天啓の儀
よろしくお願いします。
天啓の儀、12歳になった子供へ、成長をお祝いした儀式である。そして、この世界において重要な役割を担っている。というのも、この儀式を通じて、神様から職業を授けていただくからだ。
この世界では経験によってレベルを上げ、筋力や魔力などのパラメータを強くしていく。また特定の行動から経験を得ることで、レベルの他にスキルを会得、育てることができる。
スキルには育ちやすさを表す適正ランクなるものが存在し、ランクが高ければ高いほどそのスキルはレベルを上げやすい。そしてこの適正ランクは、職業によって上げることができる。
職業は授かることで、関連するスキルの適正を上昇、対応するパラメータ上昇の効果がある。また、この職業にはレベルがあり、レベルを上げることでその職業固有のスキル、通称ギフトを得ることができる。(ちなみに、天啓の儀を済まさない限り、どんなに経験値を得てもレベルは上がらず、スキルの適正もほとんど最低ランクとなっているため、スキルの経験値はほとんど得ることができない。しかし、パラメータの知力だけは通常通りに経験値による上昇が可能であるため、6歳から11歳の誕生日までは学校で勉強を行う義務教育制度がある。)
まとめると、強さに直結するスキルをより強く育てるために天啓の儀はとても重要な儀式である、という感じだ。
そんなことを考えながら、俺は儀式用の服を着て、天啓の儀が行われる祭儀場へと向かった。
祭儀場に着くと、小柄で可愛らしい神官が1人立っていた。
この人はベル アースガルド、アースガルド教会の神官様である。この世界では、ほぼ全ての人型種族がアースガルド教を信仰している。そのアースガルド教会では、高位の神官にアースガルドの名を与える。つまり、この神官様はめっちゃ偉い人なのだ。それも当然この人、外見はアレだが年齢は100を超えており、ヒト族の中では圧倒的な年長だ。そのため、アースガルド教会の中では教皇に次ぐ権力を持った人がこの村で学校の教師をしている。
しかし、見た目は7歳前後の小さな女の子である。そう!俗に言うロリババアであり、なんともあどけない見た目をしているが、高位の神官だけあって、知識は豊富だし、回復魔法はさらにやばい。一瞬で大怪我を治した時は本当に驚いた。
ではなぜこんなすごい人がこの辺鄙な村に来ているかといえば、神託で勇者の適職を持つ者がこの村にいるかららしい。そして、昨日、その勇者が判明したため、今日俺の儀式を済ますと、その勇者を連れて教会の本部に帰るとのこと。ちょっと悲しい。
「おお〜、ナイト君。時間通りに来るとは珍しいです。流石に神様と面会する場では遅れませんでしたか」
・・・訂正、いつもいじってきたうるさい先生にもうこんな小言も聞けなくなるのかと少しでも哀愁を感じた俺が馬鹿だった。俺の大事な儀式にも関わらずいじってくるなんて、仕返しをしてやる!
「へっ、先生の意地悪。俺、親の手伝いがあるから遅れるのわかってるくせに、いっつもからかってきて。だから! その年になっても! 結婚できないんだよ!」
「な!? 子供を揶揄うのは大人の特権です。それに私はアースガルド様に全てを捧げると誓っています。どこぞの男に貞操なんて奪われてなるものですか」
・・・ハッ、何が全てを捧げるだ。アースガルド様は確か夫のエースガルド様がいるはずなので、神官が純潔を守る義務はない。ただの言い訳である。
俺が訝しげな目で睨むと、その視線を避けるかのように神官様は咳払いをした。
「オッホン。そんなことはどうでもいいのです。今日の主役はナイト、アナタです。では儀式を始めますよ! 膝をついて神に祈ってください」
さっきまでの感情を落ち着かせ、指示の通りに膝をつき、両手の指を絡めて強く握りしめた。
「ではいきます。天啓」
その言葉と共に、目の前が真っ暗になった。その後、とても優しい声が聞こえてきた。
「ナイト、冒険者の息子で転生者よ。汝の最も適する職業は農民である。我が願いはそのまま健やかに農民としての道を歩んでほしい。しかし、ナイトは厳しい道を選ぶであろう。よって再考する。汝の職業は軽業師である。より良い人生を送れることを願おう」
この言葉を最後に、俺の意識は現実へと引き戻された。周りの景色を見ると、儀式の前はまだ朝日だった太陽が既に天高く昇っていた。
・・・え? なんか俺職業変わったんだけど。最初の適する職業が農民は分かる。職業って神様がその人の一番適正のある職業を授けてくれると考えらている。あれだけ努力した戦闘の技術はあまり成長しなかったのに、農作業の技術は片手間でどんどん成長していってたもんな。精神年齢20歳だけど、ちょっと泣きそう。
「ナイト、無事儀式は終わりましたね。まさか勇者よりも長い時間天啓を受けるとは思いませんでしたが、これもまた運命ですかね。ではまずステータスを開いてください。これは学校で教えた通りですよ」
そう言われ、俺は心の中でステータスと呪文を唱えた。
すると、目の前にゲームでのメニュー画面のようなものが出現した。なるほど、これがステータス画面か。学校で習った通りだな。
ステータス
名前 ナイト(田中蓮)
年齢 12
適職 農民(軽業師)
職業 未定
種族 ヒト族(マーレ人)
パラメータ
レベル1
筋力 13 速力 15 体力 14
気力 9 魔力 6 感力 12
ギフト 自己鑑定
スキル
短剣1 ファストスラッシュ 筋力2
農具3 農具劣化速度微減少 技力5
気力操作1 気力回復量微増加 気力1
言語理解3 言語スキル経験値微増加 知力5
アースガルド共通語3 知力3
知識1 知力2
計算1 知力1
思考1 知力1
解体1 速力1
農作業3 栽培作物品質微増加 体力5
呼吸1 体力1
歩行1 速力1
走行1 速力1
就寝1 体力1
食事1 感力1
称号 異世界転生 異世界知識 勇者の友 アースガルドの加護
待って!? 何でこんなにスキルが多いの? 天啓の儀を受ける前はスキルの適正ランクはほとんど全て最低ランクで、スキルが5個以上あればそこそこ優秀、8個以上で天才だったはずだが、15個!?
もしかして俺の時代来ますか!? と思ったが、俺が欲しい戦闘スキルが短剣と気力操作しかない。ほんと、つくづく戦闘の才能がないと実感させられる。
称号もおかしい。百歩譲って、前世の記憶から異世界の名がつく称号はわかるが、アースガルドの加護って、これさっきの神様が加護をくれたってことか? 一体なぜ? と思って詳細が知りたいと考えると、アースガルドの加護に関する情報が出てきた。
・アースガルドの加護
アースガルドが与える加護を持つものに贈られる称号
光魔法に関するスキルの適正が上昇する。
・・・ヘッ!? なんで詳細が見れるの!?
確か、天啓の儀では簡易自己鑑定をもらえるため、それで自分のステータスが見れるようになるはずなのだが。
あ、ギフトのところ、自己鑑定になってる。え? なんで?
先ほどのように自己鑑定の詳細を見ようとしたが、これは見ることができなかった。他の欄も同じように試したが、称号以外は何も見えなかった。
だが色々試したおかげで自己鑑定を持ってる理由、こんなにも多くのスキルを持つ理由もわかった。これを話す前に称号の詳細をについて話そう。
・異世界転生
異世界から転生したものに贈られる称号
全てのスキルの適正値を上昇する。
・異世界知識
異世界の知識を一定以上持ってるものに贈られる称号
ギフト自己鑑定の習得
・勇者の友
勇者の友に贈られる称号
戦闘スキルの適正値が上昇する。
これでわかる人もいるとおもうが、異世界転生の称号は全てのスキルの適正値を上げるらしい。この効果であんなに多くのスキルを得たっぽい。しかし、なぜ戦闘スキルがこんなにも少ないのだろう。勇者の友の効果でより適正値が上がってるはずなのに。
パラメータに関しては納得だな。儀式を終えた直後のパラメータはどれも平均10であるが、他の人より身体能力が高かった俺の体を考えると、スキルの異常さに比べれば全然普通である。天才は大体どこかのパラメータが15を越してる。
しかし、やっぱ気力と魔力は低いか、この二つのパラメータは戦いにおいては超重要である。農民が適職なのも当然だな。農民は筋力、速力、体力に補正がかかる。まさに農民に愛されしパラメータをしてるよ。
「さて、そろそろステータスの確認は終わりましたか?学校でも教えましたが、ステータスは親しき人以外には教えてはいけませんよ。ですが、この天啓の儀においては例外です。この場で話したことを私は他の場で話す権利がありません。神官が助言を行うことは稀です。特に私のような高位の神官からの助言は貴重です。さあ、何なりとご質問ください!」
ほんとこの人は残念だな、実力は確かなのに性格に難がありすぎる。
さて、何を聞こうか? 自己鑑定のおかげで特に聞きたい事もないんだが。
確か適職は一つが原則だったはずだが、二つあることについて聞くか? ある程度推測は立てられているが、聞くだけタダだし聞こうか。性格は残念だが、知識は確かなものだ。この人がわからなければ、この世界でわかる人はほとんどいないだろう。
「農民が適職で、その横に括弧で軽業師の適性も出たんだけど、二つも適職が出ることはある?」
「ふむ、適職が二つ出ることは稀にあります。しかし、その場合に括弧内に記載される適職は、その職業に関連するスキルのの適性が高いと言う意味での適職ではありません。ナイトが適職以外の道に進んだ際、訪れる試練を乗り越える可能性が最も高い職業のことを指します。・・・やはり貴方は勇者と共に魔王を倒すのですか?」
なんだよ、周りの大人は全てお見通しってわけか。
「うんそうだよ。それにあいつは魔王を倒すような性格はしていない。この村で俺たちと幸せに暮らすべきなんだ。けど、それができないことも分かってる。変えようもない運命だってことも。
だからってさ、このまま引き下がっていられるほど俺は甘くない。小さい時からあいつの前に立っていじめっ子から守ってきたは俺だ! そこらへんの戦士なんかに前を守る役目を譲ってたまるか! 」
そう、これは前世の記憶が蘇る前のナイトの本心だ。
この気持ちを理解するには、2年前のある出来事から遡る必要がある。
お読みくださいありがとうございます!
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