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最後の女王クランベル~断罪王妃は草食系執事に愛される~  作者: 朝比奈呈
◇死んだことにされて辺境領に身を潜めることになりました
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9話・伯父の妻子を騙っていた者たち


 クランベルの父には兄が一人いた。本来ならその兄が跡継ぎだったのに、その兄は放蕩者で若い頃に家を飛び出し帰って来なくなった。両親は兄に後を継がせることを諦めて勘当し、次男であり父の商談にもついて回っていた、商才のあるクランベルの父を跡継ぎに据えた。


 それから何十年か経ち、クランベルが十歳になった頃、その伯父が亡くなったと知らせが入った。伯父は冒険者をしていたらしく、あるギルドの依頼で魔獣狩りに向かって命を落としたらしかった。遺体が帰ってきて、葬儀を執り行っていると、その場に伯父の妻だという女性と娘が現れた。


 伯父の妻を名乗る女性の話では、伯父は獣人国エルドで、番の女性と出会い、婚姻していたらしい。女性には連れ子がいた。母親に良く似た銀髪に深緑色の瞳をした美しい少女。バンと同じく13歳だと言う彼女は、大人の前では寡黙だったが、年下のクランベルの前では辛辣だった。


「あんたってどんくさい」

「見ていてイライラするわ」

「なんであんたみたいなのが、ここのお嬢さまなの? 本当ならあたしがここのお嬢さまになるはずだったんじゃない? バンだってあたしに仕えていたはずよ」

「そのほうが彼にとっても幸せだったかもね。だってあたしの方が綺麗で可愛いもの。あたしに譲りなさいよ」


 等と言い、馬鹿にした。要因としては、クランベルが連れているバンに一目惚れしたらしく、バンには優しい言葉をかけ言い寄っていたが、全く相手にされなかったようだ。そのせいもあってか、バンの主人であるクランベルに八つ当たりしていたのだ。その事を知って尚更、バンには嫌われていたが、そこには気がつかないようだった。


 葬儀の後、伯父の妻と娘らは何やら一悶着あったようで祖父母らの機嫌を損ねたらしく、数日後娘共々屋敷から追い出されていた。


「そう言えば、あの亡くなった伯父さまの奥さんと娘さんのことを覚えている? ミーシャ」

「ああ。あの失礼な母娘ですか? 自分達はこの屋敷の後継者の妻と娘なのだから、財産の半分はもらう権利があるとか言っていた?」


「そんなこと言っていたの?」


「はい。しかも私達に自分達はいずれこの屋敷の主人となるのだから敬いなさいと、訳の分からないことをほざいていましたし。それを耳にした大旦那さまが激怒なさるのも当然で、追い出されたのですよ」


「いま、あの人達はどうしているかしらね?」


「さあ? しぶとく生きているんじゃないですか? さっさとくたばっていて欲しいですけど」

「ミーシャったら辛口ね」


 ミーシャは、彼女の事を相当嫌っていたようだ。思い出しただけで憤慨している。当時、ミーシャは侍女見習いとしてクランベル付きになっていたから、伯父の連れ子がクランベルに対して失礼な態度を取っていた事を知っている。こんな風に嫌うのも当然なのかもしれなかった。

 シートの用意が出来ると、バンがやってきた。


「ベルさま。用意が調いました」

「ありがとう。バン。じゃあ、みんな手を繋いで大きな輪になって」


 子供達に声をかけると、皆でシートの上で両手を繋ぎ大きな輪が出来た。そのまま座らせて食事を取らせることにした。

 皆、子供達はシートの上で、ブルアンお手製のサンドイッチ入りのお弁当を出して食べ始めた。それを眺めつつ、バンやミーシャと少し離れた所に、大人達用のシートを敷いて食事にすることにした。


「ベルさま。お茶をどうぞ」

「ありがとう。バン」

「先ほどはミーシャと何のお話をされていたのですか?」


 楽しそうでしたが。と、聞かれる。バンは結構、耳が良い。小声で話していたとしても聞こえているぐらいだ。ミーシャが肩をすくめる。


「バン。分かっていて聞いているんじゃないの?」

「いいえ。内容までは分かりませんが?」

「以前、旦那さまのお兄さまの葬儀に現れた母娘がいたでしょう?」

「ああ。アメデオさまの妻を語っていた女とその娘ですか?」

「そうそう。その嘘つき達」


 ミーシャがサンドイッチに豪快にかぶりつく。バンが思い出したように言った。伯父の名前はアメデオと言った。


「嘘つきだなんて」

「あの女達、アメデオさまが亡くなっているのを良い事に、妻や娘だなんて言っていましたけど、あれは嘘だったらしいですよ」

「そうなの?」

「旦那さま達が調べないはずないじゃないですか。あの女達は怪しかったですから。アメデオさまがミデッチ家の長男だったとどこからか聞きつけて来たんでしょうね」

「確かにアメデオさまは、どちらかといえば家庭に落ち着くような性格の持ち主じゃなかったですしね」


 ミーシャの説明にバンは頷く。クランベルは今更ながら知った事実に驚いた。あの伯父の妻を名乗っていた女性は、嘘をついていたと言うことらしい。

 ミーシャ達はすぐにバレるような嘘をつくなんて、ミデッチ家を馬鹿にしているとでも言いたそうだった。


「あいつらはサギですからね。巧妙に嘘をつく」

「とんでもない種族ですよ」


 不快そうに言うバンに、ミーシャが追従する。


「それって種族関係あるの?」

「まあ、気をつけるに越したことはありませんよ。ベルさま。また会うとも限りませんから」


 苦笑を漏らすとバンが注意を促してきた。ミーシャが笑いながら腕をさする。


「いやだ。ここはイモーレルなのに。帝国ならまだしも。海越えてここまであの羽虫がやってくるとでも? こわい、こわい」


 それを見てクランベルはバンと苦笑いをした。まさかこれが何かの予兆だったとは思いもしないで。



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