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回る世界

 アメリカ特別軍事会議室で、陸海空軍と海兵隊、宇宙軍、沿岸警備隊のトップや国防長官を集めた会議が行われていた。

 「今回のフィリピンでの戦いで、国連軍の死傷者は321名、奴等の総力がわからないうちは決め難いが…ともかく、初期に比べて超獣への対応が確立されきているようだな」

「しかし、ファルコンはあれから変身も解けずに眠り続けている。G-MAXの使用データがとれなくなったことも空軍にとって大きな損失だ」

「捕虜にしたものから、善悪の区別のない原初の魔法の力で構成された世界が存在し、そこが奴らの本拠地であるという情報が入っている。詳しい状況は分からないが、地球と同じように地面が存在するらしい」

「しかし、人類の魔法機関を陸上で移動させることは困難だ。奴らは魔法の力で世界の壁を超える。それによって消耗することが理由で出現直後に仕留めることが最善な訳だが、それは相手にも適用される。現状攻勢に出ようとあっさり叩き潰されて終わるだろう」

「魔法は現在も進歩し続ける。人類は魔法への理解を深めなければいけないでしょう。どうです? 魔法少女や魔獣を集めて、いわば……魔法大会のようなものを開くのは」

「それは……ありだな」

「アリゾナ計画を進められる」

 

 強い陽光の光る2月の昼前、日柚知が散歩のついでになんとなく開けた郵便箱の中には、再び彼女宛ての手紙と大きな荷包みが入っていた。

「ファルコンさんの飛行機の、退役……」

 魔法少女マジカルファルコンが魔獣のクルーズと共に運用していた戦闘機F-22ラプター。激しい損傷によって修復できなくなり、彼女の希望によって機密事項に関する装備を取り外した後に、都内のある市の公園に飾られることになっていた。それを見に行ってほしいと、彼女の相棒からの手紙が届いていたのだ。

 包みの中は、国連特別魔法少女統括委員会からの手紙と大きな本だった。

「国連に、特別魔法少女として認められた……」

 日柚知は家に戻り、本を開く。国連から認められている魔法少女の情報がつらつらと写真を偶に含めながら載っていた。

「魔法の力は、相棒の魔獣が取り込んだ物の重さで書かれてる」

「俺は……2300トンか。下に1400トンの奴もいる。一位の奴は……20600トン……。ケートスとフッドのコンビか」

「ほんと、すごいよね」

 日柚知がページをめくる。魔法少女ブルタバのページだった。二人の魔法少女と三匹の魔獣と共に防寒着を着て山頂で撮られた写真が貼られている。

「ファルコンさんと……?」

「ここの下の所に名前があるな。マジカルプファイルだそうだ。こいつが1400トンらしい」

 ベボルの言葉を、日柚知は半分聞いていなかった。

「へぇ、仲よかったんだな……。私も良太郎くんと……」

 日柚知の頬が僅かに赤いことにベボルが気づく。

「そういう仲のよさじゃないとおも……」

 日柚知はあっという間にベボルを掴んで黙らせる。 

「友愛だから!」


 呪法少女の本拠地、マジカーレ世界の中の建造物の一つの中で、二人の少女が話していた。一人はガリバルディだ。

「捕虜に対する非人道的な扱いは禁止だ。分かっているな!キリング・ドグマ」

 キリング・ドグマと呼ばれたペスト医師の姿をしている呪法少女は、ガリバルディの言葉を嗤う。

「本当にやりたいことをさせてあげただけですよ。ディバイディング・ガリバルディ」

「そうか……。ならば、彼の所在を答えてもらおうか」

「それは出来かねますよ。戦場に出る人間が捕虜に関わることほど恐ろしいことはない」

「それもそうだな! では、お前の連れてきた呪法少女アポリオンの出所は!」

「そっちも秘密です。私たちの関係に余計な詮索はなしですよ」

 ドグマと呼ばれた呪法少女は、捕虜を監禁している部屋の方へと歩いて行った。それと入れ違いになるように、仕事を終えたアポリオンが歩いてくる。

「おい貴様……。肝が座っているな」

「なんですかー? こわいおねーさんとは話したくないです」

「ベネズエラに貴様を傭兵として売り込んだのは俺だ。そんな中で日本旅行を楽しんでくるとは……」

「はいはいはーい。わかりましたよー」

 アポリオンは、ガリバルディの叱責を無視してドグマの向かった方へと去っていった。


 重い金属で囲まれた部屋の中へ、アポリオンがこれまた重い扉を開けて入って行った。

「来ましたよ。ドグマ様」

 ドグマがその中にいる。

「よろしい」

 アポリオンはドグマの元に近づく途中で足を止めた。

「ここはどこだ?」

「……目覚めちゃったか~」

 目の前の少年がアポリオンと別物であることに気が付いたドグマは、マスクの中でサディストなりの喜びの表情を見せた。それは、蟻を押しつぶす無邪気な子供にも似て……。

「なんなんだよこの格好と……。俺は帰らないといけないのに。そうだ、俺を連れてきたガリバルディは?」

「うるさいなあ」

 ドグマがマスクを取る。しかしその顔を見る前に少年……良太郎の視界は真っ黒に染まった。彼は石像と化していたのだ。

「聴力だけは残してあげたからよく聞いて。……あの子の邪魔をすれば、あなたの物をなにもかも奪って、椅子にでもしてあげる」

(くそっ。なんなんだこれは……)(体は貰ったから、良太郎が欲しかったものも、貰うね)


 魔法少女には、本来やるべきことがある。町などに現れる魔獣の変異した怪物、怪獣を退治して人々を救うことだ。

「16式各車後退」

 町中の巨大な熊の怪獣から砲撃を終えた戦闘車三両が離れていく。怪獣はそれを追う。

「演習弾全弾命中。河川敷まで誘導する」

 土手の前まで戦闘車を追って来た怪獣が目にしたのは、自らと同じくらいの背丈の魔法少女が腕を組んで立っている姿だった。彼女の横にヘリも飛んでいる。

「体長は約25m、直立すると君より大きくなる。まずい状況だと判断したら我々も攻撃を開始する」

「わかった」

 彼女、魔法少女ウトトの両手にチアのポンポンが握られている。熊の怪獣は、ウトトに全速力で突っ込んだ。

「でーい!」

 ウトトはそれを飛び越え、ブレーキをかけてすっころんだ熊の後ろに立った。

「ポンポン光線!」

 ウトトのポンポンから光の縄が放たれ熊の怪獣がそれに巻き付かれた。ウトトは熊を高く放り投げる。

「ライトニングポンポン!」

 ウトトは落ちてきた熊にアッパーを合わせた。周囲に閃光が満ちる。それが収まった時には、熊はただの魔獣へと戻っていた。

 

 だいぶ獣臭の着いた手を、わずかな土埃の被った蛇口から出る冷水に当てながら、日柚知は空を眺めていた。

「うー冷たい。まったくもー」

「ほんと、すいません」

 檻に入れられ、頭を下げる熊がトラックに乗せられて連れていかれた。それと入れ違いに遊久音が大きなフクロウ、イリューシンに乗ってくる。

「変身!」

 遊久音の周りを光が包み、彼女は魔法少女ピース(14)に変身する。同じ名前の魔法少女は13人居たようだ。

「マジカル~……? 脱臭とか消臭って英語でなんていうの?」

 ピースがこそっとイリューシンに尋ねる。

「デオドラントじゃないか?」

「マジカルデオドラント!」

 光が日柚知を包み、彼女を苦しめていた臭いの粒子を消臭する。日柚知は、自身の手に顔を近づけた。

「……、消えた! ちょっとベボル確かめて」「確かに消えてる」

「やったね!」


 一方そのころ、北大西洋では魔法少女と呪法少女を主力とする史上初の海戦が行われていた。

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