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「ごめんよ、チハヤ」
「いえいえ」
ベッドでのピロートークが繰り広げられる。
ここは天国の2階層、日本の富士山宮殿城の中の一室。
リューエルはこの天国の国を治める皇女ルエを守る9姉妹天使の次女のチハヤと寝ていた。
「貴方との間に出来る子供が早く双子の弟のキュリールに勝つためには仕方がないことでしょう」
「ああ、そのために神様に犬になる試練ですら与えて強くなってみせる」
ルエを守る天使族の長に生まれたリューエルは双子の兄弟のキュリールとの跡継ぎで立派な子供を作るために自分自身を強化中だ。
より良い子供を作るにはライバルである弟に勝って世襲つぎ継ぎをしなければならないのだ。
*
「お兄さん、こんにちは」
突然、宮殿の城下町内で会った弟キュリールは丁寧にお辞儀をする。
「…………」
しかし、何事もなかったかのようにその挨拶を無視する兄のリューエル。
「お兄さん…」
「お前とは話もしたくない」
一言添えるだけでこの日の兄弟の会話が終わった。
*
キュリールは一人で真面目で厳格な兄に勝つために毎日、剣術の稽古を手を抜くことなくしっかりする。
「兄は僕に勝つために冷たい。
でも、そんな兄さんにはこの気持ちわからないが、僕に振り向いてほしい」
実は双子の兄の事が好きなキュリールは内に秘める思いで、兄に勝って振り向いてもらおうと画作する。
たとえ姑息な手を使っても。
*
「何!?皇女が行方不明?」
突然に宮殿内で突拍子もない暗雲が立ち込めるお知らせが来た。
「リーダー、もともと皇女は護衛されるのがイヤだったはず。
それで…」
9姉妹天使の一番上の長女であるサノチが言葉を発しても自分には受け入れがたい状況だ。
「そうだとしても明らかに変だろ」
そこで空から突然に手裏剣であろう刃物がリューエルの視界に降り注いだいだ。
その手裏剣はリューエルの頬をちょっとばっかし傷を付ける。
「誰だ!?」
「はははは、久しぶりだな、リューエル」
「その声は!?」
宮殿内に突如、侵入した男の影がリューエルを包む。
大柄で背中には特大サイズの手裏剣を背負う。
「ディーン!
元気だったか!?」
ディーン、かつて、リューエルの学生時代の友達で旧知の仲だった。
「元気とは?
俺には態度を変えているな、リューエル。
誰とは違って」
「なっ………!」
頬に続いて、次は足を狙って手のひらサイズの手裏剣を投げつけた。
足のふくらはぎまでもがリューエルの傷一つに切り刻んだ。
「なんだ、どういうことだ!?
答えろ、ディーン!」
旧友の裏切りに動揺せずに真顔で問いただすリューエル。
「あいにく俺はお金に目がくらんで雇われた身なんでな」
ディーンがリューエルに対して、今度は中ぐらいのサイズの手裏剣を二の腕の方に投げつける。
次こそはそうはさせまいと、リューエルは即回避した。
「どういうことだ。
皇女ルエを誘拐したのは貴様か!?」
「それは違うよ、兄さん」
そこで背後から別の聞き覚えのある声がして、その方向に目をやると、そこにはキュリールが立っていた。
「僕の野望に協力してくれたのだよ、ディーンは」
「キュリール。
お前こそ、卑怯だぞ!!」
キュリールの飄々な現れ方と見事な裏切られように、今度こそ動揺示すリューエル。
「勝負だよ、兄さん……」
巨額の敵であるキュリールと対等に戦おうとする双子の兄リューエルであった。