宙に浮かぶ終末
ショファーは空を覆い尽くすほどの光弾をブラックに向けて放つ。ブラックは飛び回ってそれを避け、ショファーの上に飛びあがった。
「近寄れる気がしない」
彼の目には毎秒に数千の弾丸が写り、逃げ回ることしか出来ない。しかし、様子の違う巨大な弾丸が遠くを飛んでいるのを見つける。
それは、五つの星のついた国旗が小さく描かれた円錐。中国の弾道ミサイルの先端であった。空気抵抗のない宇宙空間を突き進むそれが、ショファーを撃破するために放たれたことは彼にとって一目瞭然である。
「感謝するぜ!」
ブラックは残り僅かな魔力を練り、光輪を作り出して時折ショファーへと放つ。精一杯気を引こうとしていた。円錐が迫るのを心待ちにしながら。
魔力をよく使い、徐々にブラックの軌道は衰えていく。ブラックが体をねじり、手足を振って躱すのにも動きが遅くなっていく。
やがてトロついた飛行はショファーにとらえられ、十数発の光弾がブラックの体を打つ。彼は力なく地球へと自由落下を始める。
ブラックは再突入のための僅かな魔力を残し、大気の熱を感じながらショファーを見る。
核の炎に包まれるショファーを目にし、角笛の音を聞きながらブラックは目を瞑った。
中華人民解放軍第六十三基地は、今しがたミサイルを発射したばかりであった。
「着弾を確認。六百三十三旅団からの準備完了の報告が来ていない」
核弾頭の電磁波で機能していなかったレーダーが機能を取り戻す。
「目標は健在」
レーダー上のショファーを示す光点から、無数の熱源体が放たれる。
「敵飛翔体発射されました」
「了解。六百三十三旅団は攻撃を中断し退避。他弾道ミサイル部隊は直ちに発射の後散開しろ」
航空自衛隊市ヶ谷基地。
「対空火器使用の許可は出ている。パトリオット発射」
大韓民国空軍烏山空軍基地。
「国内すべての防空部隊に通達。対空戦闘開始」
中華人民解放軍空軍福州基地。
「紅旗九ミサイル発射。トリウームフも続けて撃て」
中華民国空軍防空ミサイル司令部。
「稼働中の天弓型をすべて使え。パトリオットもだ」
朝鮮人民軍空軍。
「ピョルチを使え」
米海軍第七艦隊。
「艦隊のイージス艦に通達。スタンダードミサイルを発射」
重金属弾頭と対空ミサイルが空中で衝突し、散り散りになる。日が沈みつつある東アジアの摩天楼に炎が降り注いだ。
夜が昼になるほどの光が放たれてすぐに大都市は電気の光を失い、人々を暗闇を包む。
日柚知は、病院が予備電源に切り替わる一瞬の暗闇の中、窓の外を飛び回るおぞましい流星群を見た。
「嫌な光」
そう呟いて、彼女はスマホを開く。すぐに彼女の目に飛び込んだのは。地球に接近を始めた小惑星の情報だった。また、彼女を心配する友人と家族からのメッセージも大量だった。
メッセージの一つに、魔法少女としての仕事の呼び出しがあった。
日柚知は、外の惨事を一目見てすぐに義憤に駆られ、そのメッセージを最初に開いた。