超獣滅す
B-1爆撃機は、大暴れする巨大な超獣を捉えた。
発達した両脚と尻尾で体重を支え、恐竜のような姿をしている。
ちょうど寒空の下で皆が逃げて無人になり、すっかり寂しい様子になったロシアの空港を襲っているところだった。
イリューシン96は全長約60mの大型旅客機である。それを超獣はなんなく噛んで持ち上げ、様々な箇所を破断させながら別の旅客機へと投げつけた。
B-1の機内で、レーダーの反応が出た。
「ロシアの…実験飛行隊だ」
Su-47ベルクト戦闘機が一機、Su-34フルバック戦闘爆撃機が四機の編隊だ。
フルバックはどれも大型の爆弾を搭載していた。対照的にベルクトはガンポットだけだ。
「日柚知、ナギ、奴らが何か一仕事するつもりだ。離れるぞ」
ベルクトが超獣に向けて急降下し、フルバックは対照的に上昇する。
ベルクトが自身の存在を示すように超獣の周りを旋回しながら射撃する。すぐに気をとられた超獣に対して四機のフルバックが爆弾を投下した。
強烈な爆発が辺りを吹き飛ばす。B-1は逃げるようにその空域を離脱した。爆炎の中で超獣の咆哮が響いた。
B-1のキャノピーが開き、ナギと日柚知の二人が飛び降りる。二人は風を切りながら地面へと迫る。
二人の魔法少女が寒い大地に降り立った。
「ウトト!」
ナギの言葉を受けて魔法少女ウトトが頷き、三百メートル代の青と銀の巨大な姿になった。両手には銀色のポンポンが本当に握られている。
ナギは巨大な鎌を空に投げる。それはリーパー無人攻撃機に変形し、彼女はそれに飛び乗った。
「アバズーン!」
「ナギ!」
「ベボル!」
「ウトト!」
自身の相棒の名前を呼びながら、二人の魔法少女は超獣へと向かった。リーパーとナギが無数に分身する。
「スラッシュ光線!」
ウトトがポンポンを空に掲げる。ポンポンから三日月のような形をした無数の光弾が放たれる。それらは風を切りながら超獣に突き刺さった。
突き刺さった光弾はボロボロと砕け落ち、僅かな傷はすぐに修復された。
超獣は激怒した様子で体の表面に血管を浮かべながらウトトに向かって叫んだ。その音はどこまでも響いた。
遠く離れたロシア軍基地にも、その声は届く。
「第326重爆撃師団。全機発進用意ができました」
「サーモバリック爆弾攻撃の成果を確認次第離陸し、生存していた場合は核攻撃を行う」
「あんなバケモンを相手にか……」
超獣の喉元が光る。
「まさか! ウトト、避けて!」
ナギの叫びは既にウトトに聞こえてはいなかった。彼女もまた、口を開く。
超獣とウトト、両者の口から強力な光線が放たれた。それらはぶつかりあい、強烈な光と衝撃を周囲に発生させる。
僅かな草がはげ、地面が抉れる。超獣の近くにいたナギの分身は次々に消し飛ばされていった。
「なんてことだ!」
ナギはそう言いながらリーパーの姿になったアバズーンにしがみついていた。衝撃で飛ばされた土砂が辺りに雨のように降り注ぐ中、超獣とウトトは再び相対した。
「終わらせるよ、ベボル。ギロチンカッター!」
「任せろ!」
ウトトの両ポンポンから光輪が突き出されて回転しだす。正確には絶えず空気を切り裂き続ける単原子カッターだ。
「わかった。やるよアバズーン」
ナギの分身がさらに増え、超獣を取り囲む。
「わかるまい! 獣には!」
無数のナギは困惑し辺りを噛みまくる超獣にそう叫んだ。
「サンキュー!」
分身の群れをウトトは突っ切り、両手の刃で超獣の首を両断した。
トカゲのような巨大な顔が、力なく地面に落ちる。
「やった! 倒したよ!」
地面をドスドス鳴らしながらウトトはその場でポンポンを振って喜んだ。そして、分身の嵐から出て姿を表したナギに笑顔を向ける。
「私も一応敵なのに……」
ナギがそう呟いたところで、青い光が彼女の目に入る。超獣の死体からそれは放たれていた。禍々しい輝きだった。
「ウトト! 逃げて!」
制御機関である頭を失った超獣は、節操もなくエネルギーを辺りに解き放った。核爆発である。核の炎が辺りを焼き尽くす。
「こちら観測機。超獣が爆発した模様、規模から3キロトンほどの威力。核爆発と思われる」
上空を飛んでいた大型爆撃機が白い機体色でエネルギーを反射しながら状況を地上へ伝える。
「核攻撃は行われていない!」
「所属不明機の領空侵犯が確認されている! それかもしれん!」
「迎撃機を発進させろ! 地対空ミサイルもだ!」
地上が慌ただしくなる。パイロットが休憩室から叩きだされた。
ナギは魔獣アバズーンとともに空を舞う。
B-1は速度を出してその場から離れる。
「ヴァレリー! ナギを……」
「無理だ! こっちもきりもみになる」
火球の中からウトトが飛び出し、力なく舞うナギ達を掴んだ。きのこ雲を背にウトトはB-1を追ってこの場から逃げ出した。
飛行しながらウトトは手のひらをゆっくりと開く。
イナゴの魔獣と一人の少女がそこにはいた。
「あれ……。私、生きてる?」
「そう、生きてる」
その場の二人は安堵し、B-1に乗った二人も安堵していた。
B-1の通信機が鳴る。
「ハート、付けてくれ。……なんだ?」
「ディバイディング・ガリバルディ。ウトトが損耗している。好機じゃないか、始末しろ」
「その声……。ダイビングか、断る。俺は公私混同を避けたい口だ」
「そう……。それじゃ、貰っちゃおうかな。私たちが」
空間にひびが入る。強大な数人分の魔力がそこから溢れだし始めた。