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ディヴァイディング・ガリバルディ

「なあ、俺ら10日の戦いに行くんだろ? なんで6日からフィリピンに行くんだろうな」

 良太郎は、オレンジジュースを飲んだ。

「他の魔法少女と仲良くするんじゃないかな?」

 フィリピン海沖を飛ぶ旅客機に乗っていた良太郎と士が駄弁っている。

「ハイジャックとかないといいんだけどね」

 士がウーロン茶を口にする。

「そんなんあるわけないじゃん」

「この飛行機は私がハイジャックした!」

 機内に響く叫び声。

「もー、そんなこと言うから」

「どうする? ぶっ飛ばしに行く?」

「犠牲者がでるハイジャック事件なんて滅多にないから止めとこう」

「機内に二人の魔法少女がいるはずだ。出てこい! さもなくば操縦者を殺して墜落させる!」

 再び叫び声が響く。

「「変身!」」

 二人は迷わず変身して、機長室に向けて駆けだした。二人が開けようとする扉を、中の呪法少女が必死に閉める。

「早いって、ねえ、葛藤とかしようよ」

「墜落させるって言ったのお前だろ!」

(これ黙ってたら一人だと思わせられるな)

 扉の中で衝撃音が響き、あっさりと開いた。必然的に背後を取られる形となった呪法少女が背後から機長と副機長に殴られ、変身が解けて気絶してしまったのだ。金色のロングヘアと赤いガウンの青年期の少女が伸びている。

「まあ、そうなるか」

「待てりょう……ホッパー一号、こいつにも魔獣がいるはずじゃないか?」

「貨物扱いだろ。俺達と同じで」

 少女が目を覚ます。

「ふっ馬鹿め、私のヴォルカスは乗客の中に潜んでいる。私が合図を下せば、乗客に襲い掛かるだろう」

 彼女を抑えている初老の男、この飛行機の機長が彼女の両腕を掴んだまま立ち上がる。

「なら、合図を下さないように当便から降りてもらいますよ」 

 彼女は余裕のある笑みを浮かべ、呟く。

「すいません。本当は貨物扱いで載せました」

「なるほど、確かに魔獣が貨物扱いで三匹乗っているようだ。魔法少女がハイジャックとは…」

 機長の言葉は爆発音と衝撃にかき消された。

「うわーっ」

 機内の人々の体が浮いては落ちるを繰り返し、徐々に機体が時計回りに傾き始める。

「乗客の皆さん。シートベルトをつけてください。ほら君たちも席に戻って」

 バラバラバラバラという栄エンジンの音が機外から鳴り、窓の外にこの飛行機を襲った航空機の姿が現れる。

 特徴的な日の丸は緑に塗り潰されていたが、その姿は間違いなく。

「零戦!」

 誰かが叫んだ。その叫びは推進力のなくなった飛行機の滑空に巻き込まれ消えていく。乗客の一人が立ち上がる。まるでヨーロッパの適当な貴族の家からカーテンを引きちぎって仕立てたような奇妙で幻想的で整いのあるワンピースを着た金髪碧眼の彼女は右手を振り上げ、フリルにまみれた駄々甘い形状と漆黒という苦いカラーリングをした服装、それに似合う黒髪黒目に変化する。マジカルナギだ。

「お前、ナギってやつだな?」

 席に戻ろうとしていたホッパー一号が人差し指を彼女に向けて正しく使う。

「ほら、ハート。そんなふりはやめて」

 ハートと呼ばれた少女が立ち上がり、変身する。正確には元の人の姿に変身していたのを解除する。頭の両側から角が生え、上下赤いレザーのジャケットとパンツだ。

「高度は3000mを切ったようだ。一号、やるしかない」

「ああ、乗客の人たちもこの高度の気圧なら大丈夫なんだろ?」

 二人がこそこそと話す。四人の魔法少女は扉付近の僅かな空間に集まっていた。

「何をなさるつもりなのかしら?」

 ナギはフレイルを、ハートは両手に指貫のグローブを取り出して武装する。

「でい!」

 一号が扉を蹴り飛ばし、二号が機内の全ての魔法少女を手から糸を出して捕まえて外へと跳んだ。 

「なっ」「馬鹿なことを!」

 一号の背に翅が生え、大推力によって機の直上に魔法少女達を持ち上げる。四人は飛行機の上に着陸した。

「アバズーン。ガラクタを捨ててこっちへ」

 零戦からアバズーンと呼ばれたキリギリスの魔獣が分離し、彼女に合流する。

「お前が、ひ……ウトトを?」

「みたいだな、一号。ぶちのめすぞ」

「いいだろう。来い!」

「また私に箔がつく、素晴らしいことね」

 四人が構え、前方に飛び出す。ハートと二号が跳び、ハートは髪と角からエネルギーを放って飛行し、二号は糸で飛行機の周りを移動し、両者は飛行機の下に逆さに立った。

「これで合流できるな」

 ハートが床、というべきか飛行機の底面に手を突っ込み、三匹の魔獣を中から取り出す。

「俺達の魔獣まで……?」

「万全の相手に勝ってこそ勝利だ」

 ハートは二匹を放し、残った一匹の紫のカブトガニの魔獣を腕に融合させた。二匹の魔獣はそれぞれの契約者の元へ飛んで行った。

「行くぞ……」

 二号の背に蜘蛛の魔獣が融合し、彼は両腕を広げたファイティングポーズを取った。

「ああ……」

 ハートもまた、小手と剣が融合したような武器を構える。


「お前のせいだ! すっごい落ち込んでたんだぞ!」

「その言いぶり、やっぱり回復しちゃったのね。残念」

「とっとと倒させてもらう」

 一号の背にバッタの魔獣が融合し、ナギの背にキリギリスの魔獣が融合する。一号のブーツやコルセットが黒くなり、背に生えた翅が羽ばたきを加速して奇怪な音を放つ。また、顔とブーツに赤い無数の線が走った。

「元気ね」

 次の瞬間、一号はナギの視界から消えた。その速さが魔法の力によって強化されたナギの目の追従能力を上回ったのだ。

「へぇ、透明化かと思ったけどこれは…。私が体外に魔法を出して分身したり変身したりするのとは逆に、体内で魔法の力を循環させて運動する力に変換しているのね」

 ナギは、超高速の攻撃を分身と透明化で認識をかき乱してかわし続ける。バリバリと割れてはすぐに分身が現れる。

「ジベリー」

「行くわ」

 ジベリーの目は、通常の視覚ではわからない魔法の塊、透明化したナギを捉えた。

「どりゃあ!」

 ナギの胸元を目いっぱい蹴り飛ばす。

「うっ」

 彼女は飛行機の上を転がり、服のちりを払って立ち上がる。

「その程度で…」

 そう言いかけたナギの胸元に巨大な紅い杭が現れ、彼女の胸に刺さる。ナギは必死に杭を掴んで引き抜こうとするが、

「とどめだ」

 一号が飛び上がり、蹴りの体制を作ってナギに向けて突っ込む。

「させられない!」

 機の上に上がってきたハートが、手元の剣で杭を叩き割った。二号もそれを追って上がってくる。

「一号、こいつは強い」

 二号の顔やブーツの赤い線が消え、ブーツやコルセットの色が元に戻った。

「やるしかないみたいだ、半分力貸してくれ二号」

「勿論」

 一号と二号がリボンを解き、額の宝石を重ねる。周囲が莫大な光に包まれた。飛行機が着陸し、大きな揺れが彼らを襲った。

 二人の呪法少女が再び前を向いた時には、二人の魔法少女の特徴の混ざった魔法少女が立っていた。髪の毛の色が左右で銀と黒に分かれ、それ以外の服の色も左右で別になっている。

「一たす二で、三号だ……」

「面白そうだ……」

 ハートが、彼の方へ歩き出す。彼女も金色のオーラを纏い、角が紫に変化する。

「私は、お客さんの相手をするわ」

 ナギは、乗客を避難させ終えて到着したフィリピン軍の方を向く。

「世界最速と呼ばれたスコーピオン戦車が四両に、ベストセラーヘリのブラックホークが二機、きっとマークスマンもいるわね。時間稼ぎくらいは、させてもらいましょう」

 ナギは透明になり、偽物の自分をばら撒き始めた。

「撃て!」

 戦車砲の音が何度も鳴り響く。ハートと三号が飛び上がり、蹴りをぶつけ合った。ハートが吹っ飛び、空港の滑走路をバウンドしながら転がる。

「まだまだ!」

 ハートが立ち上がり、自分の方に飛んできた三号に目いっぱいの拳を叩きつける。それはわずかに火花をちらして止まった。そして、三号の反撃のストレートを受け止められずに再度吹っ飛ぶ。

「くっ」

 地面に倒れ込んだハートの目に、赤い戦闘機が映り込む。その後ろに、倍ほどもある二機の巨大な航空機もあった。

 両方真っ白の大日本帝国のジェット戦闘機橘花と、大戦時のドイツ国のジェット爆撃機ホルテンHo229が、F-22ラプターを追っている。

「ファルコンと、何だ?」

 229の両翼が下に折れ、翼端が割れ、機首が90度回転して下半身の形を作る。橘花が垂直に立つと機首が後ろに割れてバイザーを被ったような顔が出てくる、翼が根元から後ろに折れ、ハードポイントが露出した。229が爆弾のように腕を落とし、橘花がハードポイントでそれを回収して上半身になる。それらが合体して大きなロボットになった。

 ラプターの翼と機首が前方にずるりと抜けて機の腹に付き、残ったコックピット付近にモノアイの頭が残り、両腕が合体してエンジンが伸び、手足になる。

「飛行機を取り込むほどの魔法の力……」

「なるほど、アメリカのファルコンか。奴が明日の日の出を見ることはない……。むなしいことだ」

 赤い魔獣ロボット、クルーズの両手に魔法を纏った鋼刃を持つ長い軍刀が握られた。

「G-MAX SYSTEM ON」

 クルーズは赤い光の清流を流しながら音速で白いロボットの後ろに回り込み、両手の軍刀を振り下ろした。その剣戟は、宙に浮いた光の板によっていともたやすく受け止められた。

「このディヴァイディング・ガリバルディの前にはどんな名刀も、赤鰯だ」

「俺を忘れるなよ?」

「もちろんだヴァレリー。お前の搭載力があってのことだ」

 ヴァレリーと呼ばれた魔獣ロボットの背の翼に、無数の四角い蓋が生成される。

「まさか……」

 蓋が一斉に開き、ミサイルが大量に発射された。

「どこに収納してるんだそれ!」

 ミサイルの波はクルーズと三号を飲み込むためにそれぞれに誘導されていく。

「悪い、ハート」 

 三号はハートの影に隠れ、纏めて吹っ飛ばされて三人は変身を解除される。

「なんて火力だ……」

 G-MAXの超加速でミサイルの性能以上の動きをして誘導を回避し、ついでのように軍刀でナギを叩き切る。 

 しかし、ミサイルの雨は止むことなく、何度誘導を切ろうともクルーズ達に向けて放たれ続ける。

 そして、その雨を突っ切ってクルーズ以上の加速でヴァレリーが魔法のバリアを纏った体当たりを彼らに当てた。

 クルーズは吹き飛び、滑走路にあった飛行機の一つに突っ込んで動きを止めた。コックピット内に血のしぶきが飛ぶ。

「ぐっ、ごはっ!」

「ファルコンだめだ、もたない」

 G-MAXの副作用は、魔法少女であっても受け続ければ変身解除の過程を経ることなく命を奪われる。そして、彼女の魔法少女としての体も、限界に近かった。

「ハート! ナギ! 貴様らはそれだからプログレッシブ・ナンバーがないのだ! だが説教は後にしてやる。まずは、お前たちを回収してからだ」

「無駄に指示を出して……魔法少女がいなければ脅威でないと考えているようだ。考え直させてやる!」

 フィリピン軍の大砲やロケットの攻撃がヴァレリーに集中する。それらは、ヴァレリーの透明なバリアーを通ることも砕くこともない。

「榴弾砲の到着はまだか」

「あと五分はかかります」

 地の果てを揺らすような航空機のエンジン音が鳴り、エクラノプランが彼らの元へやってくる。先ほど戦いを終えた魔法少女を乗せて。

「いい出力の魔法少女がいるな! 才能だけはある奴の死に方を今から見せてやる、ナギ、ハート、見ておけ!」

 エクラノプランから日柚知が飛び出し、身長60mはあるかという魔法少女ウトトに変身する。エクラノプランの上に紫電が乗り出し、ヴァレリーに斬撃を飛ばす。

「中途半端な才能とは、完全な努力と僅かの才能に追い抜かれるものだ」 

 ヴァレリーの周囲のバリアが輝きと大きさを増し、ウトトと同等ほどに巨大なヴァレリーの姿を形作る。

「ベボル、やるよ」

 ベボルはウトトの片手サイズのメイスに変化する。彼女は躊躇なくそれをヴァレリーの頭に振り下ろした。

「呪法も魔法も共に、想像力と感情が元になる。足りんな」

 ヴァレリーは一歩も動かず、胸から呪法の光線を放ってメイスを持ったウトトの右腕を切り落とした。

「うぐ、っ」

 痛みに呻きながらも、ウトトは左腕に光の刃を纏わせ巨大なヴァレリーを袈裟切りにした。呪法と魔法の力のぶつかりが、太陽の明かりが月明かりになるほどの光となって周囲を包む。

「ウトト! まだおわりじゃない!」 

 紫電が慌てて光の中心に飛び込む。次の瞬間光は収まり、左腕が飛んだ元の大きさのヴァレリーが、消えゆく光の鎧の中から呪法の光を放ちウトトの胸を貫いた。

 数瞬遅れ、紫電が光の鎧を踏み台にして飛び上がり、鎧の中のヴァレリーを胴体から上下に叩き切る。

 たちまち光の鎧が消えゆきながら呪法の力を紫電に放ち、紫電は空中で体をバラバラにされる。変身解除した魔法少女だったものを、エクラノプランが無理やり高い空を飛んで回収し、地面と擦れるやかましい音を立てて着陸した。

「私、生きてる……?」

 日柚知が、動きの止まりかかったヴァレリーを見ながら呟いた。

「少なくとも俺は生きている!」

 ヴァレリーは体勢を立て直し、エクラノプランやヘリからの機銃を受けながらファルコンに向けて呪法の光を照射する体勢を取った。


「ファルコンさん!」

 目を覚ました良太郎が状況を完全に飲み込めないまま叫ぶ!


 次の瞬間、ヴァレリーが爆発に包まれた。周囲の人々の元へ、爆発音の後から弾丸が風を切っていた音が届く。

「着弾しました」

 戦艦アイオワの艦上で、乗組員たちが胸を撫でおろす。

「全く、間に合ってよかったよ」

 先ほど発射されたばかりの主砲から、煙が漂っていた。


 ヴァレリーの跡は、ほとんど残っていなかった。二機の飛行機やまだ残存していたであろうミサイルどころか呪法少女と魔獣のかけらもない。

「なんだこれは……BFTにITV……戦車用の通信装備やカメラの残骸だと?」

 魔法少女ルーニが、残骸を見て呟く。

「まさか、今のはただの分身だというのか、ベルゴロド、MiG-27を出せ」

 エクラノプランだった魔獣がすらっとした迷彩模様の戦闘機、MiG-27に変身する。

「がたがたの滑走路だが、飛んでやる!」

 ミグが離陸した。


 戦艦アイオワの上空に、真っ黒い巨大な呪法のひずみが現れる。

「敵機直上!」

 全ての副砲を外して取り付けられた垂直ミサイル発射システムが作動し、真上のひずみに大量のミサイルが飛び込む。

 爆炎の中から、二機の飛行機が現れた。橘花と229だ。229が橘花の下部に合体し、急降下しながら爆弾槽を開放して大量の小さな爆弾を投下する。

「あれは、B-2とシュヴァルベか!」

「見とる場合か、艦後方の人員を退避させろ!」

 アイオワの後方にある三番砲塔付近に無数の爆弾が降り注いだ。

「アイオワ級……。弾頭が通常とも限らん、無駄な攻撃はよすか」

 ヴァレリーはアイオワの上を飛び去り、音速を超えた時の爆音を発して飛行機の魔法少女達のいるカガヤン・ノース空港に向かっていた。

「やらせるものか」 

 ヴァレリーを追うようにミグが現れる。ヴァレリーは合体部分の接合部を伸ばし、機首を持ち上げて減速することでミグの背後を取った。ミグは翼を開き、機首を垂直に上げるコブラ機動によってヴァレリーの真上についた。

「貴様とは武装が違う、粉々になれ!」

 橘花の翼に蓋が付き、大量のミサイルが真上に放たれる。

「当たるか!」

 回転し上下しながら、無数のロケットをミグは躱し、ヴァレリーの後ろにつく。しかし、ミグの機銃は呪法のバリアの前では無力だった。

「いかに貴様との力の差があろうと、前方に力を集中すれば……」

 ミグの中のルーニが魔法の力を自身の前に展開し、戦闘機の推力との合わせ技で強引にゆっくりとバリアを貫いた。機銃が229の左翼をバラバラに解体する。

「馬鹿なことを!」

 橘花と229が一時的に分離し、間にミグを挟む。ミグの窓が割れ、エンジンがひしゃげて押しつぶされていく。

「私は……ここで……?」

 ガラスが降り、ベイルアウトの機構がめちゃめちゃになったコックピット内で、ルーニは呟いた。

「すまない、ルーニ」

 ベルゴルドは悲し気に彼女へ囁いた。次の瞬間、戦闘機が爆発して吹っ飛んだ。橘花の残骸がバラバラになり、白から緑の塗装に戻って大地に降り注ぐ。

「一度変身解除されてから再び変身するとはいい根性だな、ウトト! いいだろう、それに見合った力で殺してくれる!」

 229が変形し、大破したミグを捨てて巨大な艦を取り出す。第一次大戦で沈んだ巡洋戦艦リュッツオウを改造して作られた陸上呪法戦艦、229はそれに変貌したのだ。

「こんなもの!」

 ウトトは戦艦の横を走り、左手に持ったベボルの剣でマストと煙突と低い艦橋をまるで高級な芝刈り機か髭剃りがやるように高さを整えた。

 すぐに戦艦は艦砲射撃でウトトの変身を解除させ、地面に突っ伏させた。

「ヴァレリー、アイオワの対応をしておけ」

 アイオワの主砲弾が飛んできては、リュッツオウの主砲弾の爆発に巻き込まれて消えていく。その中で、ガリバルディは倒れた仲間の回収に向かった。

 煌びやかな装飾の黒いジャケット、赤いワンピースタイプのシャツ、白いエプロン、赤い巻きスカート。黒い目、ポニーテールの黒い髪。そんな姿のガリバルディに、あらゆる攻撃が通用しない。ロケット、ミサイル、大砲、機関銃。そのすべてが彼女の生み出すバリアに防がれる。

「F-22ラプターに搭載された試作魔法少女強化システムG-MAXか。いい勉強になった」

 ガリバルディを中心に、巨大な呪法の光波が放たれる。

「総員、何かの影に隠れろ!」

 戦車付近にいたものはその後ろに身を隠し、ヘリの中の者は伏せ、各々が思うように呪法の光波を避ける。躱しきれなかった者は、強制的に脳の処理能力に干渉され、頭の中を焼かれた。そして、僅かな反射光が、遮蔽物の後ろにいたものにも影響を与える。

「済まない、正々堂々とした勝負が出来なかった詫びだ」

「やめろ、ハート!」

 呪法少女ハートだった少女が、遮蔽物のない場所にいる士と良太郎を庇い、鼻や耳から血が垂れる。

「起きろ、ファルコン、起きろ! 何かに隠れないと……」

 魔法少女ファルコンもその光の濁流に飲まれる。光が収まった時、立っている者はガリバルディだけだった。

「ナギ、お前は歩けるだろう。自力でヴァレリーに乗れ」

「はーい」

 飛行機の中に隠れていたナギが戦艦の元へ歩いていく。

「おいそこの魔法少女、ホッパーの一といったか、お前も動けるだろう。ハートを連れてこい。この場の人間を皆殺しにするのは時間がかかる」

「……わかった」

 良太郎は、気を失ったハートを背負って戦艦に乗ろうとするガリバルディの後ろを歩かされた。

「よし、ここからは貴様が運ぶ必要はない」

 ヴァレリーの艦上からアームが伸びて、ハートを回収する。そのアームは、次に倒れた日柚知のほうへ動いた。

「待てよ」

 良太郎がアームを掴む。

「俺じゃ駄目か?」

 ガリバルディがそれを見て良太郎の前へ飛び降りた。

「お前は彼女に達していない」

「……達してるさ。証明してやるよ」

 良太郎が変身しようとしたところで、ガリバルディが彼の腕を掴んだ。

「気に入った。根性と度胸のないやつは才能があろうと死ぬ。そこで狸寝入りするようなな!」

 ガリバルディが軍刀を背から取り出して投げ、倒れた日柚知の腕に突き刺さる。

「ぎゃ!」

「なんてことを……」

「怖気づいたか、お友達の危機なのに」

 ガリバルディは良太郎を連れて戦艦に乗り、魔法のひずみと共に姿を消した。

 


 日柚知は結局、そこから動くことは出来なかった。魔法少女の体を二度も破壊され、落下したことによる疲労と打撲によるものだったが彼女が恐怖を抱いていたことも事実であったのだ。

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