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18/30

レッドオーシャン

 イタリア、サルデーニャ島にある小屋と呼ぶには少々上出来な建物の中で三人の魔法少女と三匹の魔獣がピッツァを食べていた。


 ナギが、ナイフで自身の手元のピッツァを八等分に切り、引っ張ってチーズを伸ばしながら口に運ぶ。


「私、ウインナーとかの入ったピザが好きなんだけど」


「これはピッツァだ、貴様の次の仕事は決まったな。カリフォルニア連邦地裁の爆撃だ。俺たちがモスクワの偵察をしている間にな」


「どうせ私にやらせるつもりだったろ」


「まあまあ、ガリバルディの仕事と交換するわけにもいかないんだし」


 ナイフとフォークで丁寧にピッツァを食べていたハートがナギを宥める。


「そうだな、俺とハートの仕事よりは楽だ」


 ガリバルディの言葉でハートは鳩が豆鉄砲を食らったような表情をした。


「あれ今回使うU-2って単座の偵察機じゃ」


 嫌な予感がハートにピッツァを早食いさせた。


「借りれたのは複座型だ」


 ガリバルディがハートの服の袖を引っ掴む。


「えっ」


「モスクワまでの旅行だ。あの近辺ではもう衛星もダメらしいからな」


「頑張ってー」


 ナギは引きづられていくハートに手を振った。




 都内某所、大きなボウリング場。士の投げた赤い球は真っ直ぐにころがり、場に残った四本のピンを纏めて倒した。

「すごい! もしかしてずっとやってた?」

 遊久音が目を輝かせた。

「小6の時にここの大会で準優勝したんだ」

 誇らしげな表情をする士の後ろから、日柚知が濡れた手をハンカチで拭いつつ歩いてきた。

「遊久音ちゃん、私達の助っ人ってまだ?」

「私達…助っ人…3対1で勝負してってことか? 良太郎がいるならまだしも…」


 遊久音が助っ人から届いたメールを見る。

「どうせ投げる時は1対1でしょ。…もうすぐ着くってさ」


 助っ人の少女が遊久音の肩を叩いた。長い蛍光イエローの髪をした背広姿の少女メファインはその場にそれなりに不釣り合いだった。


「ボウリングのルールは学んできました」


 メファインはボウリングの球を掴み、ピンの立て直されたレーンに投げた。


「穴に指を入れないと…」


 球は綺麗な直線を描いて完璧なストライクを決めた。


「すごい!、えっと…?」

「メファインです。以後お見知りおきを」

「そんなに改まらなくても」

 日柚知は思わぬ新たな友人に心を躍らせた。


 がしゃんと音がなり、立て直されたばかりの十本のピンが倒れた。


「僕に勝ったことがある奴はこの辺で良太郎だけだ」




 

 中国国内のあるマンションで、黒い長髪の白衣の女性がベッドに横たわっている。


 童話の赤ずきんのような格好の少年がそれを甲斐甲斐しく世話していた。


「俺はあんたのせいでもう一人が中にいるんだな? ドグマ」


 少年が女性に問う。


「そうだ。いずれ君の魂を追い出してしまうつもりだったが、わからないものだな。私を殺す命令を受けたアポリオンを君が押さえ込んでいる。なぜ、私を救ってくれる?」


 少年、良太郎は少し俯き口を開く。


「俺が信じていたものに裏切られて弱っている相手に留めを刺すような人間だったら、失望されるからだ。今のあんたは間違いなく助けられる側の人間だろ?」


「愛のためか。誰かからの」


 ドグマは本物の優しい笑顔を彼に向けた。


 ほんの一瞬ののち、強大な魔法の力の奔流が彼らのすぐそばに現れた。


「トリアマルガムが来る。三人の魔法少女を混ぜた奴だ。私の作った実験体の中では一番強い。仲良しの三人組だったから一人で連携してくるんだ」

 ただ純粋に自身と目の間の少年の命のためにドグマは真剣な表情で良太郎に忠告をする。


 良太郎はその言動への怒りに折れそうなほど歯を食いしばる。

「元はなんの罪のない人なんだろ?」


「……? だから?」

 ドグマは彼の言葉の意味を理解していなかった。


「ああ。もしかして、助けたいんだ。君は優しいね。でもね、助けるのは無理。魔法がまるで列車の連結みたいに固く結びついてるから。三人の魂と、組織の命令ががんじがらめになって…」

 ドグマは楽しそうに笑った。


「連結器をぶっ壊してやる!」

「あくまでも例えで…」


 良太郎は変身しながら窓を開け、マンションの下へと飛び降りた。


 多くの住宅の建ち並ぶ街が少し埃っぽくなっていた。真っ黒なドレスの魔法少女が電撃と炎、水流を無数にばら撒いて街を破壊しているのだ。


 宅地の破壊された壁の裏に隠れた二人の武装警察が、拳銃を魔法少女に向ける。


「54式が効くのか?」

「撃つしかあるまい。陸軍が来るまでの辛抱だ」


 二丁の54式拳銃から数発の7.62mm弾が黒い魔法少女に向けて放たれ、彼女の肌に当たって地面に転げ落ちた。


「逃げられないか?」

「まだ市民が残ってるぞ。軍が来るまで待つしかない」


 黒い魔法少女トリアマルガムは、二人の警官に向けて電撃の塊を貯め始めた。

「伏せろ!」


 電撃の塊が放たれ、地面を抉りながら進む。


「伏せたらダメだあれ、走れ走れ!」


 電撃は二人の警官を追い、地面から飛び出したバッタの魔獣に粉砕された。


 そこへ魔法少女が落下してきてバッタの魔獣と融合し、警官たちの背後を守るように腕組みをしながら立ちあがった。


 黒いインナーに銀のミニスカートと手袋とブーツ、そして緑のトップスと額に赤い宝石のついた魔法少女ホッパー。両脚にバッタの足のような装置が付いている。

「任せて! ……いや日本語通じないじゃん」


 トリアマルガムが口を開き、魔法少女ホッパーに向けて水流を放つ。


 彼女は両腕を伸ばしてそれを受け止めるような動作をしたのち、全身に水流を浴びた。


 そして水流に電撃が伝い、ホッパーの体を灼いた。


「うぐっ」


「安易に飛び出すから」

 

 戦闘を眺めていたドグマが変身し、トリアマルガムに向けてレーザーを放った。


 トリアマルガムはホッパーへの攻撃をやめ、無数の水泡を作り出して、自身に迫る魔法の光を偏向させて回避した。


「奴は三つの種類の攻撃を同時に行えるが、大雑把で隙が大きい。アポリオンならば見切れるはずだ。重装甲の相手用の武装もあるが使ってはこないだろう」


「「「ドグマ、ドグマ!」」」

 トリアマルガムは叫んだ。彼女の背後で一つにまとまった巨大な水泡に電気が流れ出す。それを聞いたホッパーは自身の横にいるドグマの背中を押した。

 水泡の中に少しずつ泡が溜まる。


「えっ、なんで」

 次の瞬間トリアマルガムが炎を放ち、それはたちまちドグマを包んだ。

 火焔のなかからなんとかドグマは抜け出すが、仮面は剥がれ、黒い服の所々が焦げて穴の空いた姿となっていた。

「私を囮に…?」

 再び火焔がドグマの体を包んだ。ホッパーはその隙に瓦礫の間を縫ってトリアマルガムに近づく。

 トリアマルガムの背後で飛び上がるホッパー。背に羽が輝き加速する。


 トリアマルガムの背に蹴りが直撃する寸前で、彼女の背後で電気を纏っていた水泡が、着火された。  

 水素と酸素でできた水泡のなかの空気の層がたちまち水へと戻り、注いだ電気の力を熱と光と衝撃にして打ち出す。

「なんだと?!」


 ホッパーの体は吹っ飛び、広い路上で自身の意志に関係なく跳ねて、そこらにあった乗用車のフロントガラスを砕き、天板をへこませて止まった。


「うぐぅ。なんてやつだ」

 防犯装置がぴよぴよと音を立てる中、履帯が地面を揺らし、戦車が現れる。路地から飛び出した99式戦車は旋回し、ホッパーの横を通る。

「ここまでに死傷者18名を目視で確認。......了解 通信によると、こちらで魔法少女が二人敵と交戦中」

「彼女はそのうちの一人か。了解、戦車前進!」


 ホッパーも立ち上がり、戦車との並走を始めた。

「見えてきたぞ。光学的に敵を補足!」


 服がところどころ石に変化しているトリアマルガムが、ぼろきれを纏うドグマの首を掴み、ゆっくりと締めあげていた。


「機関銃だ。80式で掴んでるほうだけを抜けるか?」「まるでマークスマンだな」


 一発だけ戦車が銃を撃つが、弾はトリアマルガムの体に傷一つ付けずに弾かれ、地面に落ちた。


「効いてないぞ、重機に変えろ」「それじゃ捕まってるほうも無事じゃ済まなそうですよ」「しかし80式の7mmじゃなんともない相手です」


(今の俺達なら何秒行ける?)

(持って10秒)


 ホッパーの黒いインナーに赤い光のラインが走り、額の宝石がまばゆく輝く。

「付き合ってくれよ! 10秒間だけな」

 彼女の背にバッタの翅が展開し、次の瞬間に周りの者の視界から消えた。


 赤い光が二人の魔法少女の周りを渦巻き、ほんの一瞬トリアマルガムに触れた。彼女の体はたちまち宙を舞い、地面を派手に転がった。彼女の手から離れたドグマは地面に崩れ落ちた。


「かなり厳しいな」

 ホッパーは動きを止めて元の姿に戻り、アスファルトに足跡を刻印しながら地面に崩れ落ちた。そして、地面に這いつくばっているドグマに手を差し伸べる。

「ぐるぐる回ってないで手早く……」

「勘が鈍ったんだ。誰かさんに監禁されてたから」


 99式戦車がトリアマルガムへ主砲を向ける。

「125mm砲を食らえ!」


「おい、あのままだと殺されちまうぞ! 止めなくていいのか?」

「やめるんだ……。意味のないことになる」


 戦車の滑空砲から安定翼の付いた弾丸が打ち出される。

「「「そんなもの!」」」

 トリアマルガムの体が胸から腹にかけて開き、どろどろとした粘性の物体がダバダバと音を立てて溢れる。その中から高速回転する金属の兵器が現れた。

 パンジャンドラムに金属たわしを混ぜて潤沢な予算をぶち込んだような見た目をしたそれは、パンジャンドラムのように回転しながら突き進む。

 弾丸にぶつかって地面に叩き落とし、地面を抉りながら戦車の前で跳ねあがり、砲身をへし折って天板をはがしながら進み、エンジンを叩き壊して道の先へと突き進んでいった。

「脱出しろ! 自動消火装置が作動してもこいつはもうただの粗大ゴミだ!」


「ほらね? あれを……ネオパンジャンドラムを打ち切ったなら恐らくもう君が倒せる」

「そのために俺を止めたのか……。どんな被害が出るかわからないんだぞあのさきで」

「確かに君ならあれの初動を止められたかもしれんが、彼女らを助けたかったんだろ? それに今は彼女らを何とかしてやるしかないぞ?」

「くっ」

 ホッパーは空中に飛びあがる。

(彼女らを一人に縛っているものが魔法でできているなら。魔法で壊せるはずだ……)


 ホッパーは翅を開いて空中で加速し、蹴りでトリアマルガムの胸を叩く。両脚の装置が作動し地面を蹴ったように再び飛びあがった。

(一度では足りない……)

 彼女は宙返りしてもう一度加速し、蹴りでトリアマルガムを吹き飛ばした。それは、放物線を描いて建物のコンクリートをぶち割る。

「やった、のか?」


 トリアマルガムがぶつかった建物魔力を纏った煙の中で、三人の少女が倒れているのがホッパーには見えた。やがて煙が晴れる。


「成功しただと……?」

 困惑するドグマを尻目に、ホッパーは少女達に駆け寄っていた。

「大丈夫ですか?」


「おい……あれ……」

「小銃を構えろ。何か分からん」


(まずいぞ……纏めて射殺はごめんだ)

 ドグマが両手を広げて脱出した中国軍兵士の元へ向かった。

「助けてくれ! テロ組織に襲われているんだ」

「見ればわかる……あの三人の子供は?」

「テロ組織に捕まってあの怪物を植えつけられた。いわば人間爆弾だ」

「何故そんなに詳しいんだ?」

「私は組織から逃げてきたんだ」

「……上に聞くしかあるまい。真実なら君らは国連に保護されるだろう.

ともかく今はあの金属の車輪が止まるまでどうしようもあるまい」


 ネオパンジャンドラムは、町中を破壊しながら疾走する。


 試験飛行中だった中国軍の戦闘機がそれを追って市内に降下する。

「こちら鶻鷹。市内で暴走する不明物体の破壊を行う」


 戦闘機がパンジャンドラムの後ろで高度を取って機銃を発射するが、効果はない。

「ミサイルの発射を許可する」

「了解」


 戦闘機の底が開き、内部からミサイルが放たれた。それはパンジャンドラムを追いかけて爆発し、それをスクラップにしてしまった。


 モスクワ上空

「ほんとにここまでU-2で来れるとはな」

「街の中に潜水艦が!」

「そんな馬鹿な話が……」


 モスクワの町中には巨大な潜水艦が落ちていた。

「何が起きているというんだ……?」

「迎撃機も来ない、対空ミサイルも。何があったらこうなるんだろう」

「超獣だ。超獣が北極海から潜水艦をぶん投げたんだ」

「そんなばかな…」



 

 メファインの放った球が真っ直ぐに転がって全てのピンを倒す。

「やったー!」

「やはり私の実力は素晴らしい」

「次は僕の番だな」

 士の球もまた、十本のピンを倒してストライクを決める。

「ふっ」

「二人ともすごい。ボウリングに引き分けってあるのかな」

 日柚知が手を叩いて二人のプレイを褒めていた。

「引き分けはありません。ただの人間の集中力は私より低い。私が勝ちます」

「年季が違う…!」


 ボウリング場の外で爆発音が鳴った。同時に、魔力の塊が現れる。

「勝負はうやむやになりそうですね」

「最後まで投げたかったなあ」


「でてこーい! 魔法少女!」

「いくよ。フンメル」

 士の手元に蜘蛛の魔獣フンメルが乗り、彼は魔法少女スパイダーに変身する。

「空母化改装だ」

 フンメルが二隻の空母のプラモデルを取り出し、スパイダーの体にそれらが分離しながらくっつく。

 黒いインナーに赤のミニスカートと手袋とブーツ、両肩から垂れるようにして付いた飛行甲板に、右手の手甲のようになった二隻分のバルバスバウ、そして緑のトップスと額に赤い宝石のついた魔法少女スパイダーとなった。

「行くぞ!」


「変身するよ。イリューシン!」

「マジック、オープン!」


 三人の魔法少女が人の逃げ惑う通りへ飛び出し、一人の少女と魔獣もそれに続いた、


 通りで暴れているのは、公立小学校の校舎くらいに巨大なサメとそれに乗った二人の魔法少女だった。一人はドミナ。


 もう一人は、青いドレスと背に付いたダイバーのようなボンベ、魚の鱗の意匠が入った銛をもつ二メートル半の長身という姿をしている魔法少女。その名前はダイビング・レッドオーシャンだった。


「スパイダーとメファインは私がやる。ピースを任せた」

「分かりました。レッドオーシャン様」


 二人の魔法少女は道路上の三人をめがけて跳んだ。

「変身!」

 

 ウトトが変身し、二人の魔法少女と入れ違いになってサメの鼻の頭にドロップキックを入れた。

「サメなら! 」

 ウトトはサメの背後に回って尾を掴む。そして、ハンマー投げのように回し始める。

「水辺に行けえ!」

 サメはぶん投げられ、荒川に落ちた。


「メファイン! 何を遊んでいるのだこんなところで!」

 ダイビングはリーチのある銛をブン回し、風圧と銛の威力でスパイダーとメファインを寄せ付けない。

 スパイダーは後ろへ飛びのき、車に体勢を固定して両腕を横に開き、甲板から戦闘機を大量に発艦させる。

 

「一つ遅いな!」

 戦闘機が攻撃するより先に、ダイビングは銛をメファインの肩に突き刺した。

「うぐっ」

 スパイダーが糸を伸ばし、メファインの胴に巻き付けて自身の方へ引っ張ぱる。ことで銛は抜け、メファインは勢いよく後ろへ飛んでスパイダーに受け止められた。

「逃げてばかりではなあ!」


 そう叫んだダイビングを戦闘機のミサイルと機銃が襲う。

「くそっ!」

 ダイビングは銛を振り回して自身の周りの戦闘機を破壊していく。

「「せーのっ」」 

 スパイダーとメファインが力を合わせてそんな彼女に乗用車を投げつけた。

「やわな日本車だ!」

 それをダイビングは銛を振り下ろして両断する。

「まだだ!」

 スパイダーが破壊された車の隙間に体を滑り入れ、右手で全力のパンチをダイビングのみぞおちにねじ込んだ。


 ダイビングは銛を振り上げてスパイダーのパンチを逸らし、体を屈めて背のボンベから強力な水流を打ち出し、スパイダーを派手に吹っ飛ばした。


「そういう用途かよ!」

スパイダーはメファインの横を通り抜けてその先の乗用車のフロントガラスを叩き割り、展開したエアバッグに受け止められた。

「マジック、メーサー!」


 メファインの目から光線が放たれ、ダイビングの手に弾かれて拡散し、地面を焼いた。

「圧倒的な力だ……」


 巨大サメが家屋を割り、ウトトに投げつける。しかし、ウトトはポンポンから鎖を伸ばし、それを包む。

「ベボル! 取り込める?」

「行けるさ!」

 ポンポンと家屋が姿を変え、巨大なフレイルとなる。

「マジカルハンマー!」


 伸縮自在なハンマー(自称)となったベボルはウトトの腕の力で回転し、サメを吹き飛ばし、レッドオーシャンも叩き飛ばした。


 レッドオーシャンは木造家屋を幾つか貫通し、動きを止めた。

「なるほど、分水嶺を越えた存在……。思っていたよりも強いがまあいい、今日はこれまでにしよう」


 レッドオーシャンとサメが魔法の波動と共に姿を消した。


「レッドオーシャン様!?」

「逃げたらしいね、どんまい」


 トカゲの魔獣に乗ってAK74を連射するドミナは、イリューシンに乗って高度を取ったピース(6)に弓を一方的に打ち下ろされる。


「ちょっちょっとまって、建設的な話し合いをっ」

 一方的にピースは弓を撃ち続ける。

「銃を捨てるから!」


 ドミナは銃を放り投げ、両手を上げる。ピース(6)は弓をイリューシンの背に置いた。

「どういう経緯で街を襲ってんの?」


「アタイがあの世界改革を唱える集団に属したのは今年の始め、双子の姉がいじめで引きこもったの。そんな時、アタイの前に数人の魔法少女が現れて……この子、魔獣を紹介されて……。いじめなんてのがあるのは世界のせいだって。アタイが戦わないと姉は……。だから逃げさせてください!」

 

 ピース(6)はすこし考え結論を弾きだす。

「……じゃ、私達がお姉さんを助けたら味方になってくれる?」

 

 ドミナは予想外の言葉にぽかんと口を開け、頭を抱えた。

「……」


「ほんとに、助けてくれるの……?」


「もちろん、そういうのが得意な人知ってるもん!」




 延々と起伏の富んだ白い大地と赤い空が続く中にある数両の車両、そして三人の少女と三匹の魔獣。


 そこへ、一人の少女が降り立った。存在しない学校のブレザー制服を着ている肩に少し届かないつややかな黒髪。

「どうも、お三方。メイキング・ギークです。よろしくね」


 三人の魔法少女はそれぞれ銃を構えた。




 サンクトペテルブルク上空

「ハート、異常はないか?」

「ないな……」

 あ。と言いかけたハートの目に、スクランブルする戦闘機が映った。それもSu-47ベルクート。


「第五世代機がスクランブル!」

「ヴァレリー、エンジン全開だ。逃げるぞ」




 ロシア北部、北極海付近に無数のロケット砲と榴弾砲、戦車など、特別軍事作戦に参加していない装備が次々と用意されていた。


 海上には、黒海艦隊を除く海軍戦力が6割ほど集結しており、その艦艇の数と多様さはさながらバルチック艦隊のようであった。


「こちらクニャージ・ポージャルスキー。敵超獣、我々には目もくれず陸上へと向かって行きます」

 原潜ポージャルスキーの前を超獣は通り、ポージャルスキーはゆっくりと回頭して超獣の背を狙い続ける。

 

 そして複数の艦艇のソナーマンが、超獣の浮上する音を同時に捉えた。

「超獣、浮上」


「全艦、および全火砲、撃ち方初め!」


 超獣が海上に姿を現す。体長は500mを超し、両足が異常発達した単弓類のような姿をしていたそれに、無数の砲弾やロケットが撃ち込まれる。


 少し遅れて巡航ミサイルや、艦砲、爆撃機から投下されたクラフター爆弾までもがそれに襲いかかった。


 超獣の表面は大小様々な爆発に包まれる。その超獣は歩みを止めず、悠々と上陸した。

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