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マジカルルリム

 迫りくる三発のミサイルを盛り上がった海が包む。

「これならっ」

 海が氷の手と化し、ルリムの手の動きと連動してミサイルを握りつぶした。ルリムの手に亀裂が入り、光が漏れる。

「っは、っは、がっひゅ」

 魔法の力を浪費し、空に浮いてもいられなくなったルリムは、契約した鯨型の魔獣ウーンドの上に降りた。


「彼女らは死なないが痛みはある」「下らん思想家に騙されて我々の命を奪おうとした者へのいい薬だ」「シースパロー発射」

 再度ミサイルが打ち出され、彼女らの元へ飛ぶ。

 

「ごめんね、オウル、タルべ。私が守るよ」

 青と白のメイド服を着た少女マジカルルリムの周りに青い光が渦巻き手の形を作る。それは海のを粘土のように掴み、彼女らの目の前に十数メートルの厚さの水の絶壁を作った。壁はたちまち凍る。その氷は魔力を練り込まれ、数センチの厚さでライフル弾を受け止めるパイクリートよりも頑丈なものになっていた。

 

 ミサイルはその壁に阻まれ、人を包む程度の爆発を起こして立ち消えた。


「熱源反応が薄れています」

「ルリムが氷で防御をしたのか。トマホーク(対地ミサイル)を二発発射しろ」

「トマホーク発射、サルボー」

 二発のミサイルがミサイル巡洋艦レイテ・コーストから打ち出され、空中で魔法少女の作り出した壁に向けて方向転換する。


「来た!」

 ミサイルは船を一つ包むような爆発を起こし、壁は吹き飛んだ。

「このままでは……。みんなの魔法の力を私に頂戴」

 返事を聞かずに、ルリムは周囲の呪法少女と魔獣を凍りつかせる。彼女らを封じ込めた氷はテープのように薄く潰れてルリムの手の中に吸い込まれていった。


「気温が低下していきます。現在外気温0℃」

V-280(バロー)の乗組員は?」

「高度をあげて冷気を振り切ったようです」

「海底の潜水艦と超獣は?」

「スクリュー音、砲撃音、超獣の筋肉音が止みました。圧壊音はありません」

「どちらも大丈夫か。幸いなことに本艦には世界一高価な湯沸し器が積んである。D3Gリアクターの出力を暖房に回せ、氷の中ではスクリューを回せん」

「外気温、5℃に回復。最大速度11ノットになります」

「艦載機とのランデヴー・ポイントはドゥマラン島沖だ。本艦は戦闘海域から離脱する。魔法少女ファルコンがこちらへ向かっているようだが、彼女が戦闘するかはわからん。戦闘の通信があればすぐにミサイルで援護する」

 バウスラスタが起動し、艦の方向を変える。レイテ・コーストは出せる限りの速度で海域から離脱し始めた。


「レイテ・コースト、離脱していきます。エンジン音に異常なし」

 海底1000mで海上自衛隊所属護衛艦むさし改め国連軍所属戦艦むさしがウミヘビの超獣と戦闘していた。

 砲撃と音響魚雷の爆音によって海溝に追い詰められた超獣が、諦めと共にむさしへ突進すべく尾を用いて加速する。

「艦首120cmレールガン発射準備」

「エネルギー充填105、110……120%」

「総員、衝撃に備え!」

「レールガン発射!」

 海中でのレールガン発射は、矢に近い形状の弾頭を飛ばすといっても抵抗が大きい。そして、水中であるから約六分の一のエネルギー損耗が出る。

 それでも、むさしのレールガンは巨人の放った矢のごとく超獣を完全に貫徹した。

 反動でむさしは大きく後ろに下がり、乗員は艦内で怖がりがジェットコースターに乗るときのように近くのものに掴まって耐えた。

「海水温がおかしい。まるで北極にいるようだ」

「レイテ・コーストが撤退している。だが、潜水戦艦は北極で戦えるのだ」


 むさしがゆっくりと海中を浮上していく。海面に張られた氷を簡単に叩き割り、海上へ現れた。

「こちらむさし。状況は把握した」

「六式弾装填。撃ち方始め」

「撃て!」

 六式弾は、サーモバリック弾頭の砲弾である。48cm三連装砲一基当たり6トンの爆薬は気化と爆発という道筋によって周囲を吹き飛ばす。

 ルリムに指向された二基の主砲から合計六発12トンの六式弾が打ち出される。それらは、一体の氷を溶かし吹き飛ばすトマホークよりも遥かに大きな爆発を起こす。


「爆発?」

「終末論客どもが早くに攻勢に出たか」

 フィリピンのネグロス島沖、太平洋戦争の戦死者の遺品を引き上げる仕事を行っていた日本海底遺品回収公社のいぶき丸の105人の搭乗員と1人の乗客がその轟音と閃光を見た。

「前乗りして正解だったようだな、瀬戸。引き上げは中止。ネグロス島へ帰還する」

「松浦さん。私達も?」

「いや、一緒に来てもらおう。君の相棒、ベボルに吸収させるために伊158号潜水艦を運んできたんだ。活躍してくれないと困る」

「いやだって、まさかベボルの吸収相手を頼んだら潜水艦を持ってくるとはおもっわないじゃないですか」

「潜水艦では君たちには役不足か?」

「役不足だったって言ってもらえるようにしますよ」

「わかった。期待しておく」

 彼らの元へ巨大な孔雀が空を揺らしながら飛んできた。

「雲翔。この子も乗せて行く」

「少女が戦場に出るとは……嘆かわしい」

「私より強いさ。それに、彼女の相棒も君より才能に溢れてる」

「我々が枯れたから、そう見えるのだ」

 孔雀の周りを白いほのかな光が漂い、それらは日柚知と松浦を持ち上げて彼の背に乗せた。孔雀は戦闘が行われている海域に向けて飛び出す。

「完全復活かな?」

 その後ろを全長100mを超える潜水艦を吸収したベボルが泳ぎ、追っていった。

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