迫る終末
空に開いた空間の裂け目から、急激に冷気が降り注ぐ。そして、付近のなにもかもを凍らせてしまった。魔法少女も、超獣の死体も。
魔法少女ウトトは、凍り行く大地を見ながら、諦めるように脱力した。そして、顔を恐怖に歪ませながら氷に覆われた。
「プログレッシブナンバーが三人は居る……四人か?」
ガリバルディが上空でそう呟いた。そして、冷や汗が頬を伝う。
「なんだ、やけに恐ろしいぞ。ここから逃げ出したい……」
そう言ってハートの方を向いたガリバルディの目には、彼女が気絶している様子が写る。
「これは、回避不能の攻撃なのか、人の精神や魂に作用するようなっ」
ガリバルディがそう叫んだ。
その攻撃は、圧倒的な範囲に及んでいた。
「爆撃隊は飛ばすな……なにかまずい予感しかしない」
「直感的なことで攻撃を止めるのか!」
「あの場所は何か……恐ろしいのだ」
氷が割れ、二人の魔法少女の変身が解けて地面に崩れ落ちるように倒れる。そして、雪の結晶のような魔法の力の塊が倒れたウトト……に変身していた日柚知の体にゆっくりと同化した。
元々対して残っていなかった地上の草葉は次々に枯れていき、氷から解放された羽虫は力なく地面へと落ちた。
空間の裂け目は塞がった。
「回収するぞ」
ガリバルディは爆撃機の高度と速度を下げ、地面すれすれで倒れた二人の少女を回収し、再び高空へと飛び去った。
実験飛行隊がその場に核爆弾を抱えて舞い戻った時には、草を剥がれて黄土色をさらけ出した大地だけがそこにあった。
「ハート。温度を上げろ、なんとしても二人とも死なせるんじゃない」
「もちろん。ホットタオルも持ってきてる」
都内某所の病院に、日柚知は軽い凍傷で入院することになった。
友人たちが代わる代わる見まいに来ていたが、ある日ガリバルディが姿を見せる。
「ナギは、大丈夫?」
「……お前にありがとうと言っていた。今夜が峠だそうだ」
ガリバルディと日柚知は目線を合わせなかった。ただし、二人は小さな手で握手を交わした。小さな願掛けだった。
「ダイビング! フリージング! どこだ!」
激昂した魔法少女ホッパーが同僚を探して叫ぶ。
「一体どうしたんだ?」
姿が瓜二つな青と水色のドレスの魔法少女がホッパーの前に現れた。
「ウトトは徐々に内臓が凍り付き、苦しみながら死ぬの」
「もう一人はどうにもならない。最期を看取ったガリバルディの顔が楽しみだな」
ホッパーはダイビングを殴り飛ばし、フリージングを蹴り飛ばした。二人の体は空中戦艦を貫き、地面に落下する。
「貴様らは!」
ホッパーはそれを追って地面に着地した。
「捕まえた魔獣どもを逃がしてるのもお前か。キリング・ホッパー」
ダイビングは平然と彼の前に立つ。
「だったらどうする」
ホッパーは毅然と拳を握りしめていた。
「粛清だよ。メファインも出すか」
三人の魔法少女がホッパーの前に立った。そして、加速したホッパーがフリージングに蹴りを入れ、彼女の体を空中戦艦に打ち込んだ。
「やるな」
そう言ったダイビングの顔を拳で撃ち抜き、メファインの腕を掴んで空に放り投げる。
「さすがに切れるぞ」
地中を泳ぐサメの尾が、ホッパーを空中へ弾き飛ばした。空中の彼を挟み込むように上下から氷と水の弾丸が空中へと降り注ぐ。
「当たるものか!」
弾丸を足場にしながらホッパーは上昇した。そして、弾を降らせていたフリージングと相対する。
ホッパーは回し蹴りでフリージングの頭を叩き割った。それは氷だった。
「なにっ!」
氷の塊が集まってフリージングの顔を形作る。そして氷の礫を吐いた。
「あぶねえ!」
ホッパーは飛びあがり、氷の体と頭を蹴り割った。粉々になった氷もすぐにフリージングの全身を形作った。
「無敵か!」
フリージングの元へダイビングが飛びあがり、二対一の状況を作る。
「来いよ!」
ホッパーは飛びあがり、甲板の上に立った。そして、周囲に無数のバッタの群体を解き放ち、自身の分身を大量に作った。
ダイビングとフリージングは、その軍団に突っ込み、蹴散らした。そして、蹴散らしきったころには本物のホッパーの姿はその場から消えていた。
そして、再び現れた大量のバッタが二人に襲い掛かった。
「まどろっこしいな」
「あれをやろうか」
次の瞬間、空中戦艦が強力な稲妻と共に大爆発を起こした。空中戦艦の横に張り付いていたホッパーは当然吹っ飛ばされて地面に落下した。
「うぐう」
そのままホッパーは戦艦の残骸の中に息を潜めた。おぞましい魔力が辺りに漂っていた。
ビギニングが現れた。無垢な少女の姿で、フリージングとダイビングの目の前に。
「強くなったよね。私たちは」
「ええ勿論です」
ダイビングがへりくだった。
「これが全力かな?」
「はい」
フリージングが嬉しそうにそう言った。
「この程度ならいらないね」
二人の首が宙に舞い、続いて光が空を覆った。
二人の魔法少女の跡形もなくなっていた。
「なんてやつだ……」
一部始終を見ていたホッパーの顔から血の気が引く。彼は、無言でメファインが迫ってきたことに気が付かなかった。
「おわ。なんだおまえ」
「……」
メファインは何も言わなかったが、震えていた。
「一緒に逃げるか?」
彼女は、無言で頷いた。ホッパーは彼女の手を引き、走り出した。
「見えているがな……。面白い。帰る方法も場所も残しはしないぞ」
ビギニングはそう言い。その空間から姿を消した。