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静けさ

 キリング・ホッパーが白い荒野に立った。



 荒野のはるか遠いところに、メイキング・ギーグとファルコンが立っている。

「強化外骨格…という奴だ。UAVから変形する」

 そう言ったギーグのところへKF-21戦闘機を模した2mほどのUAVが飛来し、分離して彼女の体を覆う外骨格となった。

「いいだろう」

 ファルコンが拳を固めてファイティングポーズを取る。

 ギーグの背に移動したジェットが火を吹き、彼女に空を飛ばせた。

「飛ぶのか!」

 ギーグがファルコンへ足を振り下ろし、ファルコンはそれを片腕で受け止める。

「馬力不足だ」

「サンキュー」

 着地したギーグとファルコンがテレフォンパンチの応酬を始める。

「こういうのを考えてるんだろ? 外骨格なんだから」

「もちろんだ!」





 UNAFと青い文字で描かれたヘリが野次を受けながら離陸した。

「特殊世界攻略作戦に参加する国家は?」

「アメリカ、EU諸国とイギリス、東、南アジアの国は我が国以外は参加を表明しています。北朝鮮も」

「中東諸国は?」

「不参加です。装備の提供もありません」

「10式改の調達は済んでいる。やることは決まった」



 日柚知と遊久音とメファインは上野に来ていた。この世の大体の博物館や美術館は中学生以下のお財布に優しいからである。

「あ! 新しいイタリアンが出来てる!」

 日柚知が目ざとく白い壁に大きく「イタリアン サルデニア」

「行ってみる?」

 游久音が店に指を刺しながら隣のメファインに目線を伸ばした。

「レビューもない店のようです。そもそもお昼にはまだ……」

「見てこようか?」

 遊久音の持っているカバンの中からイリューシンが言った。

「町中にフクロウが飛ぶわけには行かないでしょ」

「それもそうか」


「よし、俺が見てこよう」

 日柚知の手提げの中からするするとベボルが這い出て、店の窓を這いあがって覗き込んだ。 

「あ」

「あ」


 砂糖をエスプレッソにぶちこんでいる最中の少女と目が合う。

「逃げっ」

 目にもとまらぬ速さで店から飛び出した少女はベボルの首根っこを掴んだ。緑髪のツインテールに、ぎらつく赤い眼で、コックの格好をしている。

「スープの隠し味にしてやろうか?」

「待った待った!」

「喋る蛇。魔獣か。相方はどこだ? まあいい」

 少女はベボルを連れて店内へ戻って行った。

「どうする?」

「入るしかなくなった」

 三人の少女は堂々と道を進み、そのイタリアンレストランの前に立った。


 日柚知がドアのノブを掴み、押し込んで、ベルの音と共に入店する。


 店内で蛇と会話していた少女の姿を、日柚知と遊久音は見たことがあった。

「「ガリバルディの中の人!」」

「お前ら二人を纏めて呼ぶにはどうしたらいいんだウトトとピース!」


 少女は、実のところディバイング・ガリバルディであった。

「ともかくまあ座れ。メニューはある。ナポリタンはない」


 ガリバルディ? いや店主の行動に、三人は小声で囁き合う。

「今日はオフの日なのかな?」

「悪の組織にオフがあるかなあ。私を一度殺した人だしなんかあるんじゃ……」

「きっとオフです」


 三人はこそこそと話しながら椅子が二つと長いテーブル、壁にくっついた長ソファーの席に座る。遊久音が奥の椅子、その前のソファーにメファイン、遊久音の隣の椅子に日柚知という具合だ。

「ウトト! 貴様の魔獣だな? 返してやる」

 ベボルが投げられてテーブルの上に乗った。

「ただいま」「おかえり」


 すこしして、店主がウォーターポットとコップを三つ持ってきた。

「俺への詮索をする気じゃないだろうな」


「……」

「とっとと注文を決めろ。メニューはあるだろ」

「はーい」

 遊久音が素直にメニューを開いた。

「冷製パスタ……私冷製カルボナーラにしようかな」

 冷製パスタの欄には、なんとなくイタリアンに明るくなくても通じるだろうというラインナップ。どころかたらこスパゲッティまであった。

「私は普通のイカ墨パスタにしよう」

 メファインがもう一つメニューを取り出して呟いた。

「私は~プッタネスカかな」

 日柚知はメニューの中をさらっと見て目についたものを選んだ。


「決まったか?」

「「「はーい」」」


 彼女らの早めの昼食は彼女らにとって予想外なことに、そして喜ばしいことに素早く安全に終えられた。

「……また食いにこいよ」


 店主からの淡白な見送りを受け、三人の少女と二匹の魔獣は店を出た。

「あ、ほっぺにイカ墨付いてる」

「うっそ……ほんとだ」

 遊久音が自身の頬に付いた黒い液体に指で触れる。

「失礼」

 メファインが頬に僅かに残ったイカ墨を指で掬い取った。

「ハンカチもありますよ」

「ありがと」

「そろそろ行こう。美術館とか博物館とかいかないともったいないよ」

 三人が急ぎ気味に走り出した。



「ええ、ヘリオスからの情報です。巨大な超獣は北極海から脱出し南下。現在も移動を続けています。ロシア連邦軍の攻撃による損害は軽微。このままでは、数か月のうちにウクライナとの戦闘区域に突入します」

「まずいな……特殊世界攻略作戦は間に合うか……?」

「おそらく」



 魔法少女ギーグとファルコンが同時に白い大地へ倒れた。

「引き分けだ!」

「ウォー!」「ナイスファイト!」

 いつのまにか集まっていたギーグの部下が歓声を上げ、負けじと二人の魔法少女も歓声を上げた。

「さて君らに向こうと往還する技術を教えよう。簡単なことだ、裂け目のイメージだよ。アニメやらなんやらで異世界へ移動することがあるだろう? それと同じだ」

「結局魔法はそういうものか…」


 白い大地に墜落し、甲板だけが上に出ている飛行空母の上に魔法少女たちはやってきた。

「機体の整備はしておいた。カタパルトの準備もバッチリだ」

「なんて技術力だ……」

 甲板のクルーが旗を振る。三機の戦闘機が離陸し、向こう側の世界へと消えた。


「達者でな~」


 三機の戦闘機は、中国の都市の上空へと飛び出した。故意ではない。


「日本か? 助かった!」

「街並みがおかしい、アジアの別の国だ。中国か韓国か……」

「前言撤回。亡命したミグみたいにしないとな」

 しばらくして、三機の戦闘機が人民解放軍空軍基地に着地した。


「なんだか急に平和になった気がするなあ」

 友達と別れて帰路についた日柚知がそう呟いた。


「うっ」

 日柚知が口の中の異物感でえずいたその直後に彼女の口の中から薄黄色い卵のうがぼろぼろと出てきた。

「なにこれ……」


 自身の唾液にまみれながら足元で孵化する無数のカマキリに顔をしかめた日柚知を、ターニング・ハンドは不敵な笑みとともに眺めていた。

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