見えない水脈、見えない真実
この作品は、フィクションです。
物語に登場する人物名や事象、団体名は架空のものであり、
実際に存在するものとは関係がありません。
西京に住む青年ユウは、はじめて出かけた森の中で、精霊「イロハモミジ」や「エノキ」たちと出会う。
数々の試練をくぐり抜けて、ユウは自身が伝説の「杜人」の末裔だという自覚を深めていく。
旅の疲れを癒すために訪れた昴宿「よこぐら」に突如、怪異が襲ってきた。
ユウたち一行は、たまたま来客をしていた「ヒノキ」の力を借りながら、敵の急襲を退けるも、「エノキ」は深手を負ってしまう。
闇医者「シキミ」を探すため、ユウ、イロハモミジ、そしてエノキの3名は、そびたつ岩壁をよじのぼりはじめたが・・・
「前に・・・前に来た時は、こんな景色じゃなかったはずじゃ」
ヒノキが取り乱したように言った。
「これでは、どの横穴が吊り橋へと続く洞窟かがわかるはずがなかろう」
「この穴、もしかして、みずみちじゃないかしら?」
「え?みずみち?」
ぼくは聞きなれない言葉に思わずイロハ先生に聞き返した。
!?
急に、ヒノキが手を打った。
「なぁるほど、そういうことじゃの」
ヒノキも察しがついたようだ。
「この岩壁を通る水脈が、なんらかの原因で詰まってしまったのであろう?」
話についていけないぼくは、しばらく2人の会話を見守ることにした。
「ええ、おそらくは・・・。この岩壁に降り注いだ雨は、岩壁の中に走る水脈を辿って、川へ流れ出る。水脈は、毛細血管のようにびっしり岩壁の中に張り巡らされているのよ。伝った水は、岩壁の中の養分を吸収して、ルミナたっぷりの水となって川へ流れ出る・・・」
「けれども、先ほどの吹き出した水は、重く疲れがたまっている様子じゃった。ルミナが感じられなかったのう」
?
「どうしたの?ユウ??」
「みとめ・・・たくない」
「どうしたのよ急に」
「ぼくは、怪異がはびこった原因や、森が荒れている原因が人間の仕業なんだって聞いて、実は認めたくなかったんだ。人間がそんなに悪い存在だとは思わないから」
ぼくは、西京で出会った人の顔を思い浮かべながら話した。
ザックスレストランに通ってくれる常連さんたち、
そしてアミの顔。
彼らが、森を傷つけようなんてする悪意を持っているわけがないじゃないか。
でも、ぼくの仮説が正しければ、この岩壁で起こっている異変は、人間が引き起こしたことになる。
そんなはずはない。
みとめたくない。
けれど・・・・・・。
ぼくは思い出していた。
初めてこの森に入ったとき、青龍の川の澱んだ水面を見たことを。
「もしも、川の水が濁っていた原因が、ここにあったとしたら?」
何気ない考えが、どんどんと確信めいたものになっていく。
そしてヒノキ様が指摘する。
「この崖の中の水脈が、何者かによって詰まってしまったのではないか?」
と。
イロハ先生も同意する。
「雨がこの岩壁を流れ、地下を通って川に流れ出ていたなら、澱みもなく美しい川になっていたはず。でも今はそれが遮断されて、行き場を失った水がこうして横穴を穿つ原因になっているのね」
だが、ぼくはどうしてもその原因が信じられなかった。
「人間が、そんなことをするわけがない」
と、ぼくは抵抗するように叫んだ。
人間は悪意で森を荒らすようなことをしない。
そもそも、西京の人の多くは、森の存在すら知らないんだから。
西京のレストランで出会った人々、友人のアミ、みんな優しくて温かい人たちだった。
彼らは、みんな優しくて、温かくて。
ぼくの料理を喜んで食べてくれるんだ。
そんなみんなが、森を傷つけようなんて、誰も思っていない。
それでも、ぼくの目の前に広がる景色は変わらない。
荒れ狂ったように水が吹き出して、そこらじゅうを穴ボコだらけにしている。
ぼくの心の中にも、深い溝が刻まれ、混乱と不安が押し寄せる。
「ユウ、現実から目をそらしてはいけないわ。確かにすべての人間が悪いわけではない。けれど、この森で起こっている異変は、確実に人の行いが影響しているのよ」
イロハ先生の言葉に、ぼくは答えを返せなかった。
その時、崖が再び大きく揺れはじめてきた。
「まただ・・くるぞ!」
ゴゴゴゴゴゴゴゴコ
「つかまれぃ!」
プシュウウウウウウウ
またもや、地中から濁った水が吹き出してきた。
ぼくは咄嗟に岩にしがみつくが、手が滑り、落ちそうになる。
くっ。
「ユウ、落ち着いて。今は焦らずに、自分の身を守るのよ」
イロハ先生の冷静な声に、ぼくは一度深呼吸をして、自分を取り戻す。
ぼくたちは吹き出す濁った水を避けながら、この横穴が何を意味するのかを改めて考えた。
この異変は、どうやら自然のものではない。
「もし、誰かが意図的に詰まらせているのだとしたら・・・」
キャラクター以外の挿絵はAIによる生成です。
イメージの補完にお役立てください。




