鎮守の門で
「いや、またもやとんでもない目にあったぜ。 それにしても、 なんでいつもこう何かに襲われているんだろう・・・ まったくもって森ってところはわけがわからん。そういえば、 イロハ先生やエノキさんたちは、うまくやっているかな」
やがて、目の前に大きな門が現れた。
重厚な木製の門で、両脇には古代から存在するかのような巨大な木々が立っていた。
門には無数の葉の紋様が彫り込まれており、それがまるで生きているかのように、微かに輝いていた。
「これが・・・いよいよ、大精霊のアカガシのじっちゃんとご対面か」
どうやらぼくは、四季の回廊を通過することができたらしい。
ふわーん。
「ついたわ」
ふわーん。
「ユウ殿、やったっすね」
イロハモミジとエノキの姿が現れた。
「イロハ先生に、エノキさん。無事だったんだね」
「だーれに向かって言ってるっすか!余裕っすよ、余裕」
「ユウ。何か変わったことでもあったの?」
「いや、それが、 黒い”ヤツら”が光の道を喰い散らかしていて・・・」
「何を言ってるっすか、ユウ殿。 それは幻か何かではないっすか? ここは、鎮守の森へ続く四季の回廊っすよ。時空を超えた場所に繋がる道を、 何者かが侵すことなんてありえないっす」
「そうよ。きっと見間違いか何かよ。 今日はかなり疲れたものね」
「いや、ちが・・・」
「さあ、大精霊アカガシ様のもとへ行くっすよ」
「だーかーらーっ」
(来るなっ)
なんだ、この声は。
「なぁ、聞こえるか」
「え?何か言ったっすか?イロハ殿」
「私は、なにも・・・」
(開けてはならん)
なんなんだ。
ぼくにしか聞こえないっていうのか。
(この先へ進んではならん)
「さあ、イロハ殿。頼むっすよ」
「えぇ」
イロハモミジは、その小さな手を門の上に置いた。
「なぁ、嫌な予感がしてきた。門を開けるのはやめておかないか」
「ユウ殿。黙るっすよ」
「我ら、森の守護者なり。大精霊アカガシ様の命により、森と心を通わせる少年を連れて帰還いたしました」
イロハモミジは、報告するかのように言った。
「ここが・・・大精霊アカガシ様のもとへ通じる最後の関門っす」
と、エノキが静かに言った。
イロハモミジも頷き、ぼくに向かって微笑んだ。
「この門は、季節の巡りを守り、正しく進んできた者だけが通れるようになっています。もしも間違った道を進んできた者がここに来れば、門は決して開かれることはありません。
四季の回廊で何を見てきたのか。それがこの場所で試されるのです」
と、彼女が説明した。
「いや、ちょ、ま、だめだって」
イロハモミジは構わず続ける。
イロハモミジが一歩前に進み、門に向かって深々と頭を下げた。
そして、ゆっくりと口を開いた。
「季節の巡り、それ即ち命の流れなり」
合い言葉が発せられると、門に彫り込まれた模様が一層輝きを増し、まるで命を吹き込まれたかのように動き始めた。
木々の囁きが一斉に静まり返り、空気がピンと張り詰める。
次の瞬間、門がゆっくりと音を立てて開き始めた。
ギギギギ、ギギー。
ぼくはその光景に息を呑んだ。
門の向こうには、これまでとは全く異なる、神秘的で荘厳な空気が感じられた。
「ユウ、これが大精霊アカガシ様のもとへ至る最後の一歩です」
とイロハモミジが優しく言った。
「心を強く持ち、進むっす。大精霊アカガシ様が、ユウ殿を待ってるっす」
「だからさぁ・・・あーーーーもぅ!知らないからな!!」
ぼくは大きく深呼吸をしてから、門の向こうへと足を踏み出した。