第二の人生の始まり
いつからだろうか、生きている事に何も感じなくなってしまったのは。生活の為に仕事をして、仕事の為に生活をする。そんな日々の繰り返し。
彼女もいなければ、親友と呼べるようなダチもいない。
俺の名前は二宮 京介37歳サラリーマン。そして独身。俺以外の家族はみんな田舎で伸び伸びと暮らしている。
こんな田舎なんておさらばだ!なんて意気揚々と都会に飛び出した事を今では若干後悔している。
今も二時間にも及ぶ残業を終え、職場を出て駅まで歩いている最中だ。
「今月ももうあと三日か…、はぁ〜。」
無情にもただただ過ぎてゆく時間に大きく溜息をついた。
こんな生活が一生続くくらないら、いっそ今の会社辞めてやろうか。なんてな。そんな事出来るわけが無い。今更また新しい仕事を覚えるなんてそれこそ真っ平御免だ。
そう、これからもこの会社で平凡な日々を永遠に…
「「キャー!!」」
誰かが叫んでいる。一体何事だ?
「…え?」
猛スピードの車が歩道に向かって…いや俺に向かって突っ込んできている。いやいやいや、有り得ないでしょ。だってここ歩道だし、なんなら人歩いてるよ!?絶賛俺が歩いてますけど!?
混乱する頭で唯一口に出た言葉「…何で?」
その次の瞬間大きな衝撃音と共に俺の意識は無くなっていた。
「…」
「…おーい」
誰かが俺に声をかけている。あれ、俺轢かれたよな…?
生きてたのか?
「おーいってば!」
大きくなる声と共に頬をピシピシと叩かれていることに気づく。こちとら怪我人だぞ!なんて内心思いながらも瞼を開くと、そこには一人の女性が立っていた。
「あっ!やっと気づいた?おはよ!」
随分と軽いノリである。それに服装が看護師や医者のそれとは全く違う。例えるならば巫女さんに近い様な…でもそれにしては露出も多いし、派手な様な…。
視界を見渡す限り、この場所自体現実離れな景色だった。物質と呼ばれるものは何一つ見当たらない。影すら無い真っ白の空間がどこまでも続いているのだ。
ここが病院では無い事だけは確信した俺はとりあえず起き上がろうとした。不思議と身体に痛みは一切なく、なんなら上機嫌にステップを踏めるくらいに軽くなっている。
軽く感動しながら再び目の前の女性に目を向ける。
長い黒髪は目を引くほど美しく。
透き通った白い肌。
整った顔立ち。スタイル。
どこをとってもアイドルや女優に引けを取らない。
しばらく呆気に取られていると、
「どうだい?嘘みたいに元気でしょ?」
何故か自慢げにニヤついている。もしかして俺の怪我は彼女が治してくれたのだろうか。
だとしたら彼女は一体?
それにここは?
まず俺はどうなったんだ?
落ち着いて頭の中を整理する。
「初めまして、君が俺を助けてくれたのかな、だとしたらありがとう。」
まずは助けて貰ったのならお礼は言うべきだろう。
「ステラ。私の名前はステラ。」
自己紹介と共に優しく微笑んだステラはとても美しかった。
さて、本番に入ろうか。とステラは表情を改める。
君も聞きたい事が沢山あるだろう?と言わんばかりにこちらに視線を向ける。
そうだ。まず俺は一体どうなったのか、車に轢かれた怪我が一瞬で治るなんて有り得ない。それにここは?彼女は?
現状把握をするには必要な情報があまりにも多い。
そう、まるで入社したての右も左も分からなかった頃を思い出させる様な…嫌なことを思い出すのはやめよう。
そして色々考えたが、一つ目の質問はこれしか無いだろう。
「まずは自分が本当はどうなったのかを知りたい。」
意を決した質問だ。実際、本当はあなたもう死んでます。なんて言われても全くおかしくない状況だし。
せめて受け入れやすいような返答をしてくれる事を期待して…。
「ちゃんともう死んでるよ?」
…うん。とても分かりやすい一言だ。なるほど。
ってなるかァァ!!あまりにも直球過ぎるだろ!
その一言で はいそうですか。って納得出来るわけないでしょ!!
心の中でステラにツッコミを入れまくった。声にはならないツッコミを。