだろう…。
「また明日もいますか?僕、猫に慣れたくて。」
「はい!もちろんです!」
「もちろんなんですね。ふふ。よかった。」
その日は1日気分が高揚していた。
ゲームを全制覇した気持ちとはまた違う喜び。
何をするにもとろけるような気持ち。
そして次の日。
私の最後の日を迎える。
今日の朝が待ち遠しくて寝付けなかった。
味噌汁は喉に通らなかった。
前髪に3倍時間をかけた。
いつもの時間より30分前に着いた。
でも、名前も知らない彼は。
彼とは会えなかった。
胸がぐってなった。
「そうだよね。猫ちゃん、私なんて誰も近づきたくないよね。」
大粒の涙が溢れ出た。
人生とは波がある、と聞いてたけど、これか、って。
落差を知らない分、平穏な方が苦しくなかったのかな。
その日の電車にも彼はいなかった。
嫌われることをしてしまったのかな。
自分に言い訳を考えてどうにか気持ちを収めようと頑張った。
帰り道、なんだかぼーっとしてしまう。
そんな中でそれは起きた。
いつもの猫ちゃんが道路に飛び出していた。
今にもトラックにひかれそう。
「危ない!」
反射で飛び出していた。
偽善でも自暴自棄でもない
ただ助けたい
これが愛なのかな、なんて思いながら。
私もいつか愛されたかった。
「君を必ず幸せにしてあげるから。」
遠くの甘い声に癒される。誰の声だろう。
ずっと浸っていたいなぁ。
真っ暗な部屋で意識がもどる。
ここはどこだろう。
やはり死んでしまったのかな。
「おめでとうございますシ」
ん?
「おめでとうございますシ!
ご当選でシ!
今から異世界乙女ゲームの主人公に転生するシ。」
突然明るくなって全てが白い空間になった。
丸くて耳と可愛い羽の生えた
ペットボトルほどの大きさの物体が、前を浮きながら話している。
なんだこの状況は?
「私って死んだんですか?」
聞くと泣き顔で
「泣くでシか?よしよしでシ」
と可愛い顔をしてくる。
やはり死んだのか。
「ん?乙女ゲームの主人公…?それは…おいしい…」
「よかったでシ!ただし!真実の愛以外のエンドを迎えるととんでもないことがおこるシ。」
真実の愛?
「それはどんな?」
「それは…」




