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2-2

 振り向きざまに、外敵を睨みつける。ターコイズサザナミインコの男が大鎌を手にしている。神官と呼ぶには相応しくない武装だ。


「化け物が鳥をかばうのか」


 アレガの怒りは頂点に達する。アレガとて、自分が鳥ではないことを自覚している。自身を説明できる言葉を持ち合わせていないことに劣等感を抱いた。これまで、鳥になるためにどれほどの努力をしてきたのか、このターコイズサザナミインコは知らない。


「今の言葉、撤回しろよ? 俺だって本当は鳥を殺したいんだ。てめーが神官だろうが、関係なく、ぶち殺してやる!」


 男は身震いする。黒い羽根の一枚一枚が逆立っている。そして、汚いものでも見るように目を細めた。聖職者としてあるまじき振舞いだろう。


「所詮はお前だってニンゲンじゃないか。鳥の羽根をむしった野蛮な生き物め!」


 ニンゲン? 知らない言葉だったが、間違いなく自分を指す言葉だと直感したアレガは表情を強張らせる。言いようのない不安と、疑問が脳を駆け巡り、身じろぎ一つできないでいる。


 アレガが硬直したことを認めたラスクは半身になる。


「この頭の悪いキツツキに変な話を吹き込むの、やめてもらえませんか?」


「ちょ、俺抜きで話すなよ」


 アレガが言い終わるより早く、ラスクは神官の顔面目がけて長い足を振り上げる。神官は反応が遅れ、目元を足の爪でひっかかれて弱弱しい悲鳴を上げる。


「ぃひぃ! 賊がこの僕に足を上げるなど。許されていいはずがない!」


 アレガも我慢の限界だ。ラスクにのけ者にされ、先に神官に一撃を加えられたことも腹立たしかったのだ。


「お前が俺の何を知ってるんだよ。俺が何の生き物なのか知ってるのなら、全部力づくで吐かせてやる!」


 すると、ラスクが肘でアレガの鳩尾(みぞおち)を突いた。


「ぐふっ、な、何すんだよ」


「あなたは知らない方がいいです」


「お、お前は知ってんのかよ!」


 アレガには理解できない。もし、ラスクが知っているのなら、幼少期から共に暮らしてきたのに、なぜ今まで何も教えてくれなかったのか。


「知りませんよ」


 その一言で済まされては納得がいかない。歯を剥き出したアレガをラスクが遮る。


「それより、あれです!」


 ターコイズサザナミインコの男は、黒光りする大鎌を高く掲げている。それを合図に、先ほどまで姿の見えなかった色とりどりの半鳥人たちが現れた。杖を腰に差している。すべて神官だ。ただし、それぞれが弓、短剣、斧など武器を持ち寄っている。数で分が悪い。だけど、それが何だとアレガの眼光は鋭くなる。全員、叩きのめしてでも自分が何者か知りたかった。


 アレガは槍を掲げる。心臓に一直線に飛んできた矢を一振りで弾き飛ばす。矢を放った半鳥人ではなく、ターコイズサザナミインコの男が予期しなかった反撃に動揺する。


 斧を持った半鳥人が、急降下してアレガの首を狙う。アレガが飛べないことは、誰が見ても明らかだ。アレガはそれを弱点とは思わない。返って武器の軌道を予測しやすい。上からの攻撃になるのは明らかだ。二股の槍で、斧を挟み込み、捩じり取る。相手の力をそのままいなして、武器を取り上げたのだ。斧はそのまま放り投げる。


 半鳥人の顔面に拳を叩きつける。殴られた半鳥人は鼻血を出し、くしゃくしゃになった顔を両手で覆う。


 アレガは誰よりも低い姿勢で駆け抜ける。跳び走る。鳥の飛行速度より早い。ターコイズサザナミインコの男の胸元にもうすぐ槍が届く――寸前、男は血相を変えて地を蹴り空に逃げた。


「な、なんだ、この速さは。ダチョウでもあるまいし!」


 神官共が怖気づいて次々に飛び跳ねて、滑空しては逃げていく。


 卑怯者だ。アレガも卑怯者で通っているが、奴らは勝ち目のない戦いだと分かると否や逃げ出した。情けない。


「逃げるなよ。俺はまだ殴り足りないぞ」


「アレガ、今の戦いは避けるべきでした」


「んなもん、知るかよ」


 ラスクを睨んで鼻を空に向け、目を開いたときにアレガは戦慄する。カポックの樹幹に寄りかかる大きな鳥影や、股を広げて木の枝に退屈そうに足をかけている鳥影があった。幹に背を預けてこちらを見下している鳥影、それらに囲まれている。女盗賊団『赤鴉(あかがらす)』に。


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