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元職業病


 携帯電話が鳴った。

 面倒くさい。

 固定電話が鳴るのなら仕事の依頼だ。

 しかし、この携帯電話が鳴るということは、プライベートなことだ。

 携帯に表示された番号は、登録していない番号だった。

 本当に面倒だ。

 面倒だから出ないでおこうと思ったが、全く鳴りやまない。

 やっと鳴りやんだと思ったら、すぐにかかってきた。間違い電話やいたずら電話ではなさそうだ。

 えいや、で電話に出た。

「あ、もしもし。やっと出てくれた。笑い屋さん、僕です。まっちょです。まっちょフィフティーフィフティーです。」

 俺の頭に、裸でインコで腹の出たオッサンの顔が浮かぶ。

 面倒な電話に出てしまった、というのが率直な感想。

 そりゃそうだろう。

 まっちょとしては、俺が笑い屋としてアドバイスした筋書きに従って謝罪会見に臨んだら、芸能界から抹殺されてしまった。

 それどころか、まるで国民全員の仇敵のような扱いとなり、芸能界はおろか、街中を歩くことすら危険だと聞いた。

 当然、「ほとぼりが冷めてから芸能界復帰」なんてことはできないだろう。

 きっとその時の怨み辛みを伝える電話に違いない。

「あの時は申し訳ありませんでした。」

 携帯電話を持ったまま、立ち上がり、頭を下げて、俺は素直に詫びた。

 謝っておくに限る。

「それじゃあ。」

と言って、俺は電話を切ろうとしたが

「ちょちょっ、ちょっと待ってください。」

とまっちょが慌てて止めた。

「パロが殺されました。力を貸してください。」

「コロシ?」

 殺人事件。俺の刑事魂が一瞬で点火した。

「よっしゃ、フダ(逮捕状)取りに行く間に、ニンドウ(任意同行)かけよか。」

 俺は部下を叱咤する。

「おい、松永。お前はガサ(捜索差押え)の準備ぃ」

と振り返ったが、もちろんそこには部下はいない。

「え? マツナガ? なんですか?」

 電話の向こうからまっちょフィフティーフィフティーの声が聞こえた。

「いや、なんでも。元職業病です。」

「なんだかよくわかりませんが、助けてほしいんです。笑い屋さんしか思いつかなくて。」

 こんな時に限って、俺のスケジュールは真っ白だった。

 俺はウソをつけるタイプではない。

「仕事は立て込んでいますが・・・少しなら時間があります。」

 まっちょを助けたところで、金にならないことは分かっている。

 が、先の謝罪会見の失敗が、やはり俺の心にはひっかかっていた。

 新宿のカラオケを指定して、電話を切った。

 カラオケの個室なら、一時「時の人」となったまっちょフィフティーフィフティーも目立たないだろう。





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