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こだまこまちと杜人ユウ  作者: こだまこまちProjectもおちゃん
第3章  癒しの里の衝撃
24/51

昴宿 よこぐら

挿絵(By みてみん)



「ふん、ふんふーん♪」


「イロハ殿、珍しく鼻唄なぞ歌って、何か嬉しいことでもあったっすか?」


エノキは、上機嫌なイロハモミジに向かって尋ねた。


「コ、コホン。大精霊アカガシ様がくださった(いとま)、しっかり休みましょうね!」


「なるほど。『昴宿(すばるやど) よこぐら』だから、浮かれてるっすね」


「あのー、こんな森の中に、宿なんてあるの?」


と、疲労困憊ながらも、ぼくは尋ねた。




道は、細くうねりながら続いていた。


しかし、嫌々ながら歩いている、と見せつつも、周囲の景色には圧倒されている。


「ここが『星が奈路(なろ)』よ。この道を通ると、まるで星たちと一緒に旅をしているような気分になるわ」


ぼくは頷きながら、森の木々が吐き出す新鮮な空気を吸い込んだ。


自然と共に息づくという感覚、それは今までに感じたことのないものだった。


「ここ星が奈路は、森の住人たちから伝えられている古い道っす。夜空に輝く星々と深い繋がりがあるといわれているっす」


ずいぶんと歩いたからなのか、それとも森の奥深くへ入ったからなのか。


空は濃い群青色に染まり、まるで夜が天蓋のように広がっているようだった。


見上げると無数の星が瞬き、その光は地上に降り注ぎ、森の木々や葉に淡く反射している。


風が木の葉を揺らし、その音が静かに耳に響くたび、ぼくは自分がこの広大な自然の一部であることを感じ始めた。


「…すごい、こんなにたくさんの星を見たのは初めてだ・・・」


ぼくは足を止め、頭上に広がる無限の星空に見入った。


西京では、こんな景色は考えられない。


胸の奥がじんわりと温かい。


なんだろう、この気持ちは。


もう疲労はこの上なく溜まっているはずなのに、どこまでも歩いていけそうな気さえする。


イロハモミジがそっと声をかける。


「星が・・・星が、私たちを導いてくれているようね。こんなに暗いのに、自分が進むべき道は、決して見失わないような。あ、夜光草––––––」


一行が進むにつれ、星々はますます輝きを増し、道沿いには夜光草が青白く光を放っていた。


それは星の光に呼応し、地上に淡い光のラインを描いていた。


「ただの道じゃないんだな・・・星から森へ、森から星へ、光が駆け巡っている。この道は・・・生きているのか」


西京の整然とした人工的な世界とは、まったく違う生命の息吹を感じていた。





「もうすぐ、着くっすよ」


「ユウ。『昴宿 よこぐら』と言ったら、それはもう、森の精霊たち、妖精たちが憧れる七つ星ホテルよ。今歩いているこの谷には、その昔、星が降ったと言われてて。だから、今歩いているこの谷の名前を星が奈路と呼ばれてるの。とくにここのホテルは、星の成る木をね・・・」


「お、見えてきたっすよ」


イロハモミジの説明が終わるか終わらないかのうちに、ぼくたちの目の前に広がる光景に息を呑んだ。


森の中に突然現れた開けた空間。


その中心に佇むのは、まるで天から降り注ぐ星の光そのものが形を成したかのような美しい樹木だった。


淡い金色に輝くその樹木は、周囲と一体となっており、蔓や花々が優雅に絡みついている。


樹木のウロやくぼみには、光を受けて輝くガラスの窓がはめこまれていて、森の妖精たちがうっとりと見つめる姿が映っていた。


「これが、『昴宿 よこぐら』…」


ぼくは感嘆の声を漏らした。


「はあぁ、・・・」

イロハ先生もうっとりとした表情を浮かべている。


周りには、透明な水が流れる小川があり、その水面には無数の星々が瞬いているように見えた。


イロハ先生が言っていた「星の成る木」というのは、どうやらその川辺にある巨木のことか。


巨大な枝が空高く広がり、その先端には小さな光の花が幾つも煌めいていた。



挿絵(By みてみん)



「いつ見ても––––––。まるで夜空の星をそのまま地上に持ち込んだかのような光景ね」


「ここの水は、星の光を吸い込んだ特別な水っす。飲むと疲れが一気に取れるんすよ」


エノキが説明する。


「星の光を吸い込んだ水…?まさか」


「まあ、騙されたと思って、飲んでみるっすよ」


ぼくは驚きとともに、その川辺へと足を進めた。


少しだけ水に触れてみると、ひんやりとした感触。


両手ですくって、飲んでみた。


ン、ゴクっ、ゴクっ。


ぷはっ!


身体中にエネルギーが満ちるような感覚が広がった。


「これが、水だって!?西京の水とは大違いだ・・・・・・!」


エノキが微笑んでぼくに近づいてきた。


「ユウ、ここで少し休んで、しっかりと英気を養うっす。大精霊アカガシ様もおっしゃっていたように、次の試練に備えて、体力を万全にしておくことが大切っすよ」

「そうね、そして大精霊アカガシ様がおっしゃった『杜人の道具』の情報も集められるかもしれないわ。ここに集まる精霊や妖精たちなら、何かを知っているかもしれない」


ぼくは2人の言葉に頷いた。


「さぁ、早速チェックインするっすよ!」


エノキが軽やかに先を歩き、ぼくたちを『昴宿 よこぐら』の入り口へと導いた。


玄関のドアは木でできており、手彫りの精緻な彫刻が施されている。


そのドアが音もなく開き、中から柔らかい光が漏れ出てきた。


中に足を踏み入れると、広がるのはまるで天上の世界のような空間。


暖かみのある灯りが天井から吊るされた星形のランプから照らし出されていた。


「ようこそ、『昴宿 よこぐら』へ。」

柔らかな声が響き渡り、ぼくたちの前に現れたのは、黒い衣装に身をつつんだ顔立ちの整った紳士だった。


胸元に輝く、金色の星形のバッジが眩しい。




挿絵(By みてみん)



「・・・」


「ん?エノキさん??エノキさん、どうしたんですか?急に、ぼぉーっとしちゃって」


「あ、あぁ、いや、なななんでもないっすよ。チェックアウトっすな」


「エノキさん、チェックインですよ。アウトしちゃってどうするんですか!」


「あ、あ、あぁぁ、間違えた。自分としたことが・・・っす」


エノキは、かぶっていた傘を取るも、目を伏せながら言った。


頬が赤らんでいるように見えた。



「ははは。大丈夫ですよ。ようこそいらっしゃいました。支配人のヨコグラノキでございます。今宵は星の祝福を存分にお楽しみくださいませ」


支配人ヨコグラの会釈に、長い三つ編みのおさげが揺れる。



「大精霊アカガシ様から、ご用命を賜っております。お部屋は、6階のお部屋をご用意させていただきました。アトラスの間です。アトラスの間は、歴代の杜人様ご一行が逗留してくださったお部屋にございます。大浴場「星のくず湯」でお身体を整えていただきましたあと、お食事にしましょう。ごゆっくり、おくつろぎくださいませ」

本日から新章スタート!

また、よろしくお願いいたします^^

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