表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/30

呪法少女

 ベネズエラ・ガイアナ間の対立は英国と呪法少女の介入を許し、激化した。

 朝日の昇る海上で、海戦は始まりつつある。

「我々にも名は必要だ。政治家どもに勝手な名を付けさせる訳にはいかん」

「それは私も賛成です。WP(ダブルピー)なんてどうでしょう」

「取り敢えず、それでいいか」

 呪法少女組織WPの保有する戦艦ポンメルンの艦橋で二人の呪法少女がそう話していた。甲板上のアポリオンは不機嫌そうに彼女らを眺める。

「お前もプログレッシブナンバーを手に入れれば好き勝手出来るさ」

 ガリバルディは彼女にそう言って甲板上に飛び降りた。

「なら、この戦艦を私に頂戴」

「いいだろう」

 戦艦ポンメルンをたちまちバッタが覆い尽くす。


「我々には隔絶した戦力差がある。我々が持つのはこの戦艦ポンメルンとベネズエラ軍のルポ級フリゲート三隻……航空機はF-16十機……以上。そしてこの海域の奴らの戦力は、戦艦ティルピッツ、空母アーク・ロイヤル、D級駆逐艦二隻、フリゲート六隻、航空支援たくさん。しかもアーク・ロイヤルには恐らく魔法少女が二人乗っている。俺が空はやる。お前はベネズエラ海軍の指揮下に入れ」

「そこで立ってるターニング・ハンドはなにするの?」

「俺達が負けた時のためのバックアップだ」


 艦隊同士の距離が180kmに達する。両者のミサイルが届く距離だ。そして、空戦は既に行われている。

 ベネズエラ軍のF-16はイギリス軍が投入した倍以上の数のタイフーンを相手にしてあっという間に全滅させられてしまった。

「さて、行くか」

 ガリバルディの体のまわりに超ジュラルミンの装甲とその他の無数の金属でできた機銃や魚雷、エンジンが組み合わされ、数匹のバッタと巻き込みながら旧日本軍の超巨大重爆撃機富嶽を形造る。

 それは、あり得ないような初速とともに飛び立った。さらにすぐにその空域から姿を消す。

「魔法の力を感じる……。 僕が出るから友軍機は撤退させて」

 短い金髪で、鉄十字の入った軍服を着た少女が帽子を放り投げ、空母アークロイヤル上に乗っているドイツの第四世代戦闘機Me 2500に乗り込んで飛び出した。

 彼女は、魔法少女プファイルだ。その相棒シュペツシュデルンはMe 2500を取り込んでいた。

 二つの尾翼に鉄十字の入った灰色の戦闘機はたちまち友軍のタイフーンの編隊に追いつく。それと同時に周囲に魔法の力の振動が走った。

「なんだ?」

 空間を割り、富獄が編隊の真上に現れた。

「敵機直上!」

 富嶽は編隊の真中へと急降下する。

「骨董品でなにができるか!」

 機銃やミサイルが大量に富嶽に打ち込まれるが、びくともしない。富嶽の銃座から、銃の代わりに無数のワイヤーかケーブルのような金属の紐が無数に伸びる。

「なんだあれは……」「こっちを狙って来るぞ!」「躱せ!」

 ケーブルに追われて戦闘機たちが富嶽から離れる。しかし、ケーブルはミサイル以上の追尾性能を見せ、四機の戦闘機を貫いた。

「こうなったら、ミサイルの一発でも……」

 その中の一機のパイロットがミサイルを発射させようとするが、その手は途中で止まることになる。

「悪いが、俺がほしいのは機体だけだ」

 ケーブルに捕まった戦闘機の緊急脱出システムが次々に作動し、パイロットが機の外へ投げ出される。

「まさか! 最新のジェットエンジンを獲得したというのか!」

 富嶽は戦闘機と一体化し、近代的なジェットの爆撃機の姿になって急降下する。四機分のパワーに追いつける者はいなかった。

「全艦最大戦速!」

 加速する英国の艦隊の側面から富嶽が突っ込み、無数の魚雷を投下する。

「デコイ発射!」

 魚雷は無誘導だった。そしてそれらは艦隊へと向かう。

「面舵一杯! 振り切れ!」

 魚雷は、正確には水中ロケットは次々と艦隊に襲い掛かる。駆逐艦ドラゴンの右舷に大きな水柱が上がり、続いて戦艦ティルピッツの右舷に五本の水柱が上がる。

「総員離艦!」

 右に大きく傾いたドラゴンから次々と乗組員が海上に飛び込む。

「なんて奴だ……。こちらティルピッツ、操舵不能、繰り返す、操舵不能」

 搭載する魚雷を打ち切った富嶽が艦隊の元へ戻ってくる。残った駆逐艦ディフェンダーから放たれたミサイルは無力にもバリアに爆砕される。

「奴めまだ武装を……いやまさか……カミカゼ? 全員艦橋から退避しろ!」

 富嶽は、ディフェンダーの艦橋に衝突する。ディフェンダーは性能の限界を超えて傾き、そのまま横倒しになる。

「くそっ。なんて奴だ!」

 Me 2500の中で叫びがこだまするうちに彼らに富嶽が突っ込む。それらはたちまち音速を突破し、大西洋横断を始めた。

(速度計が、二回りした……?)

「こいつの機体……Me 2500ジャーマンレックスか。魔法少女の乗ったところでターキーと変わらん性能のようだな」 

「抜け出せない、断熱圧縮で消し飛んでしまう!」

 富嶽がさらに加速し、Me 2500の速度計の針が二回りして吹っ飛んだ。

「こいつのやっていたように魔法のバリアを出せば……それでも一時間も持たない」


 彼らの存在を感知した各国の迎撃機が次々とスクランブルしていくが、飛び上がった頃にはすでに飛び去っている。

「アイアンドーム各基、目標をロスト」「Mig-25各機追いつけません」「トーネード全機帰還します」


 香港上空。

「不明飛翔体急降下! 対空砲、対空ミサイル発射準備!」

 富嶽が速度と高度を落とし、地上、海上、空中からの対空砲火を受けながらテーマパークの上を通り抜け、ビルの穴を突っ切って香港を去る。

「あれは空警2000、レドームを貰って行こう」 

 背面に円盤のついた解放軍空軍の飛行機のすぐ上を富嶽が通り、すれ違いざまに円盤を奪っていく。彼らの行く先は日本だ。


 無数の対空ミサイルと対空砲を受け続けながら、富嶽は高度を落としていく。夕日の沈みつつある日の本の国へと突っ込んでいった。

「飛翔体、千住新橋付近に落下します!」

「ゆくっち。伏せて」

 マジカルウトトが、河川敷に再び現れる。身長は約60m、赤いサイドテールに赤と銀のノースリーブのトップスと膝上数メートルのスカート、そこらの建物に遥かに勝る巨体だ。それが、自らに突っ込んでくる富嶽を両手で受け止めた。

「シュぺツシュテルン! 復帰は!」「駄目だ落ちる!」

 Me 2500が富嶽から離れ、空力に問題のある体勢で落下していく。

「行くよ、イリューシン」

 魔法少女ピース(14)がフクロウの魔獣イリューシンに乗って飛びあがる。そして、コックピットからでたプファイルの手を掴む。

「たえて……イリューシン」

「すまない……日本の魔法少女よ」

 シュペツシュテルンがくらげの姿に変化し、重量のなくなったプファイルとその相棒はイリューシンの上へよじ登った。

「逃げるよ!」

 イリューシンが空を駆け、近くの小学校の校庭に降り立つ。

「砲撃支援を行う!」

 富嶽は強力な魔法のバリアと、取り込んだ無数の機械の金属で巨大な人型の怪物となり、ウトトに対峙する。

「力を増しているようだな! それが全てでないと教えてやる」

「ベボル、行くよ」

 ウトトの手にはベボルが変化したブロードソードなどと呼ばれる幅広の両手両刃の剣が握られている。ガリバルディの生み出した巨神の手は、チェーンソーのようなものと一体化していた。

「あれは、マジカルウトト?」

「そうだよ」

「なるほど、まさかお目にかかれるとは」

 シュペツシュテルンが列車砲に変身し、砲口はガリバルディの巨神の方へ向く。

「僕たちは援護に徹するべきだな」

「でーい!」 

 ウトトが巨神に蹴りを入れ、千住新橋の上へ巨神を倒す。ぺきぺきと電灯や柵が割れる。

「5、4、3、弾着、今!」

 自衛隊の榴弾砲が巨神に着弾し、爆発する。炸裂音が鳴り響く中、ウトトが突き刺そうとした剣を爆炎の中から出てきた光の球が弾く。「155mm榴弾砲、全弾命中!」」

(力を増しているな、だが!)

 巨神が立ち上がり、剣を弾かれて体勢を崩したウトトのみぞおちに左ストレートを打ち込む。それは、彼女の胸に貫通したような衝撃を与え、ウトトは吹っ飛ばされて日光街道を背で滑る。

「結局の所、戦をわからん子供にすぎん」

 巨神に向けて80cm列車砲が放たれ、巨神はその衝撃で荒川に横倒しになって落ちる。

「僕を忘れられちゃあこまるなあ!」

 その言葉からすぐに、上空の自衛隊のF-2から投下された500ポンド爆弾が巨神に命中する。煙と爆炎が周囲を包み込んだ。

「やったか?」「ねえ、マジカルプファイル。それフラグ……」

 轟音と共に千住新橋が吹っ飛び、二人の魔法少女の居る学校の校庭へと落ちる。

「ほらほらやっぱりやばいやばい」

「しまえシュペツシュテルン! 悪いがまた乗せてくれ、マジカル……」

「ピース!」

 イリューシンが二人と一匹を乗せて、周囲に建材をまき散らしながら倒れる千住新橋から飛び去る。

「ピースか、何人目?」

「14……」

 ウトトと巨神が立ち上がる、ウトトの剣はポンポンに変化し、巨神の胸に逆三角形のマークが浮かび上がる。両者は日光街道の上に立って無言で見つめ合う。

「ポンポンレーザー!」「怪光線!」二人の叫び声が響く。

 ウトトが前に突き出したポンポンから白い光線が放たれ、巨神の胸のマークからは赤い光線が放たれる。それらは空中でぶつかり、無数の火花を散らす。

「勝てる……」

 白い光線が勢いを増し、赤い光線を押していく。やがてそれは巨神に命中し、巨人を千住新橋のあった所へ吹き飛ばした。

「とどめを刺そう、ウトト」 

 ベボルの言葉の通りに、正面からの光弾に注意して顔の前にポンポンを構えながらウトトが前に進む。

(だから子供だというのだ)

 巨神がするりとウトトの横にある巨大な総合学習施設の基部を呪法の中に取り込んだことに気づくものはなかった。

(反撃は……ない!)

 巨神への一歩を踏み出そうとしたウトトの横で、総合学習施設の建物の基部が爆発を起こし、彼女の元へと建物が倒れる。彼女達は、その下敷きとなった。

 動けなくなった彼女の元へ、悠々と立ち上がった巨神が迫る。

「邪魔だな」

 巨神はイリューシンを叩き落とそうと胸からレーザーを出し、それをめちゃくちゃに屈折させて無数の光に分け、周囲にばら撒く。それらは、周囲の物を熱して溶かしながらフクロウの魔獣イリューシンを追い回す。

「シュペツシュテルン!」

 くらげの姿の魔獣が周りの物を覆い、姿を変える。翼を生やし、エンジンを生やし、戦闘機Me 2500の姿になって亜音速に加速し、レーザーを躱し始めた。

「96式誘導弾弾着まで12、11、10……」

 ミサイルが空を切り、巨神に迫る。

「熱源! ミサイルか!」

 レーザーが向きを変え、空へとばら撒かれる。巨神の頭上に解放軍機から奪い取った円盤が現れる。それに呼応してレーザーが統制の取れた動きを始めた。

 96式誘導弾、要するにミサイルが次々とレーザーに追われ、撃墜されていく。そして、レーザーは空中の戦闘機に再び向けられた。

「何かに掴まってろ!」

 Me 2500は正面に迫るレーザーを機首上げと反時計回りの回転で回避し、空対空ミサイルを正面に放つ。

「熱源が増えた。Gのかかっていない奴から落とす!」

 Me 2500は地面に対してほぼ180°の機首上げを行う一方、ミサイルは直進していく。それを無数のレーザーが追い、粉々に爆裂霧散させる。

「しまった、あの無茶苦茶なマニューバーが戦闘機か!」

 Me 2500は縦に回転し、真下を向いた状態でドイツの対超獣用新型爆弾GB-1900を巨神に向けて投下した。Me 2500はすぐさま機首を上げ、爆弾は巨神に迫る。

「自由落下は追えない、躱させて貰おう」

「させるかあ!」

 瓦礫の中からウトトが無理やりに脱出し、駆けだそうとした巨神の体を光線を巻き付けて捉える。巨神の首筋を風を切って落ちてきたGB-1900が貫く。

「バンカーバスターとはな」

 GB-1900は巨神の体内で炸裂した。巨神の体内にあった航空燃料やジュラルミンが吹き飛び、周囲を吹き飛ばす。ウトトもまた吹っ飛び、歩道橋やバス停をへし折って地面に倒れ、変身が解けた。

「ナギ、上の奴らをしばらく黙らせろ。そうしたらおもちゃをくれてやる」

 ガリバルディに変身していた人間。彼女は深緑のツインテールに黒の革ジャン、ズボンで赤い目をぎらつかせ、気絶したベボルを抱えながら腰が抜けて地を這う日柚知の元へ歩き出した。


「助けに行こう、プファイル」

「僕もそうしたい所なんだけど……ここへ呪法の反応が無数に迫っている。僕は自衛隊機と合流してそれの対処に当たるから、君たちは彼女を助けてやってくれ」

 Me 2500が減速し、キャノピーが開いてピースとイリューシンが放り出される。ピースはすぐにイリューシンと空中で合流し、女性の足元に向けて光の弓をつがえる。

「遅いな。友達を助けてやるには」

 女性が内ポケットからルガーP1900を取り出す。グリップの上についた丸い部品を引くと、尺取り虫のように細長い部品が引き出される。

「いっ、いやったすけて……」

彼女は丸い部品……トグルから手を放し、銃口を後ずさりする日柚知に向けた。スパンと小気味の良い音と共に部品の形が元に戻る。

「さらばだ」

 女性が引き金を引き、放たれた弾丸は日柚知の頭に命中する。日柚知は頭から血を噴き出しながら力なく地面に倒れた。

「…… 許さない。許すものか」

 ピースは、つがえた矢を二発目を撃とうとしている女性に向けて放った。それは彼女に命中するよりも先に、別世界から現れた呪法少女ハートに掴まれ、僅かに残った運動エネルギーで細長い重心を貫いた。

「16式が来る。俺に攻撃しなかったあたり、そこらの怪獣用の演習弾だが、それでも生身で当たれば死ぬ。撤退だな」

 二人はすぐさままばゆい光と共にこの世界から姿を消した。

「ひゆひゆ!」

 イリューシンから飛び降りたピースが日柚知の元へ駆け寄り、彼女の胸に手を当てた。

「どうしよう……息してない」

 ピースの顔から血の気が引く。

「私は、魔法少女なんだ。だからっきっと、治って……。治って……」

 彼女は泣きながら日柚知の亡骸を抱きしめた。僅かな魔法の光が彼女らを包む。


 戦艦ポンメルンの甲板上で、呪法少女アポリオンが頭を抑えてうずくまる。

「調整に無理があったみたいね。数億の昆虫と感覚を共有なんて」

「私は、俺は、なにが……。行かなきゃ。行かないと」

 頭の中がひっくり返った鍋のようにぐしゃぐしゃになり、嗚咽しながらぽたぽたと何種類かの退役を甲板にたらし、アポリオンは気を失った。

「撤退ね。これは」


 数匹のバッタが遊久音の元へ近づいてきて、彼女に呪法と魔法の力を与える。日柚知の頭を貫いている銃創がみるみる内になくなっていった。

「治ってる。目を覚まして……」

 日柚知は遊久音の呼びかけに答えることはなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ