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シブヤン海前哨戦

 海面に近いからか、潮風の匂いが強い。それ以上に、魔法の力の奔流を肌で感じる。まるで幽霊でも目の前にたっているんじゃないかという冷感が体を貫く。

「これが今から戦うルリムの力なんですね……」

「違うな。恐らく」

「どういうことですか?」

「数度の戦争を生き延びた勘だ」

 すっげ、日清戦争の時から生きていた人の勘ってマジで当たりそうだな。でも、何が出てくるっていうんだろう。

「雲翔の翼に掴まれ!」

 明次郎さんの叫びに、慌てて翼に掴まる。そして明次郎さんの体を光が包み、黒髪ロングの女の子に変身した。教科書に載ってる最後の徳川家みたいなめっちゃ薄い橙色の服を着ている。

 次の瞬間、水平線の向こうから光が飛んできて私達の目の前で二つに割れ、空の彼方へ飛んでいった。

「あれと戦ってもらおう。ルリムは私たちが何とかする」 

 海中から変身した時の私より大きそうなシロクマが出てきた。うわ、よく見ると羽が生えてる。マンティコアってやつかな。こっちに飛んでくる。


「えーい!」

 雲翔さんから飛び降りて変身し、マンティコアの超獣に飛びついて海に落下した。毛がチクチクして痛い。

 すぐに超獣から手を離す。私たちは海に沈むが、息苦しくはない。魔法少女って海の中で平気なんだ。水より比重大きいんだ。てかうまく海底に付かないと……。

 海底にぶつかり、砂が巻きあがって視界をふさいだ。人に戻ったら服の中に砂がいっぱいだな。やだな。

 そんな事を考えている場合じゃない。今はあの超獣を倒すのが先だ。海の中を魔法の力の波紋が伝う。それが私に超獣の吠える声と足音を教えてくれる。

「そこ!」

 振り向きざまに砂埃の中に右の拳を突っ込んだ。手に走る痛みと衝撃、それは攻撃が命中したことを伝えてくる。戦いの高揚感が私の体を突き抜ける。何時間だって戦いを続けていられる気がしてくる。

「もう一発!」

 左の拳を砂埃の中に感じる超獣の気配に向けて叩き込む。それは何かを軽く殴り、吹き飛ばしたように感じた。

「やった……?」

 砂埃が晴れると、頭がぐしゃぐしゃになったうなぎのような超獣の死体があった。体に大きな穴も開いている。

 騙された……? 超獣にそんな知性があるなんて。

「日柚知、後ろだ!」

 ベボルが叫び、私の背中の方に突っ込んだ。振り向く途中で重い金属音が耳に響く。振り向くとそこには、潜水艦と化したベボルに超獣が噛みついていた。こいつ、ベボルになんてことを……。私が油断したからだがどっちみち。

「離せ!」

 超獣の腹を蹴り上げる。砂埃に腕を突っ込んでいた時のような衝撃はない。さっきのはやっぱり完全に騙されていたのか。でも、やれることはまだある。


 私の考えつくあらゆる戦法は、次の瞬間文字通り凍り付いて砕けた。超獣の冷気が周囲の海ごと、私達を氷漬けにした。冷たい。痛い。見えない。

 全力で魔法の力を使えばここから出られるかな。でもそしたら、超獣に……。考えている暇はない。ベボルの声も聞こえない。魔法の力を全力で使う。それしかないんだ。

「バカめ」


 私の視界を光が包んだ。


 温かい。私の魔法の力じゃない。氷が溶けていく。戦える。上空を飛んで行った飛行機のエンジン音が僅かに私の耳の中で反響している。助けてくれたんだ……。

「ベボル。やるよ」

 私の、私たちのイメージ通りにベボルは白く輝く両手両刃の剣に変化してくれた。それを握り、超獣に構える。真っ二つにしてやる!

「でりゃあ!」

 迫ってくる超獣の脳天に向けてベボルを振り下ろす。彼は、超獣の頭を真っ二つにした。血が溢れて海に漂う。勝った。誰かは知らないけど飛行機のおかげで。


 海上に築かれた氷の島に、砲弾とミサイルがバカスカと打ち込まれる。

「よかったな。テロリストには贅沢な花火が見れる」

 流れ弾と氷の弾丸を叩き切りながら、ルリムに向けて松浦、つまり魔法少女紫電が囁いた。彼の元に雲翔が飛び込み、服に巨大な孔雀が描かれる。

「ファシストの犬だった者が汚い口を開くな!!!!」

 ルリムは、感情の12割を怒りに傾けて叫んだ。

「そうか、君は反ファシズムの会とかそんなのに属していた魔法少女の一人か。可哀そうに知能が低いらしい」

 紫電が刀を振り、炎の斬撃を弾丸のように飛ばす。

「私の曽祖父はナチスどもに殺されて死んだ。私の国はファシストが馬鹿を調子づかせたせいで東西に分かれたんだ。そして東で生まれた叔母さんは子供の時にシュタージに殺された! 母さんはしょっちゅうそれでうなされて、意味もなく私の事をひっぱたいた!」

 ルリムの足元の穴から水が飛び出し凍り付いて斬撃を防いだ。

「君の言葉を聞いたら君の母さんはまた君をひっぱたくだろうな」

 紫電の足元の氷が割れ、大きな谷を作る。

「お前に何がわかる!」

 紫電は落下し、氷の谷は閉じた。

「さあな、私の母はいいひとだったから分からん。核で失うにはもったいないくらい」

 谷だった場所が砕け飛び、紫電が現れる。

「不幸自慢大会をやる気か?」

 砕けた氷の破片がルリムの周りに集まり、幾つもの氷の盾となる。

「二度負けたいと?」

 納刀した紫電の頭上を砲弾が飛び、近接信管によってルリムの眼前で破裂して盾を吹き飛ばした。

「二度勝ちたいんだよ!」

 ルリムは氷のナイフを無数に生み出し、紫電に飛ばす。紫電の服から火でできた孔雀の翼が伸びて火を纏った風を打ち出し、ナイフを粉々にした。

「氷漬けにしてやる!」

 再び氷が割れ、今度は水が噴き出す。それは紫電に向けられる。


 水平線から飛んできた無数の機銃がルリムに飛んでくる。水は氷に変化し、それに対しての防御に用いられた。

「やあ、大日本帝国の魔法少女。援護に来たが、ロケット弾を撃ち切ってしまった」

 翼の両端を切り落としたような見た目をした航空機が、彼らの元へ向かっていた。撃ち尽くしてしまったロケット弾のポッドを海に投棄する。

「機銃で氷を割れよ」

 二人の魔法少女と二隻の船に、ルリムはいいように四方八方から袋叩きにされていた。

「こっちはひとりだぞ! 卑怯! 卑劣! ファシスト!」

「史実のファシズムは無勢側だろ」

「私は共産主義者だ……。紫電、掴まれ」

 エクラノプランが紫電の頭上を通過し、紫電はその翼に掴まって氷の島から離れた。 

「逃げるな!」

 叫んだルリムの下で魚雷が炸裂し、氷の島を傾ける。

「何をする気だ?」

 水面下から巨大な腕が飛び出し、氷の島を引っ張ってひっくり返した。

「この氷は私のものだ!」

 ルリムはひっくり返った氷の下敷きになるが、すぐに魔法を解除して氷の島は大量の海水になる。

「まだまだ……」

 ふたたび氷を生んで復帰しようとするルリムに、巡洋艦レイテ・コーストが体当たりした。ステルス性を生むための鋭利な先端が彼女の体を上下に裂く。

「きぺっ」

 肺に残った空気が奇妙な音を立て、ルリムは人に戻る。勿論下半身はあった。

「ファルコン、来なかったな」

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