必要な金策
大きな超獣の飼育小屋にホッパーはいた。牛ほどに大きな鳥の雛達が彼の姿とキャスターに乗せた大量の餌袋に反応して柵を叩いた。
「はいはい。順番だよ順番」
「私たちのように戦うのかな。この子たちも」
「それは避けたいなあ」
彼女の背に乗っていたジベリーがそう呟いたところで扉がどんどんと叩きならされる。
「襲撃……? ここの壁から魔法の力は漏れないはずなのに」
ホッパーがそう言ったのも束の間、扉が蹴破られた。スパイダーによって。
「助けに来た!」
スパイダーの左にピース(6)が飛び出す。
「右に同じく」
二人の上に日柚知が上がった。
「した二人に同じく!」
「どうやって浮いてんだそれ」
「俺が踏まれてるんだよ!」
ベボルが叫んだ。
三人は目の前にホッパーがいることを無邪気に喜んだ。
「一緒に帰ろう!」
そう言った日柚知がホッパーの元へと駆けだし、抱き着く。
「……」
ホッパーは無言で彼女の手を払い、少し押し除ける。
「俺、この子たちの世話しないといけないから」
そう言って三人に背を向ける。
「力ずくで連れ帰ってやる!」
スパイダーはその背中を蹴っ飛ばした。
「そんな理屈が通じるか!」
ホッパーは振り返ってスパイダーの肩を掴み、飼育小屋の天井をぶち抜いて飛び出した。
彼らの動きを察知した飛行巡洋艦が上空にいたが、それに二人は着地した。二人は再び空中へ飛びあがり、パンチとキックの応酬を繰り返し着地する。
「決めるぞ」
「ああ」
二人は同時に後ろへ跳んで、助走を付けて飛びあがり、空中で全く同じ蹴りの姿勢をとる。
そして、ホッパーの蹴りがスパイダーの腹を穿った。スパイダーは巡洋艦を貫通し、飼育小屋に叩き落とされる。
「うう……」
スパイダーの変身が解除される。そこへ燃え上がり落ちる巡洋艦をバックにホッパーが降り立った。
「帰ってくれよ」
「いやだ!」
日柚知が叫び、ホッパーの腕を掴んだ。ホッパーは彼女の腕を掴んでピース(6)に向け投げ飛ばす。
「うっ」「あっ」
「とっとと逃げ帰れよ」
ピース(6)は何も言わずに、気絶した二人を抱えてイリューシンに飛び乗った。
特殊世界から帰還した人々が祝福ムードで迎えられる中、日柚知はうなだれていた。
「私、拒否されちゃった」
ビギニングが少し悩んでいた。
「飛行戦艦はできているんだから攻めようかなあ」
「日柚知、はがきが来てたぞ」
父から彼女ははがきを受け取る。
「よう、日柚知。どうせ彼氏を取り返せなくて落ち込んでるとこだろう。貸してやれる知恵がある。俺の店に来い。有料だがな」
彼女に選択肢はなかった。
ガリバルディの店を日柚知は訪れる。小さな店だが人で賑わっていた。
「裏で待っててもらおう。ハート、案内だ」
「はい。こっちですよ」
ハートに言われるがままに日柚知は移動した。
営業時間が終わるまで、日柚知は小さなバックヤードの中で縮こまっていた。
「来い、金のなる話だ」
さっきまで客の居たテーブルに二人は座る。
ナギとハートが横で賄いのパスタを作って食べていた。
「情報料500万ドルだ」
「なっ」
ガリバルディの提示した額に日柚知は驚いた顔をする。
「出せないだろうな。そこでいい仕事がある。ロシアに出てきた超獣の討伐だ」
荒い画質の一枚の写真をガリバルディは机の上に出した。放棄された砲兵陣地を破壊する超獣が写っている。
「こいつ一匹の懸賞金は1000万ドル。アメリカ政府が我々みたいなフリーの者向けに賞金を出している。君と俺達が協力すれば負ける相手じゃない」
「ただ働きさせようってわけ?」
日柚知は訝しんだ。
「もちろん」
彼女はそれに同意するほかなかった。
航空自衛隊仕様のB-1爆撃機が北極海の空を飛ぶ。ガリバルディ、ナギ、ハート、そして日柚知の四人が乗っていた。
「一佐、ありゃ空自ですかね?」
「迷彩からしてそうだろう。ほっとけほっとけ」
計器の山に、後席で隣に座っているナギと日柚知は目を回していた。
「日柚知ちゃんだっけ? 機械いける?」
「いやまったく。前の二人はわかってるみたいだけど……」
「お前たちが操作する必要はない」
B-1が可変翼を折り畳み、氷山の伸びる低空を通り抜ける。一歩遅れてエンジン音が氷山を叩いた。
「さて、ここでもう一度確認だ。超獣は300m強の体長をもち、最新の情報では両生類や爬虫類に近い特性を持つとされている。我々の飼育下にあったものと情報が違い過ぎるから正直なところなにもわからん。海中で遺棄された原潜を食った。とアメリカの関係者は考えているがな」
「私、そんなでっかい相手と戦ったことない」
日柚知は自分の数倍の大きさのトカゲと戦う様子を想像した。そして肝を冷やしてぶんぶんと頭をふる。
ガリバルディが席の後ろを覗き込んだ。
「お前の魔力は以前よりもずっと強くなっている。きっと300m級の姿でそれなりの時間戦えるだろう」
「そうかなあ、って前!」
B-1の目の前に氷山が迫る。
「おっと」
ガリバルディが機体を真上に向け、強烈なGに四人はさらされる。氷山を乗り越えたB-1の機内で、日柚知はすっかり気を失っていた。
「お気の毒な……」
ナギは力の抜けた様子の日柚知の背中を優しくさすった。