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プログレッシブ・ナンバー

 ホワイトデー、太陽の下でチョコレートを士から受け取り、楽し気に公園を通る遊久音は自分と同じくらいの年の長い蛍光イエローの髪をした少女が自分と同じ学校の男の制服でブランコをゆっくりと漕いでいるのを見つけた。勿論、その近くに駐車していた黒の四輪自動車ビートルには気にも止めずに。

(珍しい髪の色、うちの学校にいたかな)

「ねえねえ、そこの美人さん。うちに来る転校生だったりする?」

 遊久音はそんなことを言いながら彼女の隣に座った。

「私に何の利がある?」

「もーつれないなー。明日先生に聞けばいいことだけどさ」

 そう言いながら遊久音は自身の乗るブランコの勢いを増やしていく。

「わざわざ聞くくらいなら教えよう」

 少女が地面を蹴った

「ありがとー」

「私は人付き合いが苦手なんだ。それで学校にも登校できていない」

「うちの学年に不登校はいないから……一年か三年生?」

「そうだが、余計な詮索はやめてくれませんか?」

「知らないと、仲良くなれないでしょ」

「仲良くなってなにか私に利益が?」

「友達がいると楽しいでしょ……?」

「そうか……そうか。ならば、友達になりましょう」

 少女が最大限まで上がったブランコから飛び出し、華麗に着地する。遊久音はそれを真似して飛び出し、地面に転がった。

「はやいね。いいよ。私は遊久音、あなたは?」

 遊久音は節々を痛くしながら、地面に手をついて起き上がろうとする。そこへ少女が手を伸ばした。

「人工魔法少女第一号、メファインです」

「魔法少女? 私もだよ」

「それは……珍しいこともあるようですね」

 もう一人、特徴的な少女が二人の元へ歩いてくる。槍と斧の合体したような武器ハルバードを担ぎ、それさえなければ黒と青の目をした白衣の天使であった。

「噂をすればさらに魔法少女が一人やってきたようです」

 メファインは、彼女の方を向く。遊久音も釣られてそちらを向いた。

「失礼だけど呪法少女じゃないの?」

「ほんとに失礼だなお前! ま、正解だ。アタイは呪法少女ドミナ。してメファイン、そいつとはどんな関係だ?」

「友達です」

 メファインは即答し、遊久音の口角が少し上がる。ドミナは苦笑した。

「魔法少女と……? お前は呪法少女のものだろう」

「魔法少女と呪法少女の源は同じですよ」

「だったら人は争わないはずだ。どっちみち、お友達は始末させてもらう!」

 ドミナは無防備な遊久音に向けて持っていたハルバードを投げた。

「ネゴシエーションは終わりですね」

 メファインはハルバードの穂先を掴んで止め、握りつぶした。

「メファインちゃん、ありがとう」

 遊久音が魔法少女ピース(6)に変身した。どこからともなくイリューシンが飛んできて彼女の背に取りつく。

「マジック、オープン!」

 メファインがそう叫ぶと、彼女の体が変貌を始める。服を引き裂きながら黒い金属質な表皮が体を覆う。両腕の前腕部が背丈ほどに大きくなり、両肩を繋ぐように体に垂直な円形のレールが生まれてそれらを支える。胸は大きく膨れ上がり、黄色の淡い光に金属の蓋がされ……。頭だけが少女の姿を残しながら人型の機械のようになってしまった。


 黄色い蛍光色の長髪はそのままに、顔に涙の跡のような銀色の線が入り、黒い金属質の胴体に無数の蓋がついている、地面と水平に両肩を繋いだ環のようなレールに、さらに無数のレールが連なって巨大な腕と胴体を繋いでいる。両脚は地面に向けてつつじの花のように太くなった黒い金属に覆われていた。

「ねえ、大丈夫?」

「なにがでしょうか」

「いや……」


「こっちを無視しているか!」

 ドミナがバズーカを取り出して二人に向ける。

「マジック、メーサー!」

 メファインの両目から光が放たれ、ドミナを吹っ飛ばした。ように彼女らには見えた。


 二人の背後のブランコの上にドミナが立ち、トカゲの口のような見た目の四連ロケットランチャーを構える。


 発射のスイッチを押した。

 

 二人は発射の音に反応して振り向く間もなく飛び上がった。一人は背に生えた翼で、一人は両腕のロケットで。


「魔法の反応が来る?」


 メファインの呟きの通りに、魔法の力が彼女らの肌をピリピリと襲う。空間を貫いて呪法少女ガリバルディが現れた。


「げ」「あれは」「あいつは!」


 三者三様の反応を見せる中、空間に開いた穴はすぐさま塞がりガリバルディのみが残される。


「ドミナ! 貴様に先制攻撃の権利は与えられていない。帰れ」


「で、でも」


「黙れ! 命令違反の交戦は最大で死刑が下されるぞ」


「はい…」


 ピース(6)は無言で弓を構える。そして、青い光の矢がガリバルディに向けて放たれた。


「邪魔だ!」

 ガリバルディが前髪を手で持ち上げると、彼女の額が強力な光線を放つ。もちろんそれはピース(6)に指向されていた。

「あっ」

 魔法少女ピース(6)とメファインは消し飛び、ただの少女遊久音とメファインの体が重力によって地面に叩きつけられた。ガリバルディは彼女の方へと歩き出す。

 メファインは完全に沈黙する一方、遊久音は足の震えを掴んで止め、立ち上がる。

「交戦の意志ありか」

「……助けて、日柚知ちゃん!」

 遊久音は全力で叫んだ。




 巨大な少女の足がガリバルディを蹴とばす。周囲の建物よりも背の高い魔法少女が彼女らの元へとやってきた。

「ガリバルディも二階級特進か、よかったよ」

 ドグマは息を潜めながらメファインを抱え、トカゲの魔獣に乗ってその場から逃げ出した。

「日柚知ちゃん…」

 魔法少女ウトトがそっと自身の口に一指し指をあてる。

「今は、ウトトだよ」


「ヴァレリー、妙高の用意は出来ているな!」

 ガリバルディの吹っ飛んだ先で建物をなぎ倒しながら旧日本海軍の重巡洋艦妙高が現れ、大量にある砲門を彼女の方へと向け、砲弾を発射する。


 自身の放つ咆哮のような爆音より早く飛ぶ砲弾がウトトに命中し、彼女は地面に向けてよろける。そして、足を踏みしばって体が倒れるのを耐えた。

「ベボル!」

 ウトトは空中に現れたポンポンを掴み、妙高の方を向いて泳ぐように地面に飛び込んだ。海蛇が獲物を狙って泳ぐように彼女は地面を突き進む。

「ヴァレリー、再装填だ。攻撃のために上がってきたところを叩く」


 ウトトは妙高すれすれに跳びあがり、ガリバルディのいる艦橋を両足で目いっぱい蹴りつけた。艦橋がひしゃげ、中のガリバルディがガラスと鉄の破片を浴びる。

「撃て!」


 妙高の砲弾が再び放たれ、ウトトに命中して彼女を地面へと叩き落とす。地面が跳ねるように揺れた。

「負けるか!」


 ウトトは地面に背中をつけたまま妙高に向けてポンポンを持った両手を突き出した。

「クラッシュ光線!」

「ヴァレリー、変形だ」


 ウトトのポンポンから飛び出した閃光を受け止めるように妙高の装甲が中心へと移動していくが…。

「押されるか…」

「ガリバルディ、対ショック防御」


 妙高は閃光によって空高く吹っ飛んだ。

「変形して着地だ!」

「もうやってる」

 空中の妙高の甲板が開き、腕や足が展開されて標準的な縦長の艦橋を顔とした150mほどの巨大なロボットに変形する。

「まだまだ!」

 ウトトが両手を広げて体をピンと伸ばし、魔法のバリアを貼りながら空へと飛び出した。

「飛べるとはな……」

「ガリバルディ、防御しろ!」

「分かっている」


 ふたつの巨人が空を包むほどの光りと共にぶつかり、高速で飛んで行く。あっという間に横浜の海岸まで両者はやってきて落下した。


「ブラボー発進します」


 着水した両者と、妙高の背後に現れた人型兵器ブラボー。世界に幾つか存在した人型兵器の技術が国連によって統合された存在だ。

 金属質な装甲を鳴らし、人類の文明を叫ぶように融合炉がうなるブラボーはゆっくりと妙高との距離を詰め、、殴りつけた。

「やるか……」

 ブラボーの方を振り向いた妙高の背に、ウトトがチョップを入れる。

「なにっ」

 妙高の頭だけがウトトの方を向き、ガラス窓から呪法のレーザーを放つ。

「わーっ!」

 ウトトが口からレーザーを放ってそれを相殺し、妙高の艦橋を焼く。

 

「腕部ロケット点火」「ポンポンコレダー!」


 ガリバルディ達を挟んだ二者が攻撃の構えを取る。次の瞬間、妙高に向けてロケットによって加速したブラボーの拳が放たれ、巨人が膝をついた。

 ウトトがポンポンを握った右手で妙高の艦橋に電撃を纏ったアッパーカットをぶち込んだ。

 妙高の艦橋は完全に破壊され、中からロケットに乗ったガリバルディが飛び出した。それをスクランブルした三機の戦闘機が追う。

「あれも……魔法少女なんだ」

 ガリバルディのロケットと三機の戦闘機が光と共に消えていった。

「魔法少女も呪法少女を追っかけられるようになったんだ……」


 非常に的外れな言葉であった。


「ファルコン、これは!?」

「わからん、プファイル、テンライ。お互いの信号を見失うな」

「「了解」」


 ロケットと戦闘機は、紅い空と白い起伏に富んだ大地の世界へと現れた。

「ご苦労なことだ!」

 大地の影から無数のミサイルが戦闘機に向けて飛んで行く。十数発のそれは有線で繋がっていた。

 魔法の混じったフレアとチャフをばら撒いて回避行動をとる戦闘機たちへとミサイルは襲い掛かった。

「なんだ!?」

 火を吹きながら三機が落下していった。

「10式を出せ」「エイブラムスだ」「レオパルド2」

 

 三機は落下の途中で戦車に変身し、華麗に着地した。


「10式の後ろについてスリップストリームで加速しろ。ミサイル発射予測点をAとする。地図上丘の上に出ないように注意しながらAから逆の方向へ脱出する」

「「了解」」


「ゆきーのしんぐんこおりを踏んで…」

「「やめろ!」」


 

「もおお、なんで好都合よく魔法少女が!」

 逃走するドミナを、たまたま近くに居たスパイダーが走って追う。

「逃がすか!」


 やがてドミナは袋小路へと追い詰められた。彼女はコンクリートの壁と魔法少女に挟まれたという状況に直面する。

「抱えているその子を放してもらおう」

「そういわれて放す奴があるものか!」

 彼女は拳銃を取り出し、メファインの両足を撃ちぬいて地面に放る。

「お前っ」

「ふふ、これで両手は自由だ!」

 ドミナは両手にMP5を持って目の前のスパイダーに向ける。そして引き金を引いた。

「なんてものを!」

 スパイダーは小さく跳び、両手足と背中から伸びた手の間に三次元的な蜘蛛糸の盾を作り出して、その中で大量の弾丸を受け止め吹っ飛んだ。

 

 地面に背中をこすって着地し、ゆっくりと起き上がる。

「くそっ」

 ドミナがそういいながら両手の短機関銃を捨て、よく見るロケットランチャーであるRPG7を取り出した。

「遅い!」

 スパイダーのブーツとコルセットが赤くなり、背の足が八本全て展開される。そして、あっという間にドミナに迫って彼女を上空に打ち上げた。

「おわーっ!?」


 宙に浮いたドミナにスパイダーはオーバーヘッドキックを決めた。彼女は派手に吹っ飛び、先ほど直面していたコンクリートの壁を貫き変身が解け、私有地を転がって道路寸前の所でガードレールに叩きつけられて止まった。


 制服姿の彼女が逆さになって泡を吹いている。小さな蜥蜴が彼女の胸元に隠れた。スパイダーは彼女の方を向いて着地した。


「あれ南高の制服だ……。やだなあ、なフンメル」

 魔獣からの返答はない。彼の背でフンメルは石になっていた。

「あなたの魔獣はフンメルって言うのね」

 彼の後ろにいたのはペスト医師のような恰好をした呪法少女キリング・ドグマだった。

「私はキリング・ドグマ。よろしくね」

「ガリバルディと同じプログレッシブ・ナンバー持ちって奴か……」

 魔法のステッキをスパイダーは構える。それから光が伸びて剣のようになった。しかしそれの輝きはたちまちに失われて石の塊と化す。

「くそっ」

 ドグマの外套がスパイダーに向けて開き、チカッと光線を放った。スパイダーが咄嗟に張った蜘蛛の巣を溶かし、地面のアスファルトがチリチリと灼ける。

「ぐっ」

 ドグマが落下しながらスパイダーを押し倒し彼の頭を外套の中に捕まえる。


 外套の中から何度も何度も光が漏れる。チカ、チカ、チカ。そしてスパイダーの体が僅かに痙攣して、ただの人に戻った。

「じゃあね」

 

 ドグマの外套を青い光の矢が貫いた。

「へえ?」

 背後に翼を生やしたピース(6)が弓を構えて飛んでいる。

「あなたの相手はこっち!」

 ドグマの外套の中から人とは思えない体毛を持った獣に近い大きな手足が伸びる。ピース(6)が距離を取ろうと高度を上げるもドグマは建物の側面を駆け、ピースを地面に叩きつけ、変身を解除させた。


「こんなもんか~野良の魔法少女は」

 ピースに向けてドグマが獣のような腕を振り上げる。その腕を、ローター音を聞いた彼女は振り下ろさなかった。


「アパッチってやつね、面倒な」

 自衛隊の運用している戦闘ヘリAH-64D通称アパッチ・ロングボウ。30mm機関砲と数種類のミサイルを運用可能な地上の全ての天敵だ。それが彼女の眼前に構えていた。


「ロケット弾の使用許可は出ていない」

「了解。機関砲での攻撃を開始する」

 アパッチの下の機関砲がパパパパパと音を立てる。

「腕にだいぶ自信があるみたい……」

 ドグマが両腕とそれに張ったバリアで防御した。そこへ30mmの弾丸が次々と命中する。それらはドグマの防御を貫く様子はない。

「毎分600発の機関砲だぞ……」「砲撃可能地点まで目標を誘導する」

 アパッチは機関砲を撃ちながら建物の陰に隠れた。

「待てよ!」

 アパッチをドグマが走って追い、しばしの鬼ごっこによって土手に出た。対岸では大量の戦車が主砲を構えている。


「げえーっ!? だがまだ!」

 ドグマは砲撃の中建物を足場にしてアパッチに飛び移った。


「撃てないだろう!」

 そう叫ぶドグマは重心の変化によってよたよたと揺れるヘリの横を抜けて尾翼に移動した。

「ここなら機内からも撃てないねえ」

 

 

 ドグマは突如として飛来したウトトにからだを掴まれ、アパッチから引きはがされた。


「あっ……えっとお、話し合いって大事じゃないですかぁ」


「ちゃー」

 ウトトが投げの構えにはいる。


「しゅー」

「ちょっとに逃げるだけだから手を放してくれませんかね」


「めん!」

「おわーっ」

 ドーン。と音速を超える音と共にドグマは投げられた。





 彼女はロシアの領海まで投げ飛ばされることになる。これによって日本国はそれなりの迷惑を被ることになった。

「今回ロシア領海に着弾した飛行物体は国内での戦闘によって生じたいわば流れ弾であり、ロシアに対する攻撃ではありません」


 日柚知はそれなりにお叱りを受けた。

「これからは東に投げるように」

「はい……」

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