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恐怖の怪獣

 魔獣クインストークが雲海を羽ばたき、ラプター型の魔獣クルーズと、自衛隊のF-2戦闘機、在日米軍のF-35Bがそれを追う。


 F-35Bが機体下のウェポンベイを開き、新型の対艦ミサイルが放たれる。ミサイルはクインストークの熱によって手前で自爆した。F-2の対空ミサイルも同じ結果となる。

「まさか、こんなことが……」

 驚くパイロットを尻目に、クルーズはクインストークを追い抜き、彼の契約者の力を信じて体当たりをする。強力なファルコンの魔法力によって体当たりは成功するが、僅かにクインストークが揺れただけだった。


「ゼンガインが必要だ。F-15が来てくれれば出来るかもしれない」

 ファルコンは無謀な打開策を呟く。

「ゼンガインは無理だ、海まで誘導してしまおう」

「インドでは誘導の失敗で民間人だけで5238人の死者が出たんだぞ!」

「だが、どうもできんな……」

 クインストークが気分を変えて降下すれば地上は火の海になる。それを止める手段は彼女らにはなかった。


 突然付近一帯の飛行機へと連絡が入る。

「This is MGF 0002 please go away here」

「OK. radius 10mi evacuated」

「Don’t use mi yankee」

「I stay here for observation」

「OK. Do MGF 0007」

 少しの通信の後、空自と米軍の部隊が撤退する。そして魔法少女ファルコンはクインストークの観測を続けた。


「まったく、欧州最強の魔法少女がなぜ日本にいるんだ? 魔法少女登録番号2番のマジカルフッドだと。有名で迷惑な奴だ。under 65m」

 ファルコンは通信設定を上手く切り替えながら観測情報の提示と文句の投げ捨てを行う。

すぐに情報を元にした魔法少女フッドが砲弾をクインストークに飛ばし、それは雲海を突き抜けてクインストークの手前で熱に触れて自爆した。

「Don’t use HE」

 その情報はファルコンを通じてフッドに送られ、新たな砲弾が雲海を通って現れる。今度の劣化ウラン弾は自爆することはなく、クインストークの翼を貫いた。

「陸自に通達。練馬区、杉並区、武蔵野市の市民に流れ弾の危険あり。避難指示を」

 弾丸を受けたクインストークは雲海の中に沈み込み、対照的にフッドの乗る魔獣ケートスがゆったりと浮かび上がる。


「あれが戦艦を取り込んだ魔獣……」

 魔法少女、魔獣ともに魔法の力を物体に伝播させ、変化させることや、魔獣の場合は自身の体と一時的に融合させることが可能だ。その規模は魔獣と魔法少女の実力に比例する。

 そしてイギリスの超弩級戦艦ヴァンガードと英国海軍の装備を取り込んだ魔獣ケートスは背中に戦艦の構造物を乗せた全長300m弱の銀の巨鯨の姿をしていた。

 ケートスは雲海の下に再び潜ってクインストークに体当たりをする。クインストークはさらに体勢を崩し、より早く避難が開始されていた荒川に落下させられた。


 地面がひび割れ、地響きが起こる。綺麗ではない荒川の水がしぶきとなって辺りに舞い散った。


 川岸の三人と四匹は全力でその場から走って逃げる。

「イリューシンは飛べるじゃん」

 遊久音の指摘により三人と三匹は走って逃げ、一匹は飛ぶ。その後ろでクインストークの体内から青い光が放たれ始めていた。


 青い光は急激に勢いを増し、収束して空気を切る甲高い音を立てながら上空の巨鯨の上に居る真白い軍服の少女に放たれた。


 少女はとっさに全ての力を防御に充て、すぐに気を失った。ケートスが不必要な武装を切り離しながら飛行船が着地するように墜落する。


 クインストークの腹を裂き、先端に口の着いた細い胴体の腹から鋭い足が生え、背からは水に浮く海藻のような腕が生えた白い体に若干の青い光を放つ怪獣が現れた。それは、近くに居た魔法少女に死の予感を与える。

「逃げろ!」

 良太郎が変身しながら怪獣に向けて駆けだした。イリューシンとジベリーは少女たちをつかまえて川から逃げようと走る。

「ねえジベリーさん! なんで逃げるの!」

「本能と、相棒が命令してんのよ」

 悲鳴を上げるジベリーと静かに頷いて賛同する。怪獣の背の触手が鯨の上の少女を捕まえて口に入れ、飲み込んだ。

「人を……」

 怒りに燃えるホッパーの額の宝石の輝きでリボンが燃え落ち、彼は飛び上がって蹴りを放った。怪獣は無数の触手でそれを受け止め、簡単に四肢を逆さに折って変身を解かせ、口に運んだ。

 怪獣がその場の近くに居たもう一人の魔法少女に狙いを定め、歩み出す。一歩一歩が速くはないものの、充分な巨体の一歩は大きく、少女らにすぐに追いつく。

 触手が簡単に魔獣たちを跳ねのけ、目当ての遊久音を捉えて口の中に放り込む。

「遊久音ちゃん!」

 怪獣は日柚知に興味を示さず、他の魔法少女を探して動き始める。恐怖からその場の者は少しも動くことが出来なかった。日柚知は腰が抜けてその場にへたり込む。


「下で何があった?」

「奇妙な怪獣が出て、魔法少女が三人食われたようだ!」

「助けにいくぞ!」

 上空のファルコンはクルーズを変形させながら地上に向けて加速する。

「G-MAX SYSTEM。ON」クルーズではなく元のラプターの機械的な音声が発せられ、元から赤いクルーズが赤いオーラを纏う。

 過剰に溢れた魔法力がファルコンの感覚器官を超常的なものに変える。

 

 怪獣に向けて急降下したクルーズが触手を引き裂き、怪獣の体内に突っ込んで三人の少年少女を抱え、別の場所を突き破って脱出した。そして、少し離れた土手の上に三人を置いて崩れ落ちるように動きを止めた。

「これは……まずいなあ……」

 ファルコンは再生しつつある怪獣を横目にそう呟いて血を吐き、気を失った。


「ねえ、ベボル。私があなたと契約したらあいつを倒せる?」

「そうでなきゃお前を狙ってねえよ」

 極光が二人を包み、しだいに大きくなる。日柚知は怪獣と素手で戦えるほどの巨大な魔法少女に変身した。胸に文字があるわけでもポンポンがあるわけでもないが、赤と銀のチアリーディングを彷彿とさせる服を着ている。

 ベボルは彼女の手首に巻きつき、ブレスレットのようになった。


「許さない!」


 日柚知はブレスレットに反対側の指で触れる。すると光の帯がブレスレットと指の間に伸びた。彼女はそれを腕に巻き付け、手を振り下ろして怪獣に飛ばした。


 怪獣は光の塊に体を抉られ、その場に倒れる。日柚知は、僅かに動いていたそれを目いっぱい踏みつけて息の根を止めた。


「怪獣行動停止!」「 87式誘導弾発射中止!」「直ちに救急車両手配、海水の水槽も手配しろ!」「放射線濃度がおかしい。怪獣の死体からの放射線が毎時30mSvになる」「すぐに子供たちを死体から遠ざけろ。未来ある少年少女を死なせてはならない」



 墨田大学病院の病室に魔法少女達が搬送され、日柚知はリンゴの籠を抱え、友人の病室の前で入ることを躊躇っていた。


「ねえ、私が早く契約してたら大けがしなくて済んだのかな?」

「……だろうな。だが、お前のせいじゃない。怪獣から人を守って責められる理屈はないぞ」

「そっか、ありがとう」

 日柚知が扉を開け病室に入る。全身のほとんどに包帯を巻かれ、複数の点滴が体に繋がっている遊久音と、心配するその両親。彼らは日柚知が扉を開ける音で振り向き、悲しそうな表情を見せる。

「ごめんなさいね、日柚知ちゃん。まだ声も出せないみたいなの」

「顔だけでも見せてあげて」

「はい……」

 日柚知も暗い表情でリンゴの籠を小さな棚に置き、ベッドを覗き込む。ほとんど包帯で見えないがほんの少し遊久音の表情が明るくなる。

「ほら、日柚知ちゃんがきてくれたから」

「そうだといいな……」


 

「俺を弟子にしてください!」

 良太郎がマジカルファルコンの女性大郷寺(だいきょうじ)まいに頭を下げている。舞は困り顔だ。

「いやー、そういうのは私大歓迎なんだけど、治してからにしよう?」

「はい……」

 そう言って舞はナースコールのボタンを押し、良太郎は自分の病室に連れていかれた。


 マジカルフッドの少女ドローレス・フィッシャーの病室には、器用にベッドのパイプに留まる鷹と水槽に入ったちいさな鯨と侵入してきたマジモンと間違えられないように綺麗に直立する蛇がいた。


「成程、あの怪物を斃したのは君の魔法少女か、素晴らしいものだ」

 ケートスが口を開く。どう空気に音を伝えているかは不明だ。

「いや~大先輩に褒められるとは嬉しいな」

 ベボルが嬉しがり、体を振る。

「しかし課題も多い。あの魔法少女は一度の変身につき活動時間が3分もないだろう」

 ケートスがくぎを刺す。

「我々のように変身してから急行が出来ないな」

 翼を持つクルーズが自信満々に話す。

「クルーズ。連れていけんのか?」

「常に一緒に行動することになるな」

「うちの相棒に恋する大和男子には厳しい話になるな~」

 ベボルが笑って呟いた。

「いいねえ~恋って」

「否定はしないが……」

「少年少女の恋路に勝るものはないぜ?」

「それはそうだな」


「ぅ……る……さ……ぃ」

 ベッドの中のドローレスが声を絞りだす。

「話せるようになったかロリータ!」

 ケートスがバシャバシャと水槽で波音を立てる。

「相棒が復活して嬉しい気持ちは分かるが落ち着けケートス」

「貴様の相棒もけが人だろう。心配してやる気持ちはないのか?」

「核魚雷でもしなないさあいつは」

 クルーズが病室のテレビを付けた。怪獣問題での首脳会談の開催について特に詳しくもない芸能人コメンテーターが語っている。

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