大空決戦
「国連宇宙艦隊。所定の軌道に乗りました」
たった八基の探査機が地球軌道上を離れ、ワームウッドと名付けられた隕石へと向かった。それに呼応して二人の人間が飛行艇から飛び降り、魔法少女として上空へと向かった。
銀色のチアガールの魔法少女ウトトと、赤目赤髪の魔法少女ガリバルディだ。無数の飛行戦艦と魔法の兵隊が彼女を追うように動く。
「最悪の場合、ウトト。貴様だけは行け」
「わかった!」
無数の戦闘機とミサイルが彼女たちを援護するように飛行戦艦と魔法の兵隊へと飛び込んでいった。アジア各国、フランス、アメリカ、イタリア……無数の戦闘機部隊が入り混じる。
そこにまた一つ加わるように魔法少女が航空編隊を引き連れてやってくる。
「アンノウン接近。どこの国だ」
航空管制を行っていた大型機が通信回線を開こうとする。フランス海軍航空隊がその編隊に接近した。そのフランスの戦闘機隊はその正体不明の部隊の後ろにつく。
「我々のラファールとよく似ている」
そう呟いたパイロットは、その機体を見てあることに気が付いた。
「ユーゴスラビアのマーク。それに、コックピットが無人だ。何かきな臭いぞ」
その不明な戦闘機の一機がコブラ機動でフランス戦闘機隊の後ろに回り込んだ。
「何をする気だ!」
その戦闘機はミサイルを放った。フランス戦闘機隊はすぐさまフレアを撒きながら散開してその戦闘機隊との戦闘を始める。
「新手は敵だ。おそらく一緒に来た魔法少女も!」
彼らの通信を聞いていたガリバルディはウトトに話しかける。
「下でまずいことが起きてる。後は任せたぞ」
そして、返事も聞かずに降下していった。ウトトは僅かな心細さを胸にしながら変わらずに上昇を続けていった。
ガリバルディは、やってきた白衣姿に瓶底メガネの魔法少女と相対する。
「お前はメイキング・ギーグだな。こんなことをする奴じゃないだろ。なぜわざわざ発明品に身を包むこともなく」
「ふ、ふふ。見てよこれ」
ギーグが白衣の胸を広げると、彼女の胸に黒い触手が突き刺さっている。それは波打ち、魔法で作られた肉体だけでなく本来の肉体すらも穿っているようだった。
「戦闘機はアヴィオン。平均的な第四世代機だ。止めてくれ」
ギーグはそう呟き、魔法でできた無数の刀を周囲に出現させた。
「止める」
ガリバルディは赤いマントを纏い、ギーグに向けて真っすぐに突っ込んだ。自身に飛んでくる刀を無視し、彼女の肩と触手を強く掴む。
「無理だ」
ガリバルディは力を込めて触手を引き抜こうとした。それと同時に彼女を狙ってアヴィオンが体当たりを仕掛ける。一機目は魔法の防壁を張って防いだが、二機目は彼女たちに突っ込んだ。
「効かないな」
ガリバルディの魔法少女らしく華々しい衣装は焼けこげるが、やせ我慢をしてギーグに微笑み、触手を引き抜いた。
「あり、がとう」
二人の魔法少女は同時に力尽きて自由落下を始めた。彼女らの眼前に広がるのは、無限にも等しいような大海原だ。
「うわーっ!」
高度を上げてきた青い魔法少女が巨大なフクロウの上で二人を受け止めた。
「なぜ受け止める側が叫ぶんだ」
「いいでしょ別に」
「制空戦闘は航空隊が担う。敵艦の破壊に注力しろ」
「トマホークをあるだけぶち込め」
浮上した潜水艦が数十発のミサイルを撃ち出し、その無数のミサイルは次々に空中戦艦を襲った。
ウトトは上空のショファーの眼前へとついに到達した。隕石から地球を防衛するための航宙機のための
陽動が彼女の役割である。ショファーは、全長数キロの巨体でビルほどの大きさのウトトの前にゆったりと浮いていた。
ウトトがポンポンを振り回し、銀色のポンポンから無数の光線が放たれてショファーへと向かう。光の軌道がショファーを包み、この怪物の全身をめがけて降り注いだ。
ショファーは六枚の翼から無数の羽を放ち、その中心にある三つ目のヤギの目から光線を放つ。どれもウトトに向けたものだ。航宙機には目もくれていない。
ウトトはそれを回避し、時折羽を光線で打ち消した。やがてヤギの瞳は閉じられ、明確に羽の量も減っている。
地上にいる国連宇宙軍はその状況を逐一確認していた。
「彼の内部エネルギーが低下してます」
「戦略原潜による援護を開始」
弾道ミサイルが潜水艦から打ち出された。
ショファーは六枚の翼で自身を包み、真っ白い球体のような姿と化した。ウトトは光線を打ち込むが、翼の前に弾かれ、無意味な光の帯が宇宙に一つ煌いた。
ウトトは二つのポンポンをこすり合わせ、それが強い光をはなち始めた。
「フォーミダブル・メーサー!」
誰にも届かない叫びと共に強力な光の帯がショファーに向けて伸びた。その光はショファーの六枚の翼を強く打ち、徐々にショファーは押し出される。そして、ショファーは対抗するように翼を開き、三つの目から強力な光線を放った。二つの光線が押し合いを続けている間に弾道ミサイルは接近する。
ウトトは光線の打ち合いを辞め、ショファーから距離を取る。彼女は航宙機が隕石に突っ込み、その向きが変化する様子を目にして目を閉じた。すぐさま水爆の恐ろしき輝きが矢継ぎ早に発生し、辺り一帯を包み込んだ。
「これで終わりじゃないんだ……」
その核融合の輝きが終わり目を開いたウトトは、ショファーめがけて落ちる隕石を目にした。
その隕石はショファーに衝突し、その巨体は落下を始める。全長三キロの巨体は衝撃で開かれ、パラシュートのように隕石のエネルギーを受け止めさせられる。
巨大な流れ星を、地上のブラックとドミナは見た。そしてすぐにブラックはビル目掛けて跳ね飛び、場その場から去ろうとした。
「あれのために人が居なかったのか」
そう呟き、ドミナはブラックを追って走り出す。ブラックの居る場所はローター音が響いていた。
ブラックは二人の魔法少女を抱え、自衛隊のヘリに乗る。
「他に連れて行く者はいないな。離陸する」
ヘリが徐々に高度を上げる。その後部へドミナが飛びついた。
「死ねえ!」
ドミナは短剣を作り出し、回転するローターに突っ込もうと振りかぶった。その手を外に出たブラックが掴む。
二人はもみ合いながら地上へと落下した。
「波が来るんだ。死ぬぞ」
「あんたみたいなのをぶっ殺せるならそれでいい!」
ドミナはブラックを殴りつけて蹴り上げた。ヘリはすぐさま上空から退避する。ブラックは空中で姿勢を安定し、ドミナの次の攻撃に備える。
「来いよ!」
ブラックはドミナに向けて叫び、ドミナはそれに呼応して飛びあがる。ドミナの蹴りをホッパーは受け止め、彼女に組み付いた。
「終わりだ」
二人の周りを黒いバッタの群れが包み込み、その黒い塊はそのまま空に高く舞い上がった。
暫くしてショファーが海上に落下し、巨大な波が生まれる。津波とは性質の違う、一度だけの大波が太平洋に発生し、沿岸の都市に直撃した。
波が過ぎ去って帰っていってすぐにブラックはドミナを地面に叩き落とした。ドミナは地面を手でたたき、苛立ちと共に立ち上がる。
彼女の視界の端に水平線に立ち上がる怪物ショファーが写る。
「ふふふ。勝った!」
ドミナは笑いながらブラックを見上げる。
「なにっ!」
ショファーの放った光線はいの一番に空中のブラックを撃ち抜いた。