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ホッパーを

 日柚知が中国行きの便に乗っている。

 そのあいだ、二人の少女と一人の少年、そしてハンドルを握る一人の男性それと四匹の魔獣。自衛隊の業務車に彼らは乗っていた。


 やがてその車は小さな駐車場の付いた一軒家についた。四人がよたよたと降りているうちに家のなかで女性の叫び声が響いた。

「母さんの声だ!」

 制服の少女、魔法少女ドミナとして戦っていた。森嶋月が、自宅へ駆け込んだ。


 それを運転席から降りたばかりの松浦が追い、靴を脱ぎ捨てて同じように駆け込んだ。


「僕らも追いかける?」

「松浦さん陸自の人でしょ? 邪魔した方がまずい気がする」


「外の二人! 救急車を呼べ! 首吊りだ!」

「「はい!」」


 家屋の中、陽と書かれた看板のかかった部屋の中のカーテンレールに縄を掛け、ぼさぼさとした髪に地味なパジャマ姿なこと以外森嶋月にそっくりな少女が宙に浮いていた。


「すまない!」


 松浦がカーテンレールを掴んで壁から抜き、当面の気道を確保しようとする。

(心肺蘇生は……机の上に市販薬の箱。胸骨圧迫だけにすべきか)


 体温が少しずつ失われ、瞳孔が開き……。救急車の到着の時点で、母親が発見した時点で、正確にはもっとずっと前に、魂は体から去っていた。


 家の外で状況を聞きながら救急車を呼んで人払いをしていた二人はすぐに帰るように言われ、すごすごと帰路につく。


「魔法少女が、あの場に四人いたんだよね?」

「うん」

「死んじゃったのかな? 月さんどうするんだろう」

「わかんないよ。そんなの」

 


 中国警察の受付の電話が鳴る。二人の逃走者に宛てて。

「繋げ、本人と会話させろ」

 魔法少女ドグマの手に受話器が渡る。

「ドグマ、私も逃亡者だ。助けてほしい。魔法少女ハスラーだ」

 会話を聞いている警察関係者たちが話し合い、ホワイトボードでドグマに指示を出す。ドグマは指示を読みながら電話を続けた。


「わかった。場所はどうする?」

「そっちで指定してくれ」

 ドグマが目線で指示を乞う。警官たちが慌ててホワイトボードに指示を書く。

「今から言う住居に来てほしい。私もそこで待つ……」



「無人機が制御を外れています。旅客機を追っているような動きです」

「演習中の戦闘機を向かわせろ。無人機最悪撃墜しても構わない」


(後ろのほうから魔力を感じる? まさかね)


 日柚知も乗っている旅客機の右翼へと、ステルス性のある無人機が飛ぶ。


「無人機を捕捉。民間機を追っています。複数のエンジンの熱でミサイルが使えません」

「接近して機銃で迎撃だ」


 J-20戦闘機がWZ-7無人機を追うが、すでに対処は不可能な地点まで来ていた。


「機関砲射程内」

「発砲するな! 民間機を巻き込むぞ!」


 右翼の半分と、エンジンが吹き飛び、無人機の残骸が旅客機の窓を叩き、割った。

「ひえー!」「な、なんだ?」「キャー!」

 悲鳴やら何やらが響く。


「残骸に巻き込まれる!」


 慌てて回避したJ-20のカナードの片方をエンジンの残骸が切り裂く。


「被弾。しかしこれは民間機の状況の方がまずい! このまま追い続ける」


 J-20のパイロットには、パラパラと翼を崩壊させながら飛行を続ける旅客機の姿が写っていた。


「くそっ緊急回線を開け!」

「こちら早期警戒管制機。現場のJ-20および攻撃を受けた621便の管制を受け持つ」


「聞こえているか621便の操縦士。左のエンジンを切れ。そのままだとスピンする」


「分かった。今やる」


 相対的に旅客機より速い状態で衝突したせいで機体の前方に待っていたWZ-7の破片が旅客機の左翼にぶつかり、主機系統を寸断する。


「エンジンが操作を受け付けない!」

 機体が右に傾き始める。

「管制官! 指示を! 管制官! メーデー!メーデー!メーデー!」


 J-20が左翼の後ろに迫る。

「機関砲でエンジンを破壊して左右のバランスを取る」

「ネガティブ! 成功率は0%に等しい。主翼を折れば全員お陀仏だ」

「どうしろって言うんだ! 機長の乗客全員の許可とれってか!」


 日柚知はシートベルトを外して穴の開いた窓から機体の外へ飛び出した。


「少女が割れた窓から飛び出したぞ。 なかでよほど錯乱しているらしい」

「なぜ教えなかった管制機! 最新鋭だろ」

「どうしようもあるまい。我々には」


 眩い光と共に魔法少女ウトトが現れる。

「何だあれは!」

「日本の魔法少女だ! たまたま乗っていたらしい」

「何だって!?」

 

 ウトトは飛びあがって右の翼を掴み、飛行機と平行に飛び始めた。推力を得た旅客機がゆっくりと地面に対して水平になる。


 そんでもって操縦士に向けて空いた手でサムズアップをした。


「女神だな…まるで」誰かが呟いた。



 魔法少女ホッパー、そして、無数のマークスマンなどが周囲に構えている合流地点の廃ビル。そこへドグマは入って行った。指揮が警察から軍に移行する規模の事態に備えて、歩兵戦闘車や装甲車、武装した兵士が周囲に隠れている。


「もぬけの殻……まあそうね。ここにこれから向かってくるんでしょう」


「周囲に不審な人影はありません。空も飛行機事故のためか報道機関のビジネスジェットやヘリが飛んでいますがそれだけです」

 ビジネスジェットの一機が高度を下げる。


「不審な動きです。空港が目的地じゃなさそうなのが一機」


 怪しまれた機体の右エンジンから火の手が上がる。そして高度をさらに落としていく。横殴りのビル風が機内に火を吹き込ませながら。

「何だ!? 周囲の住民を避難させろ!」「緊急車両を呼べ!」


 ジェット機は派手に火を吹きながら廃ビル前の少し開けた道へ胴体着陸をした。

「ヘリでも車でもいい。速く消火を!」「森林火災用のロケットならすぐだ!」「許可は俺が取る。消火だ!」


 火を吹く機体のエンジンに周囲のビルから消火剤を詰め込んだロケットが放たれる。


 ロケットが機体に命中し、火が止まる。そして着陸の衝撃で割れた窓からパイロットが這い出てきた。バイクのヘルメットなんかで構成されたらしい即席の防護服の隙間から熱気が噴き出している。

 中国軍の兵士の一人が構えた小銃を降ろし、彼女の目の前にしゃがむ。

「何があったかは後だ。今はここから離れよう」

「……」


「機体の中にも人が……。だめだ、ショッキングな。パイロットに見せないようにしろ」

 覗いた軍人が思わず目を逸らした。

 パイロットがゆっくりと体を起こす。

「喋れるか?」


 しばしの沈黙が流れる。

「ドグマは……? どこだ?」

「そこのビルにいる! 気をしっかり持て!」

 軍人がドグマのいるビルを指さし、パイロットの肩を叩く。

「そうか……よかった」

「ああ、いいだろ? だから目を……」


「覚ましてるさ。騙して悪いがあいつには消えてもらう」

 パイロットの……ハスラーの服装が黒子姿になり、木の棒が手元に現れる。それは伸びて、右翼内の飛行機の燃料タンクを貫いた。

「木偶人形を叩き起こすにはこれに限る」

 飛行機が再び燃え上がる。


 熱の中で、死体のように動きを止めていた黒い人型の怪物が動き出す。黒い骨格が見える透明な装甲。外骨格と内骨格を持ち、皮膚もあわせもつ魔法の怪物。顔についたセミパッシブ防護システムが二つ目のように光り、燃料口防護ジョイントが口のように開閉する。

 それらがぞろぞろと飛行機から出てくる。

「トフェルのシステムは問題ない。いい歩兵だ」


「消火弾残弾なし!」「通常弾頭への換装急げ!」


 付近にいた軍人たちが離れ、装甲車が廃ビルの入り口をふさいだ。

「それなりにやるようだな」


「こいつはどうやら追っ手のようだな」「04式、92式、全車両偽装を解き指定地点へ終結せよ」「攻撃ヘリ、離陸します」


「黒ずくめの武装集団に次ぐ! 直ちに武装を捨て降伏せよ。降伏しないと射殺する」

「やれると思うならやるがいい!」


「撃て!」

 周囲の軍人が一斉にアサルトライフルを撃ち始める。ハスラーが自身の持つ棒を振ると、十個の玉が空中に現れ、彼女はそれの一つを手持ちの棒……キューで突く。

 

 十個の玉が、まるで別の物体が空中にあるかのように飛び回り、無数の弾丸を弾く。


「機関砲は空中の弾を狙う。ロケットで敵歩兵へ攻撃せよ」「「「了解」」」


 大型の機関砲弾が玉を狙って放たれる。


(余り殺すとのちのちの鞍替えで面倒そうだな)

「ロックボール。行けるな? スラスタの7番と8番だ」」


 玉が減り、ロケットでトフェルが打ち倒されていく。その中で、ハスラーの背に大型のロケットが生える。

 

「何だ!?」「撃ち続けろ!」


 ロケットが点火し、装甲車を飛び越え、コンクリをぶち抜いてドグマの隠れる廃ビルにハスラーは突っ込む。


「ひっ」「撃て!」

 ドグマの前に立った二人の軍人がアサルトライフルを撃つ。ハスラーはキューを回転させて弾丸を弾き、飛ぶ。


 魔法少女ドグマの喉元をその勢いで掴み、ビルを数棟貫きながらハスラーは突き進む。


「貴様!」「仕事だよ。悪いな」

 そしてハスラーは大きな通りに出たところでドグマを地面に叩きつけながら着地した。


「変身がこれでも解けないとはやるな」

「私も実験体なんでね。ウトトでも持ってきてもらおう」

「わかった」

 駆け付けようとするホッパー。ドグマ。ハスラー。及びそれぞれの相棒がその存在を感知し、それぞれの感想を持った。

「ひ、ウトトだ!」「感動の再開ねえ」

「敵か味方か……」

「お前の敵だ」「ハスラー。敵の敵というには早計だ」


 膨大な魔力を放ちながら、ウトトが二人の魔法少女の前に降下する。

「教えてやったんだ。相応の対価は」

 ウトトが口を開く。喉が光る。

「ひえっ」「まずいな」


 ウトトの口から高温高圧状態の可燃ガスが噴き出した。住民たちが避難を指示され、放棄された車が吹き飛び、舗装された地面がカタカタと震え動く。


 ウトトの口から光線が放たれ、ガスに着火して火焔を伴い、道の真ん中を切り裂く。


 二人の魔法少女は派手に吹っ飛ばされ、真ん中が溶断されたビルに仲良く叩きつけられる。そして崩れ去るビルだったものに巻き込まれた。


「冗談じゃない……」

 ハスラーの周囲を人型機動兵器の胸部が包み、衝撃と瓦礫から防護する。そしてそのまま胸部のロケットを点火し、ウトトを無視して街のビルの中に突っ込んだ。


「こんなところでの戦闘は無駄なだけだ」


 ハスラーは姿を眩ました。


 ウトトが瓦礫の中から変身が解けて息も絶え絶えのドグマを掬い上げる。


「どこにやったの!…攫った人達を!」

「わからない…私にはもう…それを知る権限が…」

「…」


 

 ビルからビルへ窓を通り抜けて進んでいたホッパーが、逃走中のハスラーと出くわす。窓ガラスのないコンクリートの部屋の中で。

「お前はっ!」

「ドグマの残した負の遺産、実験体のことは知っているなお前は」

「ああ…」

「あれは、誰も管理に名乗り出なければ始末される」

「それが俺になんの…」

「助けてやりたいなら黙ってこちらについてくることだな」

「わかった」

 ホッパーは俯いてハスラーに手を伸ばした。



 異世界に閉じ込められた三名の魔法少女は、メイキング・ギーグに文字通りもてなされていた。

 コーラと、ポップコーンと、大スクリーンの映画館。

「バルジ大作戦あるの!?」

「そうだ勿論。二人の水兵と一人の将軍もあるぞ? 数あるキートンの名作の一つだ。最も、日本のアニメ・ファンにはサントラの方が人気かもしれんが」

 ギーグがDVDやらCDを次々に取り出す。

「見たい見たい!」

 テンライが目を輝かせる。

「マジかよファルコン。ずっと探してたよなこれ」「ああ、イタリアにしか売ってないと思ってた」


 はしゃぐ二人と二匹にプファイルは呆れる。

「ギーグさん? 僕らは敵対勢力のはずでは?」

 ギーグは少し苦い表情をして手に持っていたコレクションを置く。

「そうだな、だがなあ。私は彼らの掲げる人類削減に賛同している訳じゃない。ただ、兵器の設計やらを個人で楽しんでいたらスカウトされて……」

「設計した兵器は?」

「途中まで作ってやったが、ビギニングが管理している。大体、動力源の開発がまだなのにかっさらわれた未完成品だ。脅威ではない」

「……なぜ僕らにそんな情報を?」

「私はインダストリアルデザイナーだ。使う人間がいなくちゃあな」

「元の世界への帰り方ってわかるか?」

「わかる。帰る前にこれをやろう」

 ギーグが手渡したのは黒いUSBメモリだ。

「ここに、我々によって捕らえられた者の位置データが入っている。役立ててくれよ。君らみたいな奴が来るときのために取ってあったんだ」

「ありがとう」

 プファイルはそのUSBを受け取った。

「脱出方法は?」

「魔法の使いようだよ。自分の魔力を針のようにして世界の裏側へと差し込むような感覚って私達の間じゃ言われてる」

「なにから何まで、ありがとう」

「なに、こっちだって少しくらい代金はとるさ。実験に付き合ってもらおう」

「わかった。それくらいなら」



 ダイビング、ディバイング、ターニング。という三者のプログレッシブナンバー持ちがキリング・ドグマの後任を選ぶべく白い平野に部下達と共に集まっていた。

「魔法の研究分野は、今後メイキングが行うそうだ。そこでドグマの行っていた捕縛人員の管理を行うものを選ぶと」

 ターニングが生真面目にビギニングによって下された指示を伝える。

「なるほどな、俺のところからはハートを推そう。こいつはそういうのに向いている」

 ディバイングが彼女の横で表情をこわばらせていたハートの背を押した。

 ダイビングが隣に居たドミナの背を無言で押す。

「私はハスラーから、一人候補を貰って来た。部下を減らしたくないからな」

 ターニングの後ろからホッパーが現れた。


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