崖っぷちの絆
西京に住む青年ユウは、はじめて出かけた森の中で、精霊「イロハモミジ」や「エノキ」たちと出会う。
数々の試練をくぐり抜けて、ユウは自身が伝説の「杜人」の末裔だという自覚を深めていく。
旅の疲れを癒すために訪れた昴宿「よこぐら」に突如、怪異が襲ってきた。
ユウたち一行は、たまたま来客をしていた「ヒノキ」の力を借りながら、敵の急襲を退けるも、「エノキ」は深手を負ってしまう。
闇医者「シキミ」を探すため、ユウ、イロハモミジ、そしてエノキの3名は、そびたつ岩壁をよじのぼりはじめた。
時折、強い風が吹く。
おあっ!と。
「ユウー!大丈夫??」
下からイロハ先生が気遣ってくれる。
「うん、大丈夫!」
なんとか、風をやり過ごす。
「ふん。まだまだじゃのう」
と、上からヒノキ様が見下ろしてきた。
・・・
もうどれくらい登っただろうか。
もうすぐ着いてもいいころなんだけど・・・。
風は冷たくなり、雪が舞い始める。
ここまで、サクサクと登ってきたヒノキのスピードが緩慢になった。
「ヒノキ様、どうしたんですか?」
「大したことではない。妾は最高神なるぞ。ついてくるのじゃ」
「そうは言っても、ヒノキ様。明らかにペースが・・・」
ぼくは、ヒノキ様がちょっと強がっているようにも感じた。
イロハ先生もその異変に気づいたのか、
「そうね、私たちもずっと登ってきたもの。少し休憩しましょう」
と提案をした。
ぼくたちは、岩壁のくぼみに3人で腰をかけた。
眼下に広がる絶景と、雪がちらつく。
「うぅぅ゛」
ヒノキ様の様子が明らかにおかしい。
「もしかして、体調がすぐれない?」
「いや、大丈夫じゃ。少し休んだら、いくぞ」
と言いながら、岩陰に隠れてちぢこまった。
「はぁ、素直じゃないわねぇ」と、イロハ先生は全てを察した様子で、小声でつぶやいた。
イロハ先生は、自分の羽織を脱ぐと、ヒノキの肩にそっとかけた。
「妾に上着など・・・」
と、一度は断ろうとしたものの、
「すまん」
イロハはその様子を見て微笑んだ。
崖っぷちの絆
「妾は、寒いのがどうも苦手でな」
これまで、最高神!だと威張っていたヒノキが見せた、はじめての弱みだった。
「そう・・・あ、もしかして、それでアナタ、アスナロを連れて来なかったのね」
ヒノキは、コクンとうなずき、応えた。
「まぁのぅ。最高神たるもの、師匠たるもの。庶民や弟子の前では、常に頼りになる姿を見せたいものじゃ」
ヒノキの告白に、イロハ先生もまた、向き直った。
「ふふ。わかるわ。私も、精霊魔法学校で教鞭を振るっていたころは、生徒の前ではしっかりしなくちゃって、毅然な態度を心掛けていたわ。教え子を持つものとして、とても共感するわ」
「イロハよ。助かったぞ、羽織は返す。そろそろ行こうかの」
ヒノキが立ち上がったそのとき。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ。
岩肌が突然崩れ、ぼくらは足場を失いかけた。
ぼくは、咄嗟にそばの突き出た岩をつかみ、もう一方の手を差し出し、
「ヒノキ様!イロハ先生、手をつないで!一緒ならなんとかなる!」
と叫んだ。
足場が崩れ落ちる中、ぼくらは互いの手をしっかりと握り合い、必死に体勢を整えた。
崖の風は冷たく、雪が小さな刃のように顔に当たる。
「ふふ、助かったわ。ありがとう、ユウ。」
イロハ先生はぼくの手をぎゅっと握り、安堵の表情を浮かべる。
「ふん!ただの偶然じゃよ!それに、今日は例外じゃ…このようなことは二度とないからな!」
と口では強がるものの、ヒノキ様でさえも、今はその冷たさを感じている余裕すらないようだった。
しばらくして、ようやく安定した足場へ移動し、ぼくらはゆっくりと立ち上がった。
そこから見えたのは、遥か彼方に続く険しい崖の道と、冷たい雪に包まれた山々。
厳しい旅だが、なぜか今は、どこか温かさを感じていた。
「さあ、もう少しじゃ。もう少しで、吊り橋が見えてくる。そこを越えれば、闇医者シキミの住まいが見えてくるはずじゃ」
再び歩き出したぼくらの間に、連帯感が生まれていることに気づいた。
いつのまにか、吹雪はおさまっていた。




